五章 永見智恵理と鈴前七楓 1 (ながみちえり と すずまえななか)

智恵理ちえりちゃんを探しに行くって、今から? そんなのだめに決まってるでしょ!」


 多分許してもらえないだろうとは思っていたけれど、お母さんは見ていたテレビの天気予報をわざわざ消してから真正面を向いて反対を示した。

「でも……」

「でも、じゃないから。七楓ななかが探しに行ってどうなるの。もうすぐ大雨になるのよ」

「でも……」

「心当たりがあるなら警察に伝えればいいじゃない。そいうのは警察に任せておけばいいの、わかった?」 

「でも……」

「七楓ちゃん、わかった?」

「……わかった」

 とても話し合える雰囲気ではないので納得したふりをしてリビングルームを出た。


 無力感がどっと肩にのしかかる。

『警察にはすでに手が回っているからあてにできないの』

『相手は呪いで殺しを請け負う宗教団体の手先なの』

 いったいどんな言葉を尽くせば、こんな映画のような話を親に飲み込ませることができるのだろう。少なくとも私には何も方法が思いつかないので、二階の妹の部屋に直行するしかなかった。


陽菜ひな、外出るから。通して」

 ベッドに寝転がっていた妹に、玄関からこっそり持ち上がってきた靴を示して言う。

「マジで? お姉ちゃん、本当に行くの?」

 お父さんやお母さんは知らないけれど、陽菜の部屋の窓からならお隣のガレージを伝って外に出られる。私達姉妹しか知らない秘密の脱出ルートだった。


「ねえ、何か知らないけどやめときなよ。お姉ちゃん変だよ」

「ごめんね、どいて」

 不安げに眉を寄せる妹を追いやって窓の桟に足をかける。生暖かい外の空気が触手のようにショートパンツの足をつかんだ。その姿勢のまま後ろを振り返る。

「何? どうしたの?」

 思い直してくれたのかと一瞬陽菜に安堵の表情が差した。その体を抱きしめる。妹は来年から高校生だ。背は伸びたけれど体はまだ柔らかくて頼りない。

「じゃあね」

「待って。なんなの、今の? お姉ちゃん!」


 去り際の陽菜の顔は抱きしめる前より不安が増しているように見えた。


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