第1章 表と裏の世界
第1話 表裏
ヨル。
この世界の名前である。
剣と銃と魔法が存在する、少し変わった世界。
力を持つ者は、剣を振り、銃を撃ち、国のために戦う。
この世界に、魔法使いはとても少ない。
全体人口の2%程だろう。
ヨルで生きているのは、人間。
もちろん、周りにはモンスターも棲みついている。
どこで生まれ、なぜこの世界に存在しているのかはまだ解明されていない。
人々は毎日自分の責務をこなし、生活を営む。
商いをする者、馬車を引く者、薬を作る者、武器屋を経営する者、他にも多くの職業が存在する。
そして、この世界には2つの国が存在する。
1国目、ロア王国。
国王フリードが統治し、2つの国で比べると、より繁栄している国がロア王国だ。
人々の活気もあり、フリードの采配も高い評価を受けている。
その中でも、一際存在感が大きくロア王国に存在しなくてはならないものがある。
闘士だ。
この国には、王国に所属する兵士のことを、闘士と呼んでいる。
第1〜第9部隊まで存在し、国を守るために毎日鍛錬を積み力を発揮している。
特にモンスター討伐をメインに行い治安の維持、手にした素材は国の商人に渡され人々の手に行き渡る。
ロア王国の最大の特徴だ。
さらにこの世界には、もう1つの国が。
アナザー帝国。
ロア王国より領土は小さいが、同じような運営をしているらしい。
なぜ詳しい情報がないのか。
それは、お互いの国同士が敵対関係にあるのだ。
考えが真逆の2国であるのが発端で、数十年前から分断された。
分断した瞬間は、戦争も絶えなかった。
しかし、ロア王国が闘士で部隊を形成し、魔法を使う者も多く集め、勢いをつけ始めたことで、アナザー帝国を抑えるだけでなく、モンスター退治も大半を請け負い物流が良くなりロア王国の勢力は増して行った。
おかげで、ここ数年は睨み合いが続いているだけで戦争は起きていない。
その影響か、徐々に闘士の力が衰えている気がしなくもない。
そんな中でも、ロア王国最強の部隊が存在する。
第1部隊、チーム名ヒーローである。
各部隊にチーム名が存在し、闘士ごとにコードネームも付けられている。
第1部隊、部隊長、ガイ・ルーナ。
コードネーム、
この世界では希少な存在と言っても良い、レイピアと錫杖を持ち武器と光魔法を同時に扱える。
基本的に闘士は、武器のみ、または武器に魔法を付与するのがメインである。
逆に、魔法使いは魔法のみ扱うことはできる。
そんな中、ガイ・ルーナはどちらもこなすことができる英雄の様な存在なのだ。
今日も、彼らヒーロー部隊はモンスターを狩り、素材を回収し帰国していた。
馬に乗り、100人体制の精鋭軍団が城下を歩く。
周りの人々は、その姿を見るために集まり始める。
「ヒーローの帰還よ!」
「リリーサー様がまたやってくださったのだ!」
「あの方がいらっしゃればこの国は安泰だ!ヒーロー万歳!!」
周りの賛美に対し、ガイは腰にさす錫杖を掲げ皆に自分の存在を示す。
その姿は、まさしくこの世界の光。
しかし、完璧な人間なんてものは存在しない。
彼もその1人である。
(はぁ、ここら辺のモンスターどもも最近は張り合いがない。……いや、違うか。俺様が強くなりすぎたのが原因だな、不幸なモンスター達よ、可哀想に。)
ニヤッ。
ガイの口元が大きく広がり、自分の力に酔いしれていた。
そうして、ロア王国は平和を作り上げていった。
これが、表の世界の出来事。
では、裏では何が起きているのか。
場所は変わり、ロア王国では見ることはない、周りの建物は砕け、瓦礫や腐った野菜、壊れた看板が転がり、砂漠のような場所。
その中で、1人の男が倒れていた。
「はぁ、はぁ、俺も、ここまでか。」
男の体には裂傷が酷く、肩や足には弾丸が貫通した跡が。
呼吸は荒く、今にも死を迎えてしまいそうだ。
そこに、
スタッ、スタッ。
1人の足音が迫ってくる。
その足音を聞いた死にかけの男は、ゆっくりと顔を向ける。
「へへっ、迎えが来たか。」
傷だらけの男の隣に辿り着いた男は、男の傷を見て助からないことを察した。
「悪い、しくじっちまった。けど、俺以外誰も被害は出てないんだよな?」
「……ああ、部隊は全員退却した。しんがりを担当した、セシルを除いては。」
「俺だけ、か。悪いな、いつも辛い思いばかりさせちまって。」
「何言ってるんだ、1番辛いのはセシルだろ。俺の判断ミスで、お前はこんなところで死ぬことにーー。」
「それは違うぜ、
スッ。
セシルはシュウと呼ぶ男に、首にかけた銀色のドッグタグを千切って渡す。
「忘れないで欲しいとは言わない、ただ、お前はこれまでの奴ら全員分のを持ってるんだろ。いつか処分する時まで、持っててくれたら嬉しい。」
「……分かった、セシルーー。」
「げほっ。」
ピシャッ!
口から大量の吐血。
セシルの顔色は、青ざめていく一方。
「はぁ、はぁ、じゃあな。お前は、こっちには来るなよ。1人でも長く生きさせてくれ。」
「ああ、分かった、約束する。命を賭して力を示した者に、安らかな時間が訪れんことを。」
「ありがとう、じゃあな、シュウ……。」
セシルの体が重力に耐えられず、完全に地面に横たわる。
死が彼を迎えにきた。
その姿を、シュウは目に焼き付けていた。
ピピピッ。
シュウのイヤホンが静寂な空間に大きな音を響かせる。
「はい、こちらネームレス部隊部隊長、
「おう、お疲れさん
「了解しました、
ピッ。
2人の通信が切れる。
ギリッ。
シュウの手に握られたドッグタグに、変形しそうなほど力が込められる。
これが、この世界の裏側。
シュウ、
この言葉が指すものとは、いったい。
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