第4話 女と疑われる主人と男と信じられる従者
この男子校の制服は学ランスタイルだ。
学ラン。
それは黒をベースに作られた長身の男子生徒がかっこよく見える制服。
すなわち―――
「ハル、制服似合ってないわね」
「ガーン!」
低身長で小柄なハルには似合わない。
「……そこまではっきり言わなくても」
「え。でも事実じゃん」
「うぐっ……」
ユキの言葉が深く刺さったのか、ハルは悲しげな表情をした。
「そういうユキちゃんは女の子なのに似合ってるよね、学ラン」
「そう? ありがと」
長身でスタイルのいいユキは学ランを着こなしている。
ハルなんて、一番小さいサイズでも大きくてブカブカしている。
(ユキちゃんはいいな……羨ましい)
だが何故だろう。
サラシで胸を潰しているはずなのに、圧倒的な女子感がある。
それはハルがユキに恋しているからか。
それとも―――。
「そうそう。ハル。私のこと『ユキちゃん』って呼ばないでね」
「えっ!? あっ……」
「女だってすぐバレちゃうよ」
「じゃ、じゃあ……ユキ?」
ハルに「ユキ」と呼ばれるのは新鮮だ。
背伸びした感じがある。
「うん。それでいい。じゃあ行こっか」
「う、うん」
(バレなきゃいいけど……)
さて、どうなるか。
「ぼ、ぼくはハル、ですっ。よろしく、お願いしまふっ。こ、こっちはユキ……です」
自己紹介を終えると、周りのクラスメイトからの声が聞こえてきた。
「なあ、あいつ女っぽくね?」
「あーわかる」
(ばっ、ばっ、バレて……!?)
だがハルの予想の真逆を言っていた。
「あのちっせぇやつ、女みてぇ」
(……え?)
「てか見ろよ、隣のユキってやつ。怖いな」
「な。近づかないほうが良さそうだな」
(あれ? あれあれ??)
つまり、ハルが小さくておどおどしていたことにより、ハルが女の子のように思えたのだ。
一方ユキは目つきの悪い男だと思われている。
(こ、これは、成功……? で、でもぼく、男の子なのに女の子みたいって……な、なんか複雑……)
(ま、ハルは同年代のやつと比べても背は小さい方だし、勘違いしてもおかしくないか。やっぱり私の言った通り。バレるわけないんだよ、ハルがいる限り)
結果的には喜ばしいことだ。
そしてハルはクラスの人気者になり、ユキは孤立した。
「どっから来たんだ? ハル」
「え、えっと、南の方から……」
「へえ……てか、女なんじゃねえの? おまえ」
「ぼくは男の子だよ」
「僕ってのかわいいな」
「おもしれ〜」
転入生は目立つものだ。
女の子らしい親しみやすいハル。
怖くてキツそうなユキ。
自然とユキには好奇と恐怖の視線が向けられ、孤立する。
女だとバレないが、なかなかつらい話だ。
無事一日目を終え、寮に帰って来た二人は少し話をした。
「バレなかったね、ユキちゃん」
「私の言った通りだろ?」
「う、うん。でも……」
「関わりが深くなるとバレやすい」
「!」
ユキはまるでハルの言いたいことを最初からわかっていたかのように言った。
「これでよかったんだよ。そうだろ?」
「……けど、一人は寂しいよ」
「昔はずっとひとりぼっちだよ。前の生活に戻ったようなもんだ」
そう。ユキはこんなの慣れっこだ。
だが、ハルは許容できなかった。
「そんなの、ダメだよ」
「ハル……?」
「ぼくはユキちゃんが一人でいるの、見たくないよ」
「……」
ユキは耐えられなくなったのか、すっと立ち上がった。
「ど、どこに行くの……?」
「お風呂入る」
「ああ、いってらっしゃ……って、ちょっと待った!!」
「なに?」
「お、お、お風呂って、ここ、男子寮!」
「部屋付きの小さいのあったでしょ。そこ使う」
「あっ……」
この寮には一部屋に一つ、お風呂がついているのだ。
別にある大浴場もあるが、さすがにそこにいけば全裸になるので女子だとバレてしまう。
「……入って来ないでよ?」
「行くわけないでしょ!!」
「うん。知ってる」
「〜〜っ」
そう言うとユキは脱衣所に入って鍵を閉めた。
ハルはするすると体の力が抜けていき、床に座った。
(……ぼく、大丈夫かな……)
色々と心配でしかないハルだった。
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