第13話 脅された主人と忠告を受け取った従者
「……そいつを呼んだ覚えはないぞ、サク」
「申し訳ございません」
サクに案内され、特進クラスの生徒のみが使用できる部屋に倒された。圧倒的なリーダーの格、その存在感にユキは気圧されそうになる。
(大丈夫、大丈夫……今の私はユキだもの)
もう弱かったマシロではないと、ユキは自分に言い聞かせる。
それに、とユキは思った。
(私には、ハルがいる)
ハルがいるだけでこんなにも心強いのだとユキは知った。それだけで、ユキはユキでいられる。
「……それで、何をしたいんですか? カイ先輩」
「ああ、そうだったな。―――そいつを俺にくれ、ハル」
(はあ……っ!?)
(やっぱりそれか……)
ハルはため息をつくと、言った。
「カイ先輩。隠さなくていいです。はっきり言ったらどうなんですか? ……ユキちゃんが女の子だって知ってるって」
「!!? ハル、あんた……っ」
「ふ、ははっ。いいのかぁ? そんな大事なこと言って」
「ここは特別な部屋ですから。つまりカイ先輩はユキちゃんの秘密を隠すことを条件にユキちゃんが欲しいってことなんでしょう?」
「正解だ」
「っ……」
ユキは全身が恐怖と寒気で覆われるのを感じた。きっと、昔のように殴られ、蹴られ、痛めつけられるのだろう。いや、今のユキなら、おそらく夜に―――。
(いやだ、いやだ……っ)
ユキは傷つくのが怖い。傷つけられるのが怖い。だから力をつけた。でも、カイは当然それ以上の力を持っているし、なにより、ユキのトラウマだ。
仮にカイ以上の力を持っていたとしても、おそらくユキは逆らうことができない。それほどにカイとの記憶は根強いのだ。
「……嫌だ、と言ったら?」
「その時はバラすまでだ。事実でなくとも、周りはおまえがそいつを抱いたと思うぞ。その逆でもな」
「ハルはそんなことしない! ……あっ」
ユキは自分の口を押さえる。
「そう、こいつが言ってもな」
「っ……」
ハルは少し悩むとカイに聞いた。
「ユキちゃんは特進クラスじゃないです。だから寮を移ることはできませんよ? それに、カイ先輩とユキちゃんが一緒にいられるのは今の休み時間ぐらいです」
「そんな誰にでも思いつくような問題、俺がクリアできてないとでも? 交渉にならねぇだろ。……特進クラスは、複数の推薦人がいれば入れるんだよ」
「!」
「つまり、俺にはその推薦人のあてがあるってわけだ」
「……そうですか」
「残念だったな」
ハルは内心、焦っていた。明らかに分が悪いのはハルたちの方だ。このままではユキがカイに奪われてしまう。
「……ま、とりあえず今日はこれで終わりだ。時間だしな」
「!」
時計を見ると、残り五分ほどで授業が始まってしまう。
「考えておけよ」
「……わかりました」
(見逃された……? でも、どうして……)
(何か対策を考えないと……)
「サク、頼むぞ」
「かしこまりました」
別れ際に見たカイは、不敵に笑っていた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「どうも。……!」
ユキのポケットにサクが何かを入れた。
「……どうかハル様のいないところで」
(なるほど。そういうことか)
カイは逃したのではない。
忠告をしたのだ。
そのことに気づいたのはユキだけだった。
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