お隣の美人な大学生がボクの様子をよく見に来る

宮田弘直

好きな仕草は?

外が暗くなってくるこの時間帯になると、そろそろかなと少しそわそわしてしまう。

少し前まではもう夕飯を作るかとかそういう事しか考えなかった時間帯だが、最近はこの時間が好きだと僕こと岩倉透はそうと思った。

理由はあの人が僕の部屋に来てくれるからだ。

インターホンが鳴る。


「やっほー、透君。お邪魔します!」


そう言って佐々倉奏さんは今日も明るい笑顔で僕の部屋に入ってきた。


奏さんとの出会いは四月一日だった。

後数日もすれば高校二年生に進級する。

そんな春休み中だった僕はその日は部屋の掃除をしていた。

僕が高校一年生になった時に父が海外に転勤が決まり母はそれに付いていく事になった。

僕は異国の地で高校生活を送る気持ちにはどうしてもなれず、一人でここに残る事を決めた。

家事は嫌いでは無かったから一人で暮らしていくのはそんなに辛くない。

そして一通り掃除を終えた時だった。

インターホンが鳴った。

誰だろうかと僕が扉を開けるとそこには長い黒髪の女性が立っていた。

大きい黒目は直視すると吸い込まれてしまいそうで思わず目を背けてしまう。


「こんにちは。隣に引っ越してきたこの春から大学生の佐々倉奏です。よろしくお願いします。これ、つまらない物ですが食べてください。……ご家族の方にもご挨拶したいのだけど、いらっしゃいますか?」


「わざわざありがとうございます。僕は岩倉透です。すみません、両親は海外に居てあまり帰ってこないです」


すると驚いたようで奏さんの目が大きく開かれる。


「じゃあ、透君は一人で暮らしているの?」


僕が頷くと奏さんは心配そうな顔になる。


「そうなんだ。……何かあったらいつでも言ってね。すぐ駆け付けるから!」


その後は奏さんと連絡先を交換すると「またね」と手を振って去って行った。


それから奏さんはほぼ毎日、夜から近くなってくると僕の様子を見に来た。

初めは玄関先で「調子はどう?」や「何か困った事はない?」というやり取りで異性とあまり関わってきた経験の無かった僕は毎回緊張していた。

しかし、彼女の明るさや気遣ってくれる優しさに僕は緊張する事が無くなり、彼女とのやり取りが楽しみになっていった。

そして、気が付けば奏さんは僕の部屋の台所で料理を作り、二人で食べるようになっていた。




「今日は私の当番だったから、大学帰りに買ってきたよ。すぐ作るね!」


そう言うと奏さんは台所に行き準備をし始めた。

彼女と決めたルールで料理は一回ずつ交代で作ることになっていた。


今日は何を作るのだろうかと台所に視線を向けた時、奏さんが髪の毛を一本にまとめて結んでいた。

奏さんのその仕草を見て、女性らしさを感じ、ドキッとしてしまう。

何となく恥ずかしくなり、慌てて視線を逸らすと椅子に座り大人しく料理の完成を待つ事にした。


やがて料理が完成し、二人で食べている時だった。


「ねぇ、透君。さっき私がポニーテールにしている時、ジッと見てたでしょ? ドキドキした?」


その突然の言葉に僕は固まってしまう。


「そうか、透君はそういう仕草が好きなのか」


奏さんはニヤニヤしながらそう言ってくる。

奏さんは年下の僕を時々こうしてからかってくるのだ。


「奏さんは何か好きな仕草はありますか?」


居心地が悪くなった僕は話を逸らす為にそう口にした。


「えー、透君にはまだ早いかな」


「やるとは一言も言ってないです」


「スーツのネクタイを解く仕草かな。透君と一緒でつい見ちゃうかも」


確かにそれが似合うようになるには後数年必要だろう。

奏さんをドキドキさせられず、なんとなく悔しくなる。


しかし、「次はツインテールも良いかな」と楽しい顔で話している奏さんを見ていると、まぁ、これでも良いかと僕は思うのだった。





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