第5話 秘密を隠そうとする主人と危機を撃退する従者




 シャワーの音が響く。

 ユキは汗ばむ体を流すと湯船に浸かった。


(はあ……疲れた)


 授業は「何言ってんだ? こいつ」とついていけないし、ハルを守るにしろ孤立していた方が都合が良く、退屈。

 そしてハルは過保護に気を使う。


(そんなに大事か? 性別の壁って)


 ユキは17歳だが、全く気にしていない。

 外見は年相応に育っているのだが、中身が全く成長していないのだ。


(一緒に風呂も入ったことあるし、何度か寝たこともあるのに変なやつだな、ハル)


 多分そう思っているのはユキだけである。

 その頃ハルに来客があった。


「ハル〜? いるか〜?」

「! ダイキくん!」


 ダイキはハルの新しい友達だ。


「おっじゃまっしまーす!」

「あっ、ダイキくん、今はちょっと……」

「なんだよハル。隠したいものでもあんのか?」

「え、えっと、ユキ……がお風呂入ってる、から、ダメ!」

「ユキ? へぇ……いーじゃん。覗きに行こうぜ!」

「だ、ダメだよ!! ゆ、ユキが怒るよ!」

「案外小さかったり? 面白そーじゃん」

(どうしよう! ユキちゃんの秘密バレちゃうよ!)


 ハルは必死に止めようとするが、ダイキの力は強く、ハルじゃ何もできない。


「だ、だめ! ダイキくん、開けちゃユキが……」

「そぉー……れっ!!?」

「!? ダイキくん!」


 ダイキが急に倒れた。


「ダイキくん、ダイキく……っ!?」


 ハルは駆け寄るも、後ろから口部を押さえつけられ引き寄せられた。


(なに、なに、なに、だれ、だれが……)


 混乱するハル。

 だがすぐに状況を理解した。


「静かにして、ハル。まだ数人いる」

「!」

(ユキちゃん……!?)


 ダイキを気絶させることができたのは、脱衣所にいたユキだけだ。

 ユキは扉の死角に隠れて入ってきたダイキを気絶させ、人を呼びかねないハルを抑えたのだ。


「なあ。なんか声しなかったか? ダイキとあと、転入生の」

「そうか? 気のせいじゃね?」

「おーいおまえら! こっちでゲーム大会してるんだがやんねーか!?」

「おっ、いいな! 行く行く!」

「俺らも混ぜろー!」


 ドタドタと足音が響き、そして、静寂の時が訪れた。


「……行ったみたいね」

「う、うん。ありがとユキちゃ……」


 そこでハルがフリーズした。


「? どしたハル?」

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆユキちゃん」

「なに?」

「そ、それ……!」


 ハルはユキを指さした。

 ハルの視線の先にはボタンがうまく留まっていないシャツと、白い下着を着たユキの姿が。


「あーこれ? 急ぎだったから適当にちょいちょいっとね……って、何してんのよハル」

「だ、だだだだだって!! ユキちゃんのバカ!」

「は?」

「そんな格好でぼ、ぼくのこと抱きしめてたんでしょ!?」

「だったらなによ。ハルのことだから大声出して他のやつら来ちゃうじゃない。これしか方法が思いつかなかったのよ。それとも太っててもちもちしてたからもっと鍛えろって言いたいの?」

「ち、違うよ!! もうっ! ユキちゃんのバカ!」


 しかし、ハルが否定したのは太っているという点ではない。というか、ユキは鍛えてるので太ってない。むしろ痩せている。


(どうしよう、まだユキちゃんの柔らかい感触が残ってる……それに、ユキちゃんの着てるシャツ、ちょっと透けてるし、し、下着も見えて……ああっ! なんでこんなことになっちゃったんだろ……っ)


 ユキちゃんの感覚消えろ!とハルは心の中で叫ぶ。だが消えてほしくない自分もいて、少し恥ずかしくなった。


「ハル。ユキちゃんユキちゃん言われるとバレちゃうんだけど」

「!! ご、ごめん……。とっ、とにかくユキちゃんは早く着替えて! ぼくはダイキくんを外に出すから」

「はいはい」

(もっかい風呂入ろっかな……でもハルが入るの遅くなっちゃうか)


 いっそのこと二人で入ることも考えたが、それだと来客の時危ないのでやめた。

 ユキは先程の出来事を思い出す。


(にしてもちっせぇ体だったな、ハルは)


 恥ずかしさも何もないユキだった。



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