第15話 新しい主人と覚悟を決めた従者
夜、ユキはハルが寝るのを待った。
(寝た……? うん、寝たか)
まさか、ハルとの最後の夜をあんなにも濃密に過ごすとは思わなかった。ユキの純潔は、ハルに捧げた。初めては温かくて、少し痛くて、幸せだった。
ユキはハルを起こさないようにゆっくりとベッドから降りて、着替えた。鏡に映る自分の姿が見えた。そこでユキはハルからのキスの跡が多いことに気づいた。
(……なんか、恥ずかしい)
だが、これはユキのせいでもある。
ユキはハルのものだと思いたくて、たくさんキスしてほしい、触れてほしいと自分からお願いしたのだ。これは、ハルのものであるという優しいしるしだ。
ハルを刻んで、と言うと、ハルは嬉しそうに笑っていた。体が少し痛いが、仕方のないことだとユキは思った。
「……ごめんね、ハル」
ユキは荷物をまとめると、部屋を出た。
待ち合わせの場所は寮の少し先にある大広場だ。約束の時間まで、あと少し。
彼は街灯に照らされてやって来た。
「随分と早いなぁ、マシロ」
軽装で現れた彼は、不敵に笑っていた。
「……今はユキよ、カイ」
彼―――カイは、「どっちでもいいだろ」と言ってユキの方へと歩いた。
「重要なことよ。これから先、あなたと一緒に過ごすのだから」
「そうだったな」
カイが喜んでいるのは当たり前だ。唯一のお気に入りを手に入れたのだから。
「……震えてるな」
「っ……、悪い?」
「いいや。俺が怖いんだろ? マシロ」
「訂正して。私はユキよ」
「どうせここには二人しかいないんだ。いいだろ別に」
「よくないわ」
ユキは真っ直ぐにカイを見た。
「私は、ユキよ」
これだけは、何が合ってもはっきりさせなければならないのだ。
―――今のユキは、昔のように弱いだけのマシロではないのだと。
カイは「わかったよ、ユキ」と言うと、ユキの持つ荷物を一瞥した。
「荷物はそれだけか?」
「ええ。これ以外に必要なものはない」
「そうか。……行くぞ」
ユキはカイの後ろをついて行く。特進クラスの生徒が暮らす寮に行くのだ。
(ハル……)
そこでこれから、ユキはハルと別れて過ごすことになる。これはユキが決めたことだ。ハルにはもちろん言っていない。ハルがユキのことを知るのは明日になるだろう。
(もう、後戻りはできない)
カイと会った昨日から、ユキはすでにカイのものになっていたのだ。だからユキにはもう選択肢がない。
進むべき道は、一つしかないのだ。
「着いたぞ」
カイに案内され、ユキは寮に入って行った。広い寮だ。自分が暮らすには分不相応だとユキは感じた。
「食堂はここ、風呂場は……ああ、おまえは自室のしか使えないな」
「……」
カイは悪い笑みを浮かべる。
「無駄話なんかしてないで、早く部屋に案内してくれない?」
「それは悪かったな」
特進クラスの生徒は一人一部屋与えられる。だからユキも自分だけの部屋がもらえると思っていた。そう、思っていたのだ。
「そうそう。おまえは俺と同室だ」
「……えぇ!?」
「一部屋与えられるとでも? 推薦でおまえはここで暮らすんだ。贅沢言わないでもらいたいな」
「だからってあなたと同じって……!」
「
「っ……」
カイがユキの頰に手を添えた。
「おまえは永遠に俺のものだ。だっておまえは、やり返せないやられるだけの弱い弱いマシロなんだからな」
「〜〜っ」
過去のトラウマを克服しない限り、ユキはカイに勝てない。それをユキも、カイも知っている。
(大丈夫、大丈夫。今の私はユキ。それに、ハルがいるもの)
ユキが今着ているのはハルのシャツだ。
ユキがユキでいられるために必要なものだ。これがないと、ユキはマシロに戻ってしまうような気がした。
「改めてようこそ。我が特別寮へ」
「……」
ユキはカイの手を取って部屋に入った。
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