第17話 意地悪な主人と溶かされる主人の所有物




―――おまえは永遠に俺のものだ。


 ユキとハルの知らない間に、カイはユキを手に入れるために淡々と手を打っていた。二人がそのことに気づいた時には、もう手遅れだった。

 ハルはユキを愛していて、ユキはハルに偽っていて、カイはそのことを知っていた。

 その時点で、負けは確定していたのだ。


―――ハルを、絶対に傷つけないで。


 特別寮のカイの部屋で、ユキは改めてカイと契約を結んだ。

 自分が女であることを隠すこと、ハルを絶対に傷つけないこと。それを条件に、ユキはカイのものになることを決めた。


―――なら、おまえは俺のどんな命令も受け入れ、従え。二つも要求を受け入れるんだ。それぐらい覚悟してるんだろ?

―――ええ。


 どんな痛い思いも辛いことも受け入れる。だからハルには手を出すな。関わるな。最後までユキはハルの従者だった。


「マシロ、来い」

「……」


 カイのものになってから、一ヶ月が過ぎた。カイはユキと二人きりのとき、ユキをマシロと呼んだ。


―――俺のものであるおまえを、俺がなんと呼ぼうが文句は言わないよな?


 ユキはそれに何も言わなかった。そういう契約で、カイもユキの要求を呑んでいたからだ。


(ハル……)


 ハルは休み時間、毎日ユキを求めて特進クラスのフロアにやって来た。


―――ユキ! ユキ!

―――来るなっつったんだろ?

―――ユキを、返してください。

―――前にも言ったように、あいつは自分の意思で決めた。もう主人でもないあんたにあいつは従わない。


 大抵、サクが止めて、それでも抑えきれないときはカイが出てハルにそう言った。それが二週間ほど続いて、ついに学校を巻き込んだ。

 結果、ハルは接触禁止を言い渡され、特進クラスのフロアへの移動を禁止された。ユキは苦しくて、泣きそうだったが、そんな姿をカイに見られたらと思うと怖くて、必死に抑えた。


「マシロ」


 逆らえない弱い少女。その名をマシロ。

 カイといる時のユキは、マシロだった。

 マシロでいるように言われていたし、マシロであることしかユキにはできなかった。


「っ、カイ、痛い」

「ちょっとくらい我慢しろ」


 カイに両手を後ろで縄で縛られる。


「来い」


 マシロは足を動かしてカイの上に乗る。だが、カイは意地悪なことをした。


「あっ……」


 カイが足を動かしたことにより、マシロの体勢が崩れた。カイの方へと全身が倒れる。立て直そうとするも、特別寮のベッドのシーツはすべらかな高級品のため、思ったように動けない。


「誘ってんのか? マシロ」

「ちが……〜〜っ」


 カイがわざとやったからでしょう?

 そう言う前に、ユキはカイに強引に顎を持ち上げられ、長いキスをされた。カイが唇を離すも、マシロはすでに赤くとろけた、だが少し苦しそうな顔をしていた。

 この体勢が辛いのもそうなのだが、カイは基本的に何もかもが強引で我儘で、すぐに見抜いてしまう。そのせいで、マシロの弱いところはすぐに見つけられ、覚えられてしまうのだ。


「どうした? こんなちょっとでへばったのか?」

「〜〜カイが無理矢理やるからよ……っ」

「当たりか。やっぱりおまえは弱いな」


 心も、体も、マシロは全てカイに知られてしまっている。カイの独占欲の強さにユキはカイに染まりつつあった。


(もう、やだ……っ)


 すべてがおかしくなってしまいそうで、マシロは怖い。そんなとき思い浮かべるのがかつての主人、ハルだ。ハルはもっと優しかったのに、と思うのだ。


―――反抗もしなくなったのかよ。


 カイと過ごし始めてまだ少しの頃は、今のようなことをしてなかった。ずっと昔のように蹴られ、殴られ、痛い日々が続いた。

 だが、カイの求めていたマシロは、すでに精神がボロボロだった。反抗することを、諦めるようになったのだ。


―――ちょっとは足掻あがけよ、おい。

―――……私は、カイと契約でどんな命令も従うと約束した。だから逆らわない。そういう契約でしょう?

―――そういやそうだったな。……なら、おまえの体で払ってもらうぞ、マシロ。


 その覚悟はしていたから、ユキは二度目なこともあり、案外受け入れるのが早かった。やっぱりカイのは強引で、痛かった。だが、それ以上に快感を感じたのも事実。

 カイに染まりかけているのはそのせいでもあるだろう。


「今日は途中で寝るなよ? マシロ」

「!! うるさい!」

「キスだけで感じたくせに」

「〜〜っ!」

(それは、カイがこの手の上級者からだからで……)

「言い訳するなよ?」

「っ!」


 心を見透かされた気がして、マシロは恥ずかしくなった。逃げようとするも、カイの力の前では無力に等しい。すぐに引き戻され、繋がされる。


「あ、んんっ……!」

「声抑えろ、マシロ」

「やっ、ぁ、んっ……んんっ」

「そうそう。上手じゃないか」


 カイに侵食されるマシロ。


(は、る……)


 マシロはひたすらにハルを求めた。



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