第3話 ネームレス
シュウがリビングに向かうと、そこには2人先客がいた。
「おっ、来たなシュウ!」
「お帰りなさい、シュウちゃん!もう夕食の準備終わってるから早く食べよう!あ、ミレイちゃんは?」
「もうすぐ来ると思う、さっき廊下で会ったから。」
「一緒に来てくれれば良かったのに、薄情だな〜。」
「やめろエメ、シュウは俺たちの仕事を代わりにしてくれたんだから。」
エメと呼ばれた彼女は、
エメ・ジュード。22歳、コードネーム、
背は小さく150cmにも満たないだろう、小柄な体に年齢には合わない童顔の持ち主。真っ白な肌で、中学生でも通せるようなあどけなさが残っており、思ったことをすぐ口にしてしまう癖がある。
ネームレスでは、1番の新米。
武器は弓、その視野の広さはチームの中で1番。
「今日の飯もいつも通りか。」
「仕方ないでしょ、うちらに与えられるものなんてこんなものよ。」
「そうだけどよ、王国の奴らも同じ生活してるって本当だと思うか?」
「うーん、どうだろう?」
3人が会話をしているところに、
「ごめん!遅くなっちゃって!」
スタタタタッ。
もう1人のネームレス、ミレイが姿を現す。
彼女は、ミレイ・ウェスタ。21歳。コードネーム、
背は高く、165㎝程。戦場には見合わないという意味でこのコードネームが付けられたほど、美人である。
顔のパーツはくっきりしており、スレンダーな体系でモデルのようでもある。
金髪ロングで、深紅の目、右手に真珠のブレスレットを常に付けている。ネームレスの中で、唯一他の部隊から勧誘がくる存在だ。
誰にも優しく、仲間思い。また、見た目とは裏腹に、健啖家であり嫉妬深いところも少しある。そして、嘘に対してはとても厳しい。シュウと同じく、読書を好む。
武器は、刀とライフル。
「揃ったし、食べようか!」
エメの合図で、4人は席に着く。
「いただきます。」
目の前に並ぶのは、質の良くない小麦粉で作られ、焼かれたことでさらに硬くなってしまったパン、水とコーンに、砂糖を入れた甘めのスープ。
この2品である。
決して豪華な食事とは言えない。
そして、用意された食事は5つ。
そう、今回の戦闘で戦死したセシルの分だ。
今のネームレスは4名。
もちろん、普段誰かが欠けるなんて想像すらしない、しかし戦争という環境下ではそれがありえてしまう。
部屋のいたるところに置かれている蝋燭の光で、リビング自体は明るいが4人の雰囲気は真逆。
ネームレスでは決まりがあった。
誰かが欠けた時は、その人のことを思って食事をすると。
咀嚼音だけが響き、無表情のシュウ、涙をこらえるミレイ、怒りを露にするダイア、悲しみで食事が進まないエメ。
地獄のような食事の時間は、実際5分もなかったであろう。
だが、彼らには数時間もかかっていたように感じられた。
食事を終え、食器をシュウが洗い始める。
特に役割を決めたということではないが、シュウが率先して取り組むことの1つだった。
ジャーッ。
水の流れる音が部屋を包み、シュウがセシルの最後の姿を見た時の情景が思い出される。
シュウはネームレスに来てから、何人も目の前で死んでいく仲間たちを目にしてきた。
そのせいで、初めのコード-ネームは、
そして、次の古参がミレイである。
「シュウ君、お皿洗いありがとう。何か手伝えることある?」
「いや、もうすぐ終わるから大丈夫。ミレイはゆっくり休んだ方がいい。」
「……そ、そう。」
ミレイはネームレスの副隊長として、シュウを支えようとするがどうも避けれらているように感じている。
家事もそうだが、戦場ではより距離を取られる。シュウは近接戦が得意なのに対し、ミレイは中距離が得意。連携をとればかなり良い結果につながるはずだが、ミレイは常にダイアと行動を共にするよう命じられ、シュウはエメと共に行動する。
キュッ。
蛇口をひねって止め、シュウは手を乾いたタオルでふきその場を立ち去ろうとする。
彼の背中を見て、ミレイは言葉をかけずにはいられなかった。
「シュウ君!」
「どうした?」
スッ。
シュウはゆっくりと顔だけを向ける。
「シュウ君は、あたしが嫌い?」
「ん?いきなり何を言うんだ。仲間に好きも嫌いもないだろ。」
「そうじゃなくて、やっぱりおかしいと思うんだよ。あたしは、ネームレスの副隊長として、もっとシュウ君の役に立ちたい、あたしも力はあるんだよーー。」
「エンジュ、それがミレイのコードネームだ。意味は、皆を笑顔にさせる天使のような存在、それがミレイの役目だ。」
「今はコード-ネームなんてどうでもいい!なんで、シュウ君はあたしを頼ってくれないの!シュウ君の辛そうな背中を見るの、あたしは嫌だよ。少しでも楽にしてあげられるなら、何でもしたいーー。」
「もう夜も遅い、早く寝よう。」
スタッスタッ。
再度、話を遮るようにシュウはミレイを置いていく。
その場に1人、ミレイは今にも消えそうな蝋燭の火のように震えていた。
「……話ぐらい聞いてよ、シュウ君のバカ。」
ネームレスは、良い部隊とはとても言えそうにない状態だった。
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