第11話 秘密に気づいたある主人と調査を命じられたある従者
『そいつの名前、教えてくれない? あと、あんたのことも教えろ』
『……ぼくはハル。こっちはユキ。ぼくたちは一般クラスなんだけど、最近転入したばっかだから迷っちゃうんだ。お邪魔しちゃってごめんなさい。あなたは?』
『カイだ』
『そうですか。カイ先輩と呼んでも?』
『好きにしろ』
カイは昨日の出来事を思い返していた。
(なにか引っ掛かる)
特別クラスのフロアにやってきた転入生。
それがカイの脳にこびりつく。
「どうしたのカイ」
カイのもとに1人の生徒がやってきた。
カイの従者のサクだ。
「少し考え事をしてただけだ」
「考え事? カイが? 何かあったの? らしくないね」
「だな」
カイが肯定すると、サクは目を見張った。
「誰に会ったの?」
「なんで人だと?」
「カイは記憶力いいから考えているのは物ではない。これまで仕えてきた中で物に執着を見せた様子はなかったしね。となると、ここ最近会った人だと思ったんだ」
「当たりだ」
サクは鋭い。
「どういう子?」
「噂の転入生だ。色素の薄い髪をしてた。話してる途中にもう一人の転入生がやってきてな。そいつは黒髪。俺が知りたいのは前者」
「名前は?」
「ユキ、らしい。黒髪はハル。できるだけ早く頼む」
「かしこまりました」
「おい、きもいからやめろ」
「わざとだよ」
「なおさらやめろ」
「りょーかい」
サクがカイから離れた。お得意の人脈を使って探りに行ったのだろう。こういうのはサクに任せておくのが一番だとカイは知っている。
(あ。似てると思ったのはあいつのせいか)
カイは元平民だ。貴族として引き取られる前は孤児院で過ごしていた。
あいつというのは、同じ孤児院にいた小さい女の子のことだ。カイはその子の世話役になった。というか、押し付けられた。
それが嫌だったものだから、カイはストレスをその子にぶつけていた。八つ当たりだ。悪いことをしたな、と思ったが、その子はやり返さなかった。カイと戦っても勝てないと思っていたのだろう。
(なんで名前にしたんだっけな……)
その子には名前がなかった。大抵、孤児院にいる子供は捨て子なので名無しが多い。だから名前をつけたのだ。
(ああ、そうだ)
その子は珍しい白髪をしていた。
だからカイはその髪からこう名付けた。
―――決めた。おまえの名前はマシロだ。
マシロは泣いていた。
カイが暴行を加えたからだ。
泣いてばっかりのマシロが、カイは嫌いで、大嫌いで―――気に入っていた。
(そうだ。思い出した)
マシロはやり返さなかったが、決まって悔しそうな、惨めそうなキツい瞳でカイを並んだのだ。マシロなりの反抗だったのだろう。
そんな目が、カイは好きだった。
好きな子をいじめてしまうように、カイはマシロのあの目を見たくていじめていた。歪で、異常な、愛とも呼べる感情を知ったカイの言動はさらに強くなった。
やがて貴族に引き取られたカイは数年後、マシロのいた孤児院を訪ねた。しかしその時にはもう、マシロはいなかった。
マシロは、孤児院から逃げ出したのだという。馬鹿なことをしたな、とカイは思った。マシロが孤児院から逃げたのは冬の日だったという。孤児院は森の中にあって、夜は獣も動く。
―――死んだな。
カイはすぐにそう思った。
あんなに弱くて争うこともできないマシロが獣に襲われて生きているはずがないと判断したのだ。
だが―――
(あのハルってやつに逃げている途中に拾われていたとしたら?)
可能性は、ある。
(ストレスなどで白髪だったとしたら? 男子校に入学するために、女だと知られないために髪を短くしていたとしたら? 俺が何も言っても答えなかったのが声でバレると思ったからだとしたら?)
すべて仮定の話だ。確信はない。
けれど、もし本当だとしたら―――
「ユキ、か」
華奢な体、異常な怯え方、内に秘められた鋭い眼差し……。
(面白くなりそうだ)
カイは興奮を抑えきれそうになかった。
ふっと不敵に微笑んだその先には、ユキの住む男子寮があった。
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