第3話 意識する主人と意識しない従者




「へぇ……ここが男子校。やっぱ広いね」


 さすがお貴族様の通う学校って感じだ。

 無駄に金のかかりそうなものばかりが並んでいる。


「ゆ、ユキちゃん。しゃべっちゃダメっ」

「あ、そうだった」


 危ない危ない、とユキは言った。


(胸も抑えたし、大丈夫だろ。話さなきゃバレないバレない)

(怖いよ、無理だよ……ユキちゃんが女の子だってすぐバレちゃうよ……)


 変な主従である。


「ようこそいらっしゃいました。部屋は3階の一番奥の部屋です」


 寮の管理人に案内され、二人は部屋に向かう。

 部屋に入った瞬間、ユキは目を輝かせた。

 管理人が部屋から去ると、ユキは興奮を小さな声で口にした。


「すっご〜い! おっきい!!」

「ゆ、ユキちゃん静かに……っ」

「でも見てハル! 広いよ!」


 ユキは荷物を放り出してベッドにダイブ。


「わ〜! ふかふか〜!」

「はしたないよ、ユキちゃん」

「えー? 今はハルしかいないもん」

「……」


 完全に男として見られていない。

 長年一緒にいるからか、安心できるのかもしれない。

 それが嬉しくありつつも、やっぱりちょっと悲しく思うハルであった。


「そーいえば、ここ、二人部屋なんだね。二段ベッドなんて初めてだよ」

「父上が配慮してくれたんだろうね」

「だろうね」

(……あれ?)


 ハルは何か引っかかった。


(二人部屋……二段ベッド……あっ!)


 重要なことにハルは気づいた。


「ユキちゃん……」

「ん? なに?」

「ぼくたち、同じ部屋で過ごすってことだよね?」

「んー、そうなるね。……まさかハル、私がこれでも女だからって気にしてんの?」

「気にするに決まってるよ!」


 一つ屋根の下同じ部屋で、着替えも就寝も共に同じ場所でするのだ。

 ユキはハルのことを幼馴染のようなものだと思っているし、異性だと意識していないがハルは違う。

 貴族として将来的なことも考え、ある程度の知識は持っている。

 だがユキは違う。

 ユキは戦いと振る舞いぐらいしか学んでいないので、大人のああいうことやこういうことを知らないのだ。

 つまり純粋無垢!


(変なハル。気にすることないじゃん。何がそんなにダメなんだよ)

(はぁ、家に帰りたい……)


 全く理解できないユキと、学校に来て早々家に帰りたくなったハル。

 果たして、うまくいくのだろうか。


「ねえハル」

「なに?」

「胸がちょっときついからサラシほどくね」

「え!? ちょっ、ユキちゃん!?」


 あたふたするハル。

 ユキは服のボタンを外し、そして―――


「ストォーップ!!」

「うわっ! ……ちょっとハル? 大きい声出さないでよ、びっくりし……」

「ぼく男の子なんだけど!?」

「だからなに。見なきゃいいじゃん。てか、そんなに大声出すと私が女だってバレるよ?」

「〜〜っ!! ご、ごめん……」


 ハルはハルはユキが見えない位置に移動する。


(もうっ! ユキちゃんのバカ! バカ!)


 ユキは軽く息を吐くと着替え始める。


(……ハルが変なこと言うから、私まで変になるじゃん)


 ユキは若干火照った額を冷たい手で冷やした。



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