第9話 友達が殺されかけているのを見た主人と口封じのため咄嗟に動きを封じた従者
ユキが目を覚ました。
布団から起き上がり、記憶を思い出す。
(あいつと会って、ハルに助けてもらったんだっけ……それから……)
「あ」
ユキは自分が下着以外着ていないことに気づいた。脱いだ記憶が微かにあった。そしてハルにからだを拭いてもらうよう頼んだ。
そこまではいい。そこまではいいのだ。
ユキは下のベッドで寝るハルを見た。
(! いない……!?)
ハルはどこに行ったのだろう。
「ハル……? ハル、どこ?」
呼んでも返事がない。
(どうしよう。どうしよう。ハルがいない。ハルが、ハルが……!)
ユキは急いで近くにあった服を着てドアを開けた。そして―――
「ハル〜……って、え、女……?」
「!!」
ダイキと会った。
(やばい!)
緊急の案件と判断したユキはダイキの手を引きドアを閉め鍵をかけた。
一人転がったダイキは呆然としており何も動かず、話さない。それをユキは逃さなかった。
近くにあった長いタオルを取った。ユキは片手でダイキの手首を掴み両手を拘束し、ダイキの上にのって動きを封じる。そしてタオルで口元を塞ぎ、騒ぎになるのを防いだ。
それを一瞬にして行ったことによりダイキは一言も喋ることなく拘束された。
(は? え? ユキ、だよな? でも胸……え? え??)
当然、後になって混乱する。
「あんた、ダイキってやつでしょ。ハルといつも一緒にいる」
(お、おんな……!? やっぱり女か!?)
「私のこと、しゃべったら殺すから」
「〜〜っ!!?」
もはや訳がわからない。
そこに現れた救世主が―――
「えっダイキ!?」
「(ハル〜〜!!)」
ハルはドアに鍵をかけたことを確かめて二人に駆け寄った。
「ユキちゃんダメ! 離して!」
「……正体バレた」
「えっ!? あっ」
ユキの格好を見て「そりゃバレるよ」とハルは思った。
「ハル、こいつ殺す? 殺したほうがいいよね?
「(や、やる!? カタカナの方!? いや、でもこの場合殺す方だよな!? どっちも怖い!!)」
「絶対ダメ!!」
「……だめ?」
「ダメ!!! 早く離して!」
「……はぁい」
ユキがダイキから手を離し、口を覆っていたタオルを取る。ダイキは全速力でハルに抱きつき、助けを願った。
「はぁるうぅぅっ!! ねえどゆこと!? どゆこと!!? 殺されるところだったんだけど!!」
「ほんっとうにユキちゃんがごめんね!!」
「説明しろおぉぉっ!!」
「うっさい。黙んないと殺すぞ」
「ひっ……!」
「ユキちゃん。ダメだよ」
「……冗談だ」
「嘘だ!!」
「ああ?」
「なんでもないですぅっ!」
ガクガクブルブルと怯えるダイキ。ハルの後ろに隠れているのでユキは手出しができない。仕方なく諦めた。
「と、とりあえず服返すからユキちゃんはあっちの部屋で着替えてきて。いいね?」
「そいつはどーするんだ?」
「ぼくがちゃんと説明する。大丈夫。ユキちゃんが着替えてる間に逃したりなんてしないよ。納得しないとユキちゃんはどこまでも追いかけるもんね」
「……ならいいけど」
ユキはハルから洗ってもらった制服を受け取り、脱衣所に行った。ハルはそれを確認すると、ダイキの方を見た。
「ごめんね。ダイキくん」
「……ほんとだよ。で、なんなんだ? あいつは」
「ユキちゃんだよ。えっと、ぼくの幼馴染みたいな仲の従者、です」
「えっ!? あいつが従者!? ハルじゃなくて!?」
「うん」
「まじか……見えねぇ……」
「あはは。よく言われる」
ダイキは比較的落ち着いていた。殺されるかもと思っていた時よりは安心しているのだろう。ユキがこの部屋にいるのは変わらないが。
「……えっと、とりあえずこのことは誰にも言わないでくれる? おねがい」
「言わねえよ。言ったら殺されんだろ」
「あ、あはは」
「否定しないんかい」
少し和んだところでハルは話した。
「……見ての通り、ユキちゃんは女の子だよ。普段は男装して学校にいる」
「すげえな」
「うん。でも、ここは男子校だから、ユキちゃんのことがバレちゃうと困るんだ。学校側にも、生徒側にもね」
「あー。学校だと即退学で生徒だと欲のままに使われるだろうな。あっ! 俺はそんなことしないから! てか、無理だから! 食われる側だって認識したから!!」
おそらく、襲いに行ったら返り討ちにされて食われる(殺される)だろう。ダイキはそう悟った。
「そんな訳だから、ユキちゃんの秘密を守るの協力してくれない?」
「せざるを得ないだろ。わかったよ」
「! ありがとうダイキくん!」
ハルは満面の笑みでダイキに礼を言った。
するとダイキは少し間を開けてから切り出した。
「……それでハル」
「ん?」
「おまえ、ユキとどーゆー関係なんだよ」
「え? 主従だよ??」
「そーじゃなくて! ……その、カラダの関係なのかって聞いてんだよ」
「からだのかんけい……?」
「最後まで言わないとわからないのか!?」
ダイキは小さくハルに耳打ちした。
するとハルは顔を真っ赤にして全否定。
「ぼくとユキちゃんはそんなんじゃないよ!」
「じゃあ個人的にどうなんだ? ユキのこと」
「そっ、それはっ……!」
「何やってんの?」
「! ユキちゃん!?」
着替え終わったユキが部屋に入って来た。
最悪のタイミングである。
「ひぃっ! なんでもないです!!」
「あやしいんだよなぁ……。ねえハル。こいつの言ってること本当? うそなら私が今すぐ……」
「何もしてない!」
「……そう。ならいいんだけど」
かくして、ユキの秘密を知る仲間(?)ができたのだった。
◆◆◆
補足
ハルがユキのほぼ全裸体を見てもそこまで動揺しなかったのは昨日見たからです。
それ以上にダイキが殺されかけていることに驚いたのも理由の一つです。
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