第6話 コミュニケーション

ここは、リッカから通信が入る少し前のネームレスの住む家。



「ねぇ、うちらのシキカンはまた変わるんだよね?」


シキカンとは、ネームレスの中の造語。牛のようにのんびりとしており、その体に蓄えられた力は周りがどうにかしてやらないと役に立たないという意味で、付けられた。


「今までの傾向だとそうね、1人メンバーが欠けることで次の人がやってくる。あたし達の所はたぶん入れ替わりが激しいよね。」

「そりゃそうだろ、この人数でレイダーと戦えって言うんだから。誰も死ぬなって方が難しいっての。どう考えても、死にに行けって言ってるようなものーー。」

「やめろダイア、先に逝ってしまったあいつらが報われない。」


シュウの言葉に怒りと悲しみが重なる。


そう、シュウはこれまで数えきれないほどの仲間の死を見てきたのだから。


「悪い、シュウ。」

「いや、俺こそ悪かった、いきなり大きい声出して。」


ネームレス部隊を静寂が包む。


外は晴れ渡り、風も心地よいが、家の中は月のない真夜中のように暗い。




そこに、


ピッ!

「こちら見送り人アンダーテイカー、ネームレス部隊聞こえますか?」


リッカの声が4人のビットに届く。


ビットを通話状態にしないまま彼らの本音がこぼれる。


「今度は女のシキカンだ、うちらの所で何日もつかな。」

「静かにして、シュウ君が話すから。」


ピッ!

「こちらネームレス部隊部隊長、死神隊長リーパーヘッド。聞こえております見送り人アンダーテイカー。」


シュウがリッカの声に応える。

それ以外の3人は、聞き取りのみの状態でリッカの話を聞く。


「初めまして、死神隊長リーパーヘッド。本日より、ネームレスを預かることになりました、コードネーム見送り人アンダーテイカー、リッカ・ソールです。あなたの名前を、教えてもらえますか?」


この瞬間、シュウ以外の3人はざわめく。



そう、今までの指揮官はコードネームのみを述べ、名前など1度も話さなかったのだ。



だが、シュウは落ち着いた状態を保つ。


「本日からよろしくお願いします、見送り人アンダーテイカー。コードネーム死神隊長リーパーヘッド、シュウ・マールスです。」

「これがシュウの声、ですね。あなたの部隊は4人で組まれていると報告を受けています。他の方々は一緒にいますか?」

「各員今作業中のため、申し訳ありませんが自分が共有させて頂きたく思います。本日は、どのようなご要件でしょうか。」

「えーと、特にこれと言って用事があるわけではないのです。私事ですが初めて部隊を持たせて頂いたので、ぜひ今後の作戦のためにコミュニケーションを取りたいと思いまして。」

「はぁ!?シキカンがコミュニケーー。」


ガシッ!

怒りのあまり声が出てしまったエメの口を、ダイアが手でふさぐ。



これまでの指揮官は、命令をするだけで誰も寄り添おうとはしなかった。



そう、ネームレスは家畜のように扱われていたのだ。



「コミュニケーションですか、珍しい方ですね、見送り人アンダーテイカーは。」

「え、そうでしょうか?自論ですが、顔が見えない以上少しでもお話をして、情報を得る。そうすることで、お力になるのが私たちの役目、当たり前のことではないでしょうか?あと、私のコードネームは長いのでリッカで構いませんよ。」

「いえ、そのような恐れ多いことはできません、見送り人アンダーテイカー。自分のことも、コードネームでお呼びください。後ほど、副隊長の天使エンジュ、隊員の案内人ローダー千里眼アイズにも挨拶をさせます。」

「そうですか、分かりました。念のため確認ですが、見送り人アンダーテイカーは大剣と2丁拳銃、天使エンジュは刀とライフル、案内人ローダーは長剣、千里眼アイズは弓使いで間違いないですか?」

「え、あ、はい、間違いありません。」


シュウもまさかの言葉に焦りが生じる。


「何か間違いがございましたか?」

「いえ、問題ございません。」

「そうですか?ではこの場合、見送り人アンダーテイカー天使エンジュのペア、案内人ローダー千里眼アイズのペアがベストかと判断しますが、今はどんな体制でしょうか?」


(すごい、あたしたちの使う武器だけを見て瞬時にペアを組んだ。実際、あたしはこっちのペアがいいと思ってる。)


ミレイはリッカの分析力に関心していると、


「少しだけ違います、天使エンジュ千里眼アイズが逆で組んでいます。」

「そうでしたか、差し支えなければ理由を伺っても宜しいですか?」

「はい、自分と天使エンジュは近距離と中距離両方対応できます。なので、より近距離に特化した案内人ローダーを中距離が自分より得意な天使エンジュとペアにし、中距離から遠距離まで対応可能な千里眼アイズが自分と組んでいます。」


シュウは自分の意見をリッカに伝える。


「なるほど、皆さんはそのような体つきと特徴をお持ちなのですね、記憶しました。今そちらの環境は如何でしょうか?何か依頼や希望があれば私に言ってください、すぐ上に報告します。」

「ありがとうございます、見送り人アンダーテイカー。今のところは問題ございません。」


業務的な会話が続く中、リッカは真相を知るための質問を投げた。


死神隊長リーパーヘッド、これは応えられる範囲で構いませんし、回答しなくても構いません。……なぜネームレス部隊は、4人で活動されているのでしょうか。」


会話に、少しの間ができる。



そして、


「それは、自分の拙い指揮のせいでーー。」


シュウが話し始めた瞬間、



ウィーンッ!ウィーンッ!ウィーンッ!

甲高い警報音がネームレスの家に響き渡る。


「敵襲!?シュウ君!」

「最近多すぎねえか!くそっ!」

「すみません、見送り人アンダーテイカー。これより殲滅にあたりますので、通信をーー。」

「このまま戦闘を開始してください、死神隊長リーパーヘッド。私は指揮官です、皆さんをサポートします。」

「っ!?指揮官が自らですか!?」

「当たり前です!ただでさえ、あなた方の部隊は異例なんですから!私の力をフル活用します、行きましょう!」

「……了解しました。」



ネームレスの4人は、武器を背負い戦場に走り出した。

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