五章 永見智恵理と鈴前七楓 4(ながみちえり と すずまえななか)
「―――――――」
川原に突っ伏して胃の中の物を吐き出した。
何度も何度も。
勢いよく逆流した吐瀉物が砂利にぶつかって顔に跳ね返る。それでも吐くのを止められなかった。
死んだ。目の前で親友が殺された。
その事実を体が拒否するように、吐き続けた。
胃袋が痺れる。胃液で喉が焼ける。そして、ようやく胃の痙攣が収まった頃。
……許さないからな。
湧き上がってきたのは今まで経験したことのないほどの猛烈な怒りだった。
噛み締めた奥歯がギシギシと鳴った。震えが止まり、関節が燃えるように熱を持つ。目の前で理不尽に友人を奪われた衝撃は、恐れの全てを怒りに変えていた。
――許さないからな。
傍らに転がっていた拳大の石を握りしめて立ち上がった。そして、動かなくなった
「出てこい、化け物」
そこいるんだろ、
出てこいよ、殺してやる。
お前が何者だろうが関係ない。よくも智恵理を。殺してやる。成仏できないというのなら私が地獄に送ってやる。さあ、出てこい。次は私の番なんだろう。
「出てこい!」
川原に怒鳴り声が反響した。
しかし、いない。誰も出てこない。智恵理の口は苦痛と恐怖に捻じ曲がったまま動かない。さっきまで漂っていた異様な気配はいつの間にか欠片も感じられなくなっていた。
どういうことだ。尾島貴子はもういないのか。
夜の風が川原を駆け抜けた。虫達が沈黙を埋めるかのように鳴き声を取り戻していく。
「ふざけんなっ!」
満身の怒りを込めて石を川に投げ捨てた。どぷんと深い音を立て流れが私の殺意を飲み込む。
どういうことだ。なぜ帰る? なぜ私も狙わない。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな!」
髪の毛をめちゃめちゃに掻き毟った。頭が痛かった。耳鳴りがする。涙が溢れた。喉の奥から言葉にならない呻きが漏れた。怒りが、堪えようのない怒りが様々な形をとって体の中から溢れ出た。
このままで済むと思うなよ。今度はこっちの番だ。
佐原悟、今から殺しにいってやる。
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