素敵な写真

その後、僕達は昼食を取る為にレストランに移動していた。


ちなみに奏さんはムスッとしていて、未だに不機嫌だ。


「……奏さん、何食べます?」


「……うどん」


まだ言葉を返してくれるだけましだと思い、僕は注文をする為に立ち上がった。


僕の分も合わせて、二人分のうどんを持って席に戻ると、奏さんと手を合わせて、「いただきます」と言って食事を開始した。


沈黙が辛く、僕は色々と話し掛けたが、どれも無反応で奏さんは黙々と食事を進めている。

どうしたものか、と考えていると一つ案が思い浮かんだ。


「奏さん、次は楽しみにしていたパンダが見れますよ。行きませんか?」


僕の言葉に奏さんは、「えっ!」と言って笑顔を見せた。

しかし、次の瞬間、思い出したかのようにムスッとした表情に戻ると小さな声で、「行く」と口にした。


食べた皿を片付け、「行きましょうか」と声を掛けると、奏さんは僕の方に手を差し伸べ、「……エスコートは?」と小さな声で言った。


僕はそんな奏さんを見て頬が緩むのを必死で堪えると、「お手をどうぞ」と手を差し伸べた。


「うん」と先程より明るい声で言うと奏さんは僕の手をギュッと握った。


「わぁ、パンダだ可愛い!」


奏さんの機嫌はパンダを見た途端に良くなり、今は上機嫌で写真を撮っていた。


「透君、一緒に撮ろう!」


そうして、二人で写真を撮っていると近くにいたお爺さんに話し掛けられた。


「そこの可愛いカップルさんや、良かったら写真を撮ろうか?」


カップル、とお爺さんに言われ、周りからはそう見えているのかと思うと恥ずかしくなる。

しかし、奏さんは気にしていないのか、「ありがとうございます! お願いします」と言うと、お爺さんにスマートフォンを渡し、写真の撮り方を説明するとこちらに戻って来た。


お爺さんが、「撮るぞー」と言ったので、僕はスマートファンに視線を合わせた。

その時、奏さんがいきなり大きく距離を詰めて僕の手を握った。

そして、その直後にお爺さんが「はい、チーズ」と言って、写真を撮った。


お爺さんが奏さんに、「これで良いかい?」と言ってスマートフォンを見せた。


僕はどんな顔で写っているのだろうと心配になったが、奏さんは笑顔で、「バッチリです! ありがとうございます」と言った。

僕もお礼を言うと、お爺さんは手を振って去って行った。


「撮ってもらえて良かった〜」と言うと僕に写真を見せてくれた。

案の定というか、写真の中の僕は顔を真っ赤にして変な顔をしている。


「また、僕は変な顔をしてますね」


その僕の言葉に奏さんは首を横に振って否定した。


「私はデートしてるって感じがして素敵な写真だと思うけどな」


笑顔でそう言われて、もう一度写真を見ると不思議と先程と違って見える気がした。


「……確かに素敵な写真ですね」


僕がそう言うと奏さんは、「そうでしょ」と言って先程の写真と同じ、素敵な笑みを浮かべるのだった。

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