第5話 指揮官

リッカはロア王国の城から歩いて20分ほどの距離の家に住んでいた。


壁や屋根も全体的に白く作られており、彼女の心を現しているかのよう。


きれいな扉を開くと、


「あ、リッカ、お帰り。」

「ただいま、アイラ。」


家には先に人がおり、テーブルに食事を準備していた。


「アイラ、今日もありがとう。そろそろ私が作るって話してたのに。」

「気にしないでいいの、リッカに作らせたら食材が……。」

「なっ!この前より成長してます!!野菜の切り方マスターしたもん!」

「それだけじゃ、料理はできないのよね~。しばらくはあたしがやるから、慣れない仕事で疲れるでしょうし体を労わりなさい。」

「うーっ、いつか見返してやる!」


リッカは頬を膨らませ、少しの怒りと覚悟を示した。


リッカの同室である彼女は、アイラ・シャル。24歳、女性。

コードネームはなく、王国の技術班の班長として活躍している。

入隊してから、わずか2年で班長まで上り詰めたセンスと努力を兼ねそろえた逸材。

黒髪をポニーテールにして、背丈はリッカと変わらない。どちらかというと、ボーイッシュであり女性からの人気が高い。

リッカとは、学生時代に知り合い飛び級した者同士息が合い、今は同室で暮らしている。


そして、技術班。


技術班は、主に武器や防具の開発、修理、指揮官と闘士をサポート出来る装備を作るのが仕事。

指揮官と闘士が通信に使う、ビットを作ったのも技術班である。



2人は、テーブルに並べられた夕食を目にする。


こんがり茶色く焼けたふわふわのパンに、カボチャを使ったスープ。シンプルに香辛料だけで焼いたハンバーグも用意されていた。


アイラはとても料理が上手なのだ。



「それじゃあ、いただきます。」


2人は手を合わせ、食事を進めていく。


「うーん!やっぱり、アイラのご飯は美味しい!」

「そうでしょ~お替わりもあるから、沢山食べてね!」

「そんなこと言われたら食べちゃうよ!けど、最近スポーツする時間がないから、余計なお肉がついちゃう……。」

「欲しいところにはつかないけどね!」

「むっ、そんなこと言うなら昨日技術班がミスしたのを私がカバーしたこと、上に報告するよ?」

「大変申し訳ございませんでした、その節は大変助かりました。」


リッカは元々、陸上短距離走の選手で大学では男女含めトップのスピードを持っていた。しかし、指揮官になると戦場に出ることはなく、闘士に指示を的確に与えるのが任務のため、頭は使うが体を使うことはない。


2人は2歳差で会ってまだ数年ではあるが、お互いのことをすべて知っているような深い関係にまで至っていた。


食事の進む音が部屋を包み、楽しげな声も響き明るい空間が出来上がっていた。



そして食事を終え、2人は明日の準備をし寝る準備を進める。


「リッカ、明日から部隊を持つの?」

「うーん、どうかな。辞令を受けた部隊が少し特殊で、ネームレス部隊って言うんだけどアイラ知ってる?」

「いや、聞いたことないよ。第1-第9のどこ所属なの?」

「それが、どこにも所属していなくてネームレスって名前で4人で構成されているらしいの。1つの部隊として、分隊じゃなくて。」

「そんなことあり得るの?どれだけ精鋭が集まっているとしても、モンスター退治にその人数は自殺に等しいよ。リッカ、何か聞き逃したんじゃない?」


アイラの疑問も正しい。


本来、モンスター退治に向かう部隊は、最低20名。

その20名でも、精鋭を集めて行動することが厳守されている。



それに対し、ネームレス部隊が4人で行動していることに対し、リッカやアイラの疑問はもちろん、王国が認可していることが不思議でならない。



食事を終えた2人は、寝る準備に入る。



「明日、もしかしたら話すチャンスを作れると思うから、引継ぎも兼ねて聞いてみるわ。」

「そうしな、リッカには変なことに巻き込まれて欲しくないからさ。」

「大丈夫だよ、何か分かったらしっかり共有するから。じゃあ、お休み。」

「うん、お休み。」


2人は眠りにつき、その日は平和に終わりを迎えた。




そして次の日、リッカは城に向かっていた。


(ネームレス部隊、今まで聞いたことがないのもそうだけど、やっぱり4人の部分が気になる。もし、本当に4人で戦っているのだとしたら、何で王国側は応援を送らないの?何か理由があるの?)


あれこれ予測を立てながら、城に入る。



そこには、1人のマッシュヘアーの男性が。


「ん?ああ、君が僕の引継ぎか。」

「引継ぎ……あっ、失礼しました、貴殿がユン大尉でありますか。」

「そうだ、ソール見習い。僕がしっかりと育て上げたネームレス、壊さないでくれよ。」

「はっ!ところで大尉、1つ質問宜しいでしょうか。」

「なんだ。」

「なぜネームレス部隊は、4名なのでしょうか?分隊でなく部隊で4名というのはーー。」

「ああ、それは気にするな、あいつらはそういうやつらなんだよ。」


スタッスタッ。

そう言い残し、ユン大尉はその場から離れる。


「……、引継ぎがほとんどない、こんな扱いをして許されると思っているの?闘士の皆さんにどれだけ王国を豊かにして頂けているか、考えないのかしら。」



リッカは闘士と通信ができる、コントロールルームに向かう。


その部屋には、イスとテーブルが置かれており、他には何もない暗い空間。



そこで椅子に座り、


領域解放テリトリーオープン!」


リッカの体から白い光が生まれ、周りに液晶のようなものが複数出てくる。


そこには、ネームレス部隊の名前、周囲の地形、自分を含めた心拍や体の負傷ヵ所、健康状態が確認できた。

だが、ネームレスの隊員の顔は表示されない。



そして、リッカはビットに触れて、


「こちら見送り人アンダーテイカー、ネームレス部隊聞こえますか?」



数秒間を置き、



「こちらネームレス部隊部隊長、死神隊長リーパーヘッド。聞こえております見送り人アンダーテイカー。」


リッカとネームレスが初めて会話した瞬間だ。

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