第7話 助けに来た主人と助けを求めた従者
(……行くか)
ユキはハルの様子を窺いつつ教室から出た。目指すは最上階にある特進クラスだ。
(念のためだ。念のため、見るだけだ)
ユキはそう、自分に言い聞かせる。
嫌な予感がしたのは、気のせいじゃないと思っている。今朝、ハルの口からあいつと同じ名前が出てくるとは思いもしなかった。
あいつはユキがまだハルと出会う前に会ったやつだ。ユキよりも強くて、戦いに挑むもすぐに負けた。
顔が良かったからお貴族様の目に留まっていつのまにかいなくなっていた。ユキはあいつにいじめられていたのでほっとしていた。
(もしあいつが
確実にチクられて追い出される。それか、あいつのいいように使われるに決まっている。
ユキはそう、確信していた。
だから―――
「おい」
「!?」
背後から声がして、ユキは急いで振り返った。だが、そこには誰もおらず驚いていると
「あんた、特進クラスの生徒じゃないだろ」
「っ!」
ユキの肩に手を回して、そう、言った。
男は特進クラスの生徒だった。胸元のバッヂがそれを示していた。
(こい、つ……)
男が強いことはすぐにわかった。ユキは人ひとり守れるぐらいの力がある。反射神経も優れていたし、細身の体を生かして誰よりも早く動くことができた。
だが、この男はそれを上回った。
「おまえ、どっかで見たことあるな。俺に見覚えないか? カイって言って、心当たりないか?」
(やっぱり……っ)
カイ。それはこの学校のトップにして、ユキに敗北と恐怖を植え付けた男の名前だ。
(どう、すれば……っ)
「おまえ、名前は?」
答えのは簡単だ。
だが、発すれば声の高さで女だと、昔いじめていた弱い少女だと知られてしまう。
「ほら、言えよ」
ユキの体に恐怖心が伝う。
罵倒され、暴行を加えられ、殺されそうになった記憶が蘇る。
―――おまえの髪、真っ白だな。ばばあみたいだ。
―――や、やめ……っ!
―――ああ? なんか言ったか?
―――うっ、ううっ、ひっぱら、ないで。
―――決めた。おまえの名前は〇〇〇だ。
自分勝手なあいつが。
今も残る深い傷をつけたあいつが。
今、目の前にいる。
そう思った時、ユキが助けを求めたのは。
「ユキ……っ!」
「!」
(ハル!!)
ユキはカイの手を振り解いてハルのもとへ走った。
「ごめんね、目を離しちゃって……」
ユキは首を横に振った。
そして、「私もごめん」とハルの耳元で小さな声で言った。
「そいつ、あんたの仲間?」
「!」
カイがハルに話しかける。
(マズい)
ハルはカイのことを知らない。ユキの過去も、まだハルには話していない。
だが、今のユキはあまり長く話せない。
「そいつの名前、教えてくれない? あと、あんたのことも教えろ」
「……ぼくはハル。こっちはユキ。ぼくたちは一般クラスなんだけど、最近転入したばっかだから迷っちゃうんだ。お邪魔しちゃってごめんなさい。あなたは?」
「カイだ」
「そうですか。カイ先輩と呼んでも?」
「好きにしろ」
カイは「早く帰れ。もう来るなよ」と言って去って行った。
ハルはユキを見た。
ユキは―――震えていた。
「……気分が悪いんだね。ここはぼくも初めて来たから、ちょっと緊張してるんだ。今日は早退しよっか」
ユキはこくりと頷いて、ハルと一緒に寮へ戻って行った。ハルが荷物を取りに行っている間、ユキはベッドの上で恐怖と不安で寒気を感じていた。
(ハル、ハル……っ)
ユキはひたすらにハルを求める。
ハルが戻って来るまでの時間が、とてつもなく長く感じられた。
「ユキ、ねぇ……」
そのときカイはユキについて考えていた。
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