第2話 心配性な主人と楽観的な従者




「ど、どうしてそんな……っ。父上! ユキちゃんは女の子で……」

「だから男装して入れと言っただろ。手続きは済んでいる。荷物をまとめなさい」

「そんな……」


 ハルには兄がいる。

 ハルとは違って頭もよく剣もうまい兄だ。


「……ぼくを、捨てるってことですか?」

「好きにとらえろ」

「っ……」


 すなわち、肯定だ。


「……わかりました。受け入れます」

「ならとっと部屋に……」

「でも、ユキちゃんを巻き込まないでください」

「はあっ!? ハル!?」


 ユキは怒りをあらわにする。


「ユキちゃんは関係ありません」

「あるに決まってんだろバカ!」

「で、でも……」

「部屋に戻ってさっさとしろって言われてんだろ! 行くぞ!」

「あっ、まっ、ユキちゃん!」


 ハルはユキを追いかける。


「ゆ、ユキちゃんはそれでいいの? 男装して男子校に行くって……そんなのよくないよ!」

「いいよ、別に」

「!?」


 予想外のあっさりした反応に、ハルは驚きを隠せない。


「私は、ハルに救われた時からハルがいるところならどこにでも行ってハルを守るって決めたの。だから別に男子校でもいいわよ。男装すればいいんでしょ? 簡単じゃない」

「簡単じゃないよ!!」

(だってユキちゃんが女の子だってわかったら、他の男は……!)

「ハル」


 ユキは言い聞かせるようにハルの名前を言った。


「私の幸せは、私が決める。これは、私がした判断。ハルにつべこべ言う権利はない」

「っ……」

「それにね」

「!!? なにやってるのユキちゃん!!」


 ユキは机に置いてあったハサミで自身の髪を切った。

 ユキの髪がハルと同じように短くなる。

 ユキは髪を切り終えると、ハサミを置いてハルに言った。


「知っての通り、私は性格も男っぽいから、バレたりしないよ」

「っ、そういう問題じゃないでしょ!」

「いーじゃん。面白そうだし」

「!!?」


 ハルは忘れていた。

 ユキは基本的に楽観的であることを。


「で、でもバレたらどうするの……?」

「バレないよ」

「だからバレたらっていう仮定の話をしてるんだよ!」

「もし、なんてないから」

「わかんないじゃん!」

「……めんどくさ」

「ちょっとユキちゃん!?」


 ハルが危惧しているのは学校から叱りの言葉が来るんじゃないか、またはハルの父から言われるんじゃないか、ということだが、もう一つあった。

 それは―――


「でも、ユキちゃんはかわいいからすぐに女の子だってわかっちゃうよ」

「……それ、本気で言ってる?」

「当たり前だよ!」


 もう少し言うと、ユキは女性らしいなめらかで曲線的な体をしているのだ。

 とくにそう、上半身が。


(ユキちゃんは大きいからすぐバレちゃうよ……なんて言ったら、怒るだろうし)


 本音を言えば、ハルが恥ずかしくて言えないだけだが。


(胸はサラシで潰して固定して、声は話さなきゃバレないよな。それから……)


 ユキは男装を考えるのに集中している。

 もうここまで来たら「やっぱなし」とかはできないだろう。


「男装して男子校に入学してハルを守る。これまでで一番面白そうだな」

「これまでで一番危険な予感がするよ……」


 ハルは憂鬱な気分で、ユキはうきうきで男子校に向かうのだった。



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