水槽の中、貴方は見てる

 人間っていいなぁ。ずっとそう思ってた。


 私はここで生まれた。だから大きいみんなが言っているような広くて自由な「外」を知らないし、行くこともかなわない。


 だけど、多分私だけが知ってる小さな秘密もある。


 それはたった一人の人間の娘。だけど私がここに移ってからずっと見に来てくれる。私は人間があんまり好きじゃないけど、その娘だけは別だった。


 私を見に来るとき、大抵その娘は最初「悲しい」顔をしてる。でも、私をボーって見た後は目をキラキラさせて、羨望のまなざしで私を見るのだ。


 私のお世話をしてくれていた人は、私が大きくなると同じような目をしていた。そう、きっと「喜んで」いるのだ。


 だけどね、貴方がどこかへ帰る度に、私は痛感するんだ、貴方は私と違うんだって。貴方は私と違っている場所を縛られない、「外」に行ける。自由に動ける。



 ただ、羨ましいなぁ。って思ってた。



 でもね、いつか気づいちゃう。私たちは相容れない別物だってことを。


 きっとその日は私が特におかしかったとかじゃなくてただ運が悪かっただけなんだと思う。いつも通りゆらゆらと流れに身を任せていたら、気づけば床に引っ張られてて、私は動けなくなっていた。


 あぁ、これは、駄目だ。動けない。力も入らないから引き離すことすらできない。元より力強く動かすことを前提とされていない体が憎かった。


 もし、もし万が一私が人間だったなら。ここから抜け出せるのに。


 周りを見ると、あの娘もいた。「悲しい」ような、どちらかと言えば「絶望した」ような顔だった。あの顔は私の友達が死んだときの顔。哀悼の意を込めるというよりも、要らなくなったとでも言いたげな。


 あぁ、妬ましい。


 衝動的に飛び出た思いに驚いた。何で?どうして私はそんなことを思うの?


 あぁ、…結局は別物だから?

 多分きっと、それは思っちゃいけない事だった。それなのにその言葉が私の透明の心を侵していく。あぁ、そうか。



 どうせ私はこんなもの。どうせ貴方もそんなもの。



 どうしてわたしたちは違うものと相容れないのかな。

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憧れと失望の輪の中で 三門兵装 @sanmon-3

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