第8話 関係

ネームレスは戦闘を終え、家に戻ってきた。


激しい戦場の砂ぼこりで体中が汚れてしまっていた。


「みんな、夕食の前にお風呂入っちゃいましょう。あたしが洗濯するから闘服をまとめといて。」


闘服とは、闘士が身に着ける戦闘服のようなもの。


特に、ネームレスのものは特注だ。


男性のものは、黒1色のタイトなロングパンツに、紺のブーツ。濃紺のフード付きタンクトップの上から、赤いラインが入れられたグレーのジャケットを身に着けジッパーを首元まで上げている。


女性のものは、同じく黒色のショートパンツに、紺のブーツ。深紅色のノースリーブの上から、青いラインが入れられたグレーのフード付きジャケットを身に着けている。


防刃性に優れており、簡単に傷はつかない。



だが、防弾性及び魔法耐性はなく、使い勝手が良いとは言えない。



男女で分かれ、シャワー室で汚れを落とす。



その際に、ダイアはシュウの背中の古傷が目に入る。



「シュウ、その傷はもう痛まないか?」

「ああ、もう何ともない。背中にできたものだから、特に気にしてもいない。」

「……、悪い。」

「謝るな、これはダイアのせいじゃない、俺の判断で動いた結果だ。早くリビングに向かうぞ、ミレイたちが出てくる前に飯の準備を終わらせよう。」

「ああ、そうだな。」



シュウの背中には、獅子に引っ掻かれたような4本線の傷が。


数か月前に、ダイアが前線に出すぎてレイダーが背後から迫っていることに気づかず、シュウがかばってできた傷であった。


(シュウ、必ず恩は返す、必ずだ。)


その目に覚悟を宿し、ダイアもリビングに向かった。



夕食は、豆を使った塩味のきいたスープに、朝と同じパン、干し肉の3種類だ。



食材は週ごとに配給されるため、贅沢ができることは基本的にない。


そして、今日の食事で話題に上がったのは、


「ねぇ、うちらの新しいシキカン、なんかおかしくない?すごい絡んでくるし、本当にうちらの担当なのかな?」

「言いたいことは分かるよ、エメちゃん。これまでの人たちとは全く違うタイプだよね、けど、悪い人には思えない。」

「そりゃそうだけどよ、あいつらは俺たちにしてきたことを許されると思ってんのか?無能なあいつらのせいで、何人の仲間が死んでいったか!」

「そうだよ!うちらはシキカンに、捨て駒としか思われてないんだから、今回のあの人だって信頼できないよ!」

「2人とも落ち着いて!これからシュウ君がミーティングするから、後で報告を聞こう。」

「……。」


シュウは会話に入らず、何か考え事をしているようだった。


ダイアとエメが文句を口にしているなか、

シュウは食事を終えると、そのまま誰も使っていない部屋に入る。



すると、


ピッ。

リッカからの通信が入る。


「こちら見送り人アンダーテイカー、聞こえますか死神隊長リーパーヘッド?」


リッカの声が、ビットを通して鮮明に聞こえる。


この通信は、リッカとシュウにしか聞こえない設定になっていた。


「こちら、死神隊長リーパーヘッド、聞こえております、見送り人アンダーテイカー。報告書は先ほど提出しました、ご確認お願いします。」

「はい、ありがとうございます。でも、こんなに急がなくてよかったのですよ、お疲れの体を癒してから明日以降で構いませんでしたのに。」

「お気遣いありがとうございます。これまでが即提出するよう指示されていたので、癖で出してしまいました。」

「そうですか、ではこれからは体を最優先に考えて行動してください。あなた方の体は、1つしかないのですから。」

「……了解しました、見送り人アンダーテイカー。」


2人の間に、静寂が流れる。


だが、気まずい空間ではない、リッカは話を切り出すタイミングを測っていたのだ。



死神隊長リーパーヘッド、1つお願いがあります。私たちだけの会話の際は、名前で呼んでくれませんか?」

「……見送り人アンダーテイカー、それはご命令ですか?」

「命令ではありません。ですが、コードネームで話すことがあまり私は好きではないのです。その人には、親から与えられた大切な、そして美しい名前がある。その名前を口にできないのは、名前を授けてくださったご両親に失礼だと思うんです。」

「なるほど。……分かりました、リッカ指揮官。」

「呼び捨てで構いません、シュウ。あなたも私も、年はほとんど変わりません。」


シュウは混乱しつつもなんとか平静を装いつつ対応する。


過去の指揮官との違いが大きすぎて、部隊長のシュウでも処理しきれなかった。


「り、了解しました、リッカ。」

「うふっ、ありがとうございます、シュウ。これで、対等にお話ができますかね。」

「お言葉ですが、指揮官と闘士は、全く別の存在です。それは仕方ないのではありませんか?」

「確かに、役割は違うかもしれません。ですが、

「……ふっ、あなたは本当に面白い方ですね、リッカ。」


シュウの顔には優しい微笑みが浮かび、初めて顔に光が差した気がした。


「あっ!今笑いましたね!私のこと、バカにしてませんか?」

「いえっ、そんなことはありません、ただ変わった方だなと思っただけで。」

「うー、変わった方というのがバカにしてると言うんです!シュウは意外とイジワルですね!あなたの性格としてメモしておきます!」

「あ、申し訳ございません、そんなつもりで言ったわけではーー。」

「もう遅いです、書いちゃいましたから!」


2人はわちゃわちゃしながら会話をする。

賑やかな会話が指揮官と闘士で起きたのは、初めてではないだろうか。


そんな中、少しの間を置き、空気感が変わる。



「それでは、1つだけ教えてほしいことがあります。シュウ、あなたはエメのピンチにギリギリ間に合いました。ですが、私の見てたビットの情報ではとても間に合う位置にあなたはいませんでした、何をしたのですか?」

「それは、自分の力に関係してると思います。」

「力ですか、それはどのようなものなのですか?」

「自分の家に代々継がれている、神懸モードというものです。」


シュウは自分の力について話し始めた。

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