好きな髪型は?
四月も半分を過ぎた頃、今日も奏さんは僕の部屋を訪れていた。
前回は奏さんが料理をしてくれたので今日は僕の番だ。
僕が台所で調理をしている時だった。
「ねぇ、透君」
リビングで課題に取り組んでいるはずの奏さんに声を掛けられそちらに視線を移した。
僕が自分の事を見ている事を確認した奏さんはニヤッとするとゆっくりと髪の毛を一つ結びにし始めた。
わざとそうやっているのは分かっているのに、その仕草に僕はドキッとしてしまう。
「ポニーテールどう? 似合ってる? ……顔を赤くしてどうしたの」
奏さんはわざとらしく聞いてくる。
こうなってくると僕もやられっぱなしではいられない。
「いえ、何でもないです。ところで、次の僕の料理当番の時はピーマンの肉詰めを作ろうと思います」
すると奏さんは楽しそうな顔から一転して顔が青くなった。
「ごめんなさい、ふざけ過ぎました! もうしないのでピーマンだけは許してください!」
奏さんはピーマンが大の苦手なのだ。
奏さんが大人しくなったのを見て、僕は調理を再開させた。
夕食を終えた後、僕は高校の宿題、奏さんは大学の課題にそれぞれ取り組み始めた。
しばらく経つと奏さんは「休憩〜」と言って、パソコンから視線を上げた。
僕は宿題に取り組んでいた手を止め、「コーヒーを淹れてきますね」と席を立つ。
コーヒーを奏さんに手渡すと奏さんは「ありがとう」と言って受け取った。
コーヒーを一口飲むと奏さんが口を開いた。
「さっきの髪の毛を結ぶ仕草のくだりで思ったけど、透君の好きな髪の結び方って何?」
そう問われて僕は腕を組んで考える。
「結び方ですか? 考えた事無かったです。そもそも結び方の知識もあまりないですよ。知っているのはポニーテール、ツインテールとか三つ編みくらいですかね」
僕が言うと奏さんは「成程」と一言言って、髪を結び始めた。
高い位置で二つに結ばれたツインテールだ。
大人っぽい顔立ちの奏さんがツインテールにすると普段感じない幼さを感じ、可愛らしく見える。
「どう?」と聞く奏さんに対して僕は「素敵ですよ」と返す。
「嬉しい事を言ってくれているけど、ポニーテール程の反応ではないかな」
そう言うと奏さんはそのまま三つ編みにした。
「これは?」と聞く奏さんに対して「三つ編みも素敵です」と僕は返す。
「うーん、これも違うかー やっぱりこれなのかな」
奏さんはそう言いながら、ポニーテールにし始めた。
奏さんがポニーテールにすると清楚な上に奏さんの大人っぽさをさらに引き上げている気がして似合っており、ドキッとしてしまう。
「……とても素敵です」
奏さんはうんうんと頷く。
「やっぱりポニーテールが良いんだね。これから透君に会う時はこの髪型にするね」
毎回ポニーテールで来られたら心臓が持ちそうにない。
そう思った僕は「時々でいいです」と弱々しく言葉を返すのだった。
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