第2話 裏側
ここはロア王国の領地で、王国から遠く離れた荒れた土地。
野菜や作物はギリギリ育つことができる環境で、王国にあるような立派な家はなく、端材で補修した家が立ち並ぶ。
辺りには瓦礫や、廃材などが放置されており、王国の雰囲気とは真逆の環境だ。
水は汚れ、荒れ果てた大地に数人だけ人の姿があった。
そこに、1人の男性が歩いてくる。
手には、銀色のドッグタグが握られており、
セシル。
と書かれていた。
戻った先では、彼を出迎える温かい声が聞こえてきた。
「おっ、無事に帰ってこれたんだな、シュウ。」
「……ああっ、なんとか。」
シュウと呼ばれる男は、その手に握るドッグタグを強く握りしめた。
まるで、自分の弱さを責めるように。
「それ、セシルのタグだよな。あいつは、あっちにいけたのか?」
「……ああ、最後まで見届けた。最後の時まで、俺たちのことを気にかけてくれた。」
「あいつらしいな、中に入れよ、シュウ。みんな待ってる、お前が生きていることを知れば、元気になるやつもいるからよ。」
「わかった、これをしまったらすぐに向かう、先に行っててくれ、ダイア。」
ロア王国には、第1-9部隊が存在する。
だが、それは表上の名目。
モンスターを狩り、民から称賛の声を浴びているのは彼らだけ。
その裏には、国のために戦い、正当な評価を受けられない部隊が存在した。
その名前は、
ネームレス部隊。
仕事は、モンスターを倒すことではない。
アナザー帝国から送られてくる、敵を殲滅することがネームレスの仕事。
アナザー帝国から送られてくるのは、モンスターでも人でもない。
2足歩行の人造人間、レイダーと呼ばれるものが銃を構え投入される。
人の姿と大差はないが、言葉を話せずいわゆる殺戮マシンのようなものだ。
素手の力は人間の比ではないほど強く、目標を目にしたら真っ先に殺しにやってくる。
全身が白い作りで、強度はないためロア王国の武器で対応は可能。
この存在は、ほとんどロア王国には知らされていない。
ネームレスの存在は王国のごく1部の人しか知らず、レイダーのことを知る人も限りなく少ない。
そんな、ネームレス部隊の隊長が彼。
シュウ・マールス。
コードネーム、
背は180㎝程だろう、少し華奢に見えるが筋肉の付は良い少し色黒の体。
黒よりの茶髪で、ウルフヘアー。優しい目つきをしており、耳は少し縦に長く目鼻はくっきりしている。右耳に青いクリスタル型のピアスを付けている。物静かな性格ではあるが、仲間のためにリーダーとしての責務を全うしている。
リーダーであろうとするが故、無茶をすることもしばしば。
頭の回転が誰よりも早く、読書を好み、あまり感情を出すことがないのも特徴。
背中には自分と同等サイズの鉄の大剣を背負い、両腰には拳銃が2丁。
ネームレスに入隊してから何年経過しただろうか、1番歴が長いのが彼である。
そして、そんなシュウを迎え入れたのが、
ダイア・リュウ。
コードネーム、
1年ほど前からネームレスに入隊。
背はシュウよりも高く、190㎝ほど。が体もよく、力仕事は何でもこなせるパワーを持つ。
周りからはゴリラと呼ばれるほど大きい体を持つが、とてもやさしく子供と遊ぶのが好きである。
顔も、目が大きく、傷が多い歴戦の戦士というべき風貌。
腰に、長剣を差している。
シュウは、ボロボロになっている家に入り、自分の部屋へと向かう。
キィー。
そのドアの先には、簡素なベッドに、多くの本。
受験前の学生のように本は積まれている。
そんな中で、1つの木箱が場違いなほどにキレイに置かれている。
木箱を優しく取り出し、
中を開くと、数えきれないほどの銀色のドッグタグが。
そう、過去にシュウの下で死んでいった仲間たちの証だ。
カチャッ。
そこに、セシルのドッグタグも入れられ静かに蓋をする。
箱をもとの位置に戻したシュウの表情は暗く、背筋を伸ばし敬礼をしていた。
これが、彼の宝であり生きる原動力。
散っていった者たちのため、最後まで生き抜くのが彼の目標であり使命と心得ている。
そして、部屋から出ると、
「あ、シュウ君!お帰り!」
「ああ、ただいま、ミレイ。」
1人の女性が目の前から声をかけてくる。
少しの間、2人の間に静寂が流れる。
「……、今回も大変だったね、セシル君のことありがとうね。」
「ああ、やるべきことをしただけだ。」
「その、ごめんね、毎回シュウ君にばかり辛い思いをさせて、本当はあたしも副隊長としてシュウ君をもっと支えるべきなのに。」
「気にしないでいい、俺は敵を倒すこと、仲間の最期を見届けることが責務だ。そして、ミレイは戦うこととみんなを精神的に支えてくれることで、このチームは生きている。役割分担は、とても大切だ。」
「でも、それじゃあシュウ君の負担があまりにも大きすぎるーー。」
スタッスタッ。
シュウはミレイの言葉を遮るように、リビングに向かう。
その背中は、ミレイの目には無理して頑張っているようにしか見えなかった。
「シュウ君……、どうしてあなたはそんなに1人で背負おうとするの。いや、あたしが弱いせいか。」
ミレイはその場に立ち尽くしていた。
そして、その日の夕食の時間がやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます