ごめんてっばー!

パンダを見た後、僕と奏さんはペンギンを見に来ていた。

沢山のペンギンがよちよちと歩いていたり、気持ち良さそうに泳いでいた。


「皆、可愛いなー」


僕が、「そうですね」と言おうと口を開きかけた瞬間だった。


「おねーちゃん、あっちの子もかわいいよ!」


少し舌足らずな声が隣から聞こえて来た。

横を見ると、三、四歳位だろうか、小さな女の子がペンギンを指差しながらこちらを見ていた。

その奥では、女の子の親だと思われる女性がこちらを見て微笑んでいた。

奏さんは一瞬驚いたが、その後、すぐに女の子に微笑んで見せ、しゃがみ込んで女の子に視線を合わせた。


「そうだね、可愛いね!」


反応があった事が嬉しかったからか、女の子は、「うん!」と言って笑うと、すぐに別のペンギンを指差して、「あの子は泳ぐのが、すごく速いんだよ!」と楽しそうに奏さんに話し掛ける。


奏さんは、「本当だ、速いねー!」と言って女の子と二人で笑い合っていた。

隣で見ているとまるで親子のようで見ていて微笑ましくなる。


「デートの邪魔をしてしまってごめんなさいね」


僕が手持ち無沙汰にしているも思ったのか、女の子の母親が話しかけて来た。


「いえ、全然大丈夫ですよ」


「それなら、良かった。それにしても可愛い彼女さんね?」


女の子の母親は世間話のつもりで軽い気持ちで口にしたのだろう。

しかし、僕はどう答えたものか、悩んだ。

その時、先程の奏さんとお爺さんのやり取りでお爺さんに、カップルと言われても特に否定しなかった奏さんの姿を思い出した。

確かにわざわざ否定するものでもないだろう、と思った僕は、「そうですね」と短く答えた。


やがて、女の子の母親が、「そろそろ行くわよ」と伝えると、奏さんに、「おねーちゃん、バイバイ」と手を振って去って行った。


「あの子、可愛かったな〜」


「奏さん、すぐ仲良くなっていましたしね。子どもの相手、上手ですね」


「子ども好きだからね!」


そう答えると、奏さんは僕の方を見てニヤリと笑う。


「そんな事を言ったら、透君はあの子のお母さんと仲良く話してたよね? 年上の相手、上手ですね」


奏さんは似てない僕の物真似でからかってくる。

何も言わない僕を見て、奏さんはさらに言葉を続ける。


「もしかして透君は年上好き?」


「そんな事はないですよ。今のも向こうから話しかけてきただけですよ」


僕が言うと奏さんは自分を指差した。


「え?じゃあ、私は?」


その質問に僕は上手い返しが見つけられなかった。


「……その質問はずるいです」


今度は僕がムスッとすると奏さんは慌てて口を開いた。


「ごめん、ごめん。からかい過ぎた」


奏さんが慌てている姿が可愛くて、僕はつい不機嫌そうな顔をして演技をした。


しばらく声を掛けても機嫌が治らない僕に焦りが最高潮に達したのか、「ごめんてっばー!」と奏さんの声が響き渡るのだった。



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