第6話 朝が弱い主人と馬乗りで起こす従者
「……朝か」
窓から入る光でユキは目覚めた。
下のベッドで寝るハルをのぞく。
ハルは静かな寝息を立てて寝ていた。
(着替えるか)
ユキはベッドから降りて制服を着る。
鏡に映る自分を見ると、本当に男のように見えた。
時計を見ると、もう6時。
寮生は朝ごはんの時間だ。
「ハル。起きろ」
ユキは極力人との接触を避けるため、朝食はハルに持ってきてもらうことになった。そのため、ハルが起きないとユキは何も食べられないのだ。
ユキはむにゃむにゃと何かを言って寝返りを打つハルの上に強制的にのって言った。
「起きろっつってんだろ、ハル」
「ん、んん……」
さすがに重いのか、ハルはゆっくりと目を開けて起きた。
(あれ、ユキちゃんがいる……? 制服着てぼくにのっかって……どういう夢?)
だがこれが現実であることをハルは自身の感覚で知ると、目を大きく開いて「ユキちゃん!?」とひどく驚いた。
「やっと起きたな。早くしてくれない? 朝ごはん食べたいんだけど」
「あっ、ごっ、ごめん……!」
ユキがどき、ハルが飛び起きた。
「お腹すいたんだけど」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ。すぐ戻るから!」
「よろしくな〜」
ハルは急いで着替えると、部屋から出て行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
朝食の時間にギリギリ間に合ったハルは、ダイキに誘われて一緒に朝食をとることになった。
「随分遅かったな」
「う、うん。間に合ってよかったよ」
「ユキはどうしたんだ?」
「え!? あ、えっと、行かないって」
「ふぅん」
ダイキは不思議そうな顔をした。
「なあ。ハルとユキってどーゆー関係?」
「ふぇっ!?」
その質問が来るとは思わなかったハルは動揺した。なんと答えるのが正解なのかわからなくなったのだ。
幼馴染、友達、主従……。
どれを言うのが正解なのだろうか。
「……そうだね。一応、主人と従者、だよ」
「へぇ……珍しいな。あんまりいない」
「っ、そうなんだ」
「ああ。有名なのだと特進クラスの同率トップのあの2人だな」
「あの2人?」
「知らないのか? カイとサクって言えばここでは知らないやつはいないぐらいの有名人だ」
(カイとサクか……初めて知った)
ハルは聞いたことも会ったこともない。
それも当たり前だ。
特進クラスの生徒は別にある特別寮に住んでいるため、基本的に会わないのだ。
「それにしても、ハルもあんな主人に仕えるなんて大変だな。頑張れよ」
(……ん?)
ハルはダイキの言葉に違和感を感じた。
「ダイキくん」
「なんだ?」
「今、なんて言った?」
「なんだ?って言った」
「違う。その前」
「えーっと……あんな主人に仕えるなんて大変だな、って言った」
つまり、ダイキは勘違いしているのだ。
(ユキちゃんが主人で、ぼくが従者ってことになってる……!?)
訂正しようとしたが、やめた。
そっちの方が都合がいいかもしれないと思ったのだ。
「ユキにはなんか持ってくのか?」
「! うん」
「そっか。ま、さすがに食べなきゃ死ぬもんな。ユキって人嫌いなのか?」
「そ、そんなところ、かな……」
「お前も大変だな。頑張れよ」
ハルが部屋に戻るとユキが待っていた。
「遅い」
「ごめんね、ユキちゃん。ちゃんと持ってきたよ」
「ん。ありがと」
ユキはマナーや作法を一切知らない。
だからハル以外の人がいるところでは何も食べない。
「んん〜! やっぱおいしいな」
「ユキちゃんが好きそうなの、いっぱいあったよ。……やっぱり一緒に食べない?」
「バレたら私は即クビだしハルも怒られる。なら、私は我慢するだけだよ」
従者だからね、とユキが言った。
(本当はもっと食べたいけど、持ってきたハルに悪いし……諦めるか)
(ぼくのせいでユキちゃんの自由が奪われてる……申し訳ない)
ハルは話題を変えた。
「そういえば、特進クラスにもぼくたちと同じような主従がいるんだって!」
「へぇ……」
「カイとサクって名前みたいだよ」
「っ……」
ユキの動きが一瞬止まった。
だが本当に一瞬のことで、ハルにはわからなかった。
「カイと、サク」
「うん! どんな人かな……気になるね!」
「……そうだな」
うきうきの様子で支度をするハル。
(もしかして……いや、人違いだな。ここにいるわけない)
しかしその後ろにいたユキは不穏な表情をしているのだった。
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