第19話 独占欲の強い傲慢な主人と主人の力を誰よりも信じている従者
(こいつ、寝たのか……?)
「おいマシロ。マシロ?」
カイはマシロに呼びかけるも返事がない。
「演技なら早く起きろ」
そう言っても、マシロは動かない。
カイの皮膚に小さな息の感触が伝わる。
(これは完全に寝てんな……)
カイが脅せばマシロはびくりとする。
だからマシロが嘘をついているかどうかはすぐにわかるのだ。
「……そこでずっと待ってんだろ? サク。入っていいぞ」
カイが廊下に向かって言った。すると、サクが部屋のドアを開けて入ってきた。どうやら本当に外で待っていたらしい。
「ちょっとやりすぎじゃない? カイ」
「はっ、どこが? こいつ、すぐに眠るから満足もできねぇよ」
「にしてもかなり手懐けたね。脅して命令して性欲処理とは可哀想に」
「言っとくが、避妊はしてるぞ? さすがに妊娠されたら困る」
「偉そうに言ってるけど、そんなの当たり前だからね?」
カイはマシロの頭に優しく触れる。そして好奇なものを見るかのように撫でた。
「好きなの? この子のこと」
「まさか。オモチャとしか見てない」
「はぁ……なのに抱いてるんだ」
「悪いか?」
「人によるだろうね」
サクは基本的にカイに対して文句や説教をしない。サクはカイに雇われている身だからだ。
「じゃ、報告。カイの命令通り、ハルを特進クラスに入らせようと思わせたよ」
「どうも。なんで言ったんだ?」
「んー? 信用してもらうために協力関係を結ぼう的な流れに持ってった。俺が同性愛者だって嘘ついたらすぐに信じたよ。いやぁ、あんなにチョロい子は久しぶりだね」
「あいつは素直すぎるからな。疑うってことが苦手なタイプだよ」
「ほんと、そうだったよ」
楽で助かる、とサクは言った。
「それで、これからどうするつもり? ハルはその子を奪いに来るよ」
「おそらく、テストで一位とって俺より上の立場になって正面から来るだろうな」
「一位になられたらまずいね」
「いや、そうでもない。そしたら脅すんだ。―――『こいつの命が惜しければ、学校をやめろ』ってな」
「うぅわ、最悪。自分が大事か、その子が大事かって天秤にかけられるやつじゃん」
「ああ。それを、こいつがいるところでやればどうなるか想像できるか? 自分を選べば『ハルの愛は嘘だったんだ』ってマシロはショックでますます俺に従う。マシロを選べばあいつは自主退学。マシロは『自分のせいでハルが……っ』とか言って病むか、逃げ場がなくなって俺に依存するか……。どちらにせよ俺はマシロを独占できる」
カイは嬉しそうに言った。
「あいつは俺に勝てない」
サクは可哀想に、と心の中で合掌した。
カイは独占欲が強い。だから、自分のお気に入りが奪われれば途端に怒りに任せて取り返しに行くような奴だ。ハルはユキよりも弱い。論外だ。
(きっとあの子は心折られて、この子はカイのモノになるんだろうな)
カイは自分の力を自負していたし、サクはカイの力を知っていたので、そう思っていた。
そうなると、思っていたのだ。
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