しんゆう

はっこ

第1話

実はさあ、オレ、幽霊なんやで。


うん、知ってたよ。


ちょ、お前知ってたんかい。


うん。


ちょ待てい…今日は偉く塩対応やな。何か気に触るようなことしたんかな、オレ。


…いや、そうじゃなくてさ。


だったら何や。


今までずっと自分が幽霊だってこと隠して僕とずっと遊んでたってこと、なんか気に食わなくてさ。


…お前、ずっと分かってたんか?


うん。


お前、ほんますげえなあ、普通やったらギャーッて叫んでダッシュやろ。ダッシ

ュ。


だって僕、君に会った時、やった!今までずっと見えなかった僕にも見えるようになったぞ!やっほーーー!!!ってテンション爆上がりになってて、怖がる余裕なんて全然なかったんだもん。


やっぱさ、お前、そういうノリのいいトコもっと外に出せや。いつもこーんなぼーっとしたままだとこの先、ある意味偉えことになるで。


そっか。ところでさ、君は「どうして」死んだの?


…聞いとったんか?オレの話。


ねえ、お願い。話してよ。


お前ってやつはほんまに…まあええか。じゃあ、それには条件が…


はーなーせ。


オレが死因を話したら、


はーなーせ。


お前はこれから、


はーなーせ。


わーたっあーもー!!!!なんや人が喋ってる時に。


はーなーせ。


あーもー!!!その話せ話せコール止めい!!!!分かった分かった話す話す!!


そうして。


……まったく、お前と喋ってるとほんまに気が狂うわ。はあ…まあ、まずは単刀直入に言うな。



オレは、爆発で死んだ。



……へえ。


なんや、冷静やな。


そこんとこ、詳しく。


オレが死んだのは、ちょうど100年前かな…?オレは、至って普通の学生やった。大阪から東京に越してっても、このオレの持ち前の明るさで友達とも家族とも楽しくやれてたんや。


……そうなんだ。


ああ、でもある日、地面が信じらんねーくらいにぐわんぐわん動いてさ。もう、ぐわんぐわんだぜ。あん時はもう、マジでビビった。


幽霊なのに、現代語使いこなしてるね。


当たり前や、このオレを誰と心得る!オレは言わずと知れた「現代っ子ミラクルスーパーサンさん」やで!!


そんな名前、聞いたことない。それに、めっちゃダサいよ。


グサッ...今メッチャ傷ついたわ〜ちょっと待てな……オレのこの弱々メンタル豆腐回復まで、10…9…8…


1。はい、続けて。


なんでやねん(笑)!お前はぁ……まあ、ええか。でさ、オレはその時、親友の…確か、ナツって奴と一緒に街の商店街を歩いとってなあ。で、地震にあったのもそこでさ。地面が揺れてる周りの家々が液体みたいにグチャグチャに倒れおって、人の悲鳴とか、もう悲惨やったわ。今の言葉やと、あれは「関東大震災」って言うらしいんや。


!


やっと揺れが収まったと思うたら、パチパチ…って音がして、血の色みたいな炎がすぐそこまで来てんねん。もう逃げるしかないって思った時、



「助けて!!」



って声がして、見たらおぼこい(幼い)男の子が倒れた家屋の隙間に挟まれてんの。すぐそこには炎の海。オレは……躊躇した。でも、ナツが脇目も降らず駆け出したんや。そん時オレ、滅茶苦茶恥ずかしくなって、俺も急いでナツの後追ったんよ。なんとか、「てこのナントカ」やらでその子を助けたんやけど…そしたら、いきなり知らんおっさんが何やってんだ、早く逃げろって急に来てな、そんなん分かっとるわって思うたら、ここは危険だ、この崩れた家、ガス通ってんだぞって怒鳴ってきたわけ。


……それで?


オレ、とっさにナツと男の子を安全な道の方に突き飛ばしたんや。そしたら…いきなり背中の方がブワッと熱うなってなあ...そして、ドオオオオオオオオってものすごい音がして…………気づいたら、死んでたわ。


ちょっと待って、展開急に早くない?


しゃあないやろ。オレが覚えてんのそこまでしかねえし。


…そっか。じゃあ、事故死ってことだね。自分より他人の命の方が大事っていうくだらない自己犠牲でやったわけじゃないんだよね?本当にただ予想外の事故に巻き込まれただけなんだよね?そうだよね?ねえ?


ナツ、本当は何かあったんじゃないんか?今日のお前、何か変やで。


……ごめん。ところでさ、遺された君の家族はどうなったの?僕のことは君の後に話すからさ。


ホンマかよ。じゃあ……最初、自分が死んだなんてまったく信じられなくてな…………でも、すぐ側に真っ黒な人が倒れていて、それがオレだって何故かすぐに分かってな。あっという間やったわ。


………それであの世に行かなかったのは、何かこの世に未練があったと言うことだよね。


お前はあんまし決めつけん方がええで。しっかしそうやなあ、まあそれもあるっちゃあるなあ…


どういうこと。


いや、幽霊になってすぐ、ナツとあの子は生きていて病院にいるって直感してな、その後、自宅があった方へ行ったんよ。案の定、家は跡形もなく崩れておったけど、家族は皆、奇跡的に無事やったんや。


へえ、それは良かったですね。


最後まで聞けい!!!!はあ………そんでも、家族は皆ぼんやりとした目しとって…………もうオレの事故のこと知っとるみたいで……


…………………。


オレは、皆の側に行ったんよ。そしたら、生前オレに一番懐いていた妹のナナが「なんで…」って言いよって……そして………………


彼女、なんて言ってたの?


…「何でサン兄は死ななあかったんやろ」……

くすんだ硬い硬い仮面のような表情で大粒の涙こぼしながらさ。

それに……


また何か言ってたの?


「サン兄はうちら家族よりあの見知らぬ人らの方が大事やったんや。きっとそうや!あの子らの方が死ねばよかったんや!そうしたら兄やんは今もここにおったのに」。


…………そんなの…………


……しゃあないやろ。アイツはまだ8つのガキやったし、ああ言うなという方が無理やろ。


…違う。


いや。違わないんや。ナナは大人になっても、「人助けなんて、知らぬ人には救う言いおいて、一番身近な人を蔑ろにする偽善やから」って言い張っとったし、それは彼女の本心で。


違うよ。


違わないやろ。それともなんや、オレに対する哀れみか?



違うって言ってんだろ!!!



な、なんや急に。いきなり大声出すな!やっぱ今日のお前何か変やで。


何も変じゃない…僕が間違ってたんだ。ただ、それだけのことだったんだよ。


え?


君が死んだのは僕のせいなんだから!!


はあ!?


だってそうだろ!あの時,僕があの子を放っておいていれば、僕が真っ先にあの子を助けにいかなければ,君はまだ生きていられた!夢も叶えられた!それに、あの子だって言ってただろ。



ごめんなさい,ごめんなさい。ボクのせいで死んじゃった、って。



あの子の両親はあの地震で2人とも死んじゃってたから、あの子は別に僕の過剰な善意で助けられなくても、あのまま死んだ方がずっと良かったんだ。だから…


パアアン


痛っ!何すんだよ!


ナツ!この阿呆が!いちいち説明しなきゃわからんのか!!いいか、俺はああやって死んだことを全く後悔なんぞしとらん!むしろお前の優しさを目の当たりにできて清々しいくらいやわ。本当にナツは俺の尊敬すべきやつだってガチで思っとったのに!それなのに、さっきのお前の発言はなんや。お前がそんなこと思っとったなんて…もう失望したわ!


………なんだよ……それ。じゃあ。結局、君、いや、サン。その主張だって、単なる押し付けにしかならないじゃん…ふざけんなよ!!サンがいくら僕のことを清々しく思っていようが、何だろうが、サンは既に死んでるだろうが!!!!



こういう言葉を知ってるか!?

「死人に口なし」だよ!



ねえ、知ってる?

「これだけの怪我で生きてるなんて奇跡だ」

「なんでうちの子が死んで、あんたが生きてんでしょうねえ」

「ごめんなさい」

「その傷、どうしたの?」

「うわぁ、気持ちわりい!近寄んな!!」

「そっか、大変だったね。でももう大丈夫」

「過去は忘れな」

「国内最高齢ですって、すごいねえ」

これら全部、僕とサンのこと、何も知らない奴らが振りかけたものだよ。僕はそういった無責任にこの117年間、ずっと付き纏われてきたんだよ。長生きなんて知るか。大丈夫なんて言葉で片付けられるなんて思うなよ!!楽しいこともそりゃあったけど、この苦痛は誰に話しても、どんなに励まされても、一生消えることなんてなかった……サンにはわからないよ!


そっか…分かった。その考えで構わん。でもこれだけは聞いて欲しいんや。「死人」じゃなくて、「親友」としてのオレからの頼みや。


……は?


ナツ…お前はずっとオレのことで苦しんでた。それはオレがお前に謝るべきことだ。ごめんなさい。


待って、違う!馬鹿にするな馬鹿にするな!僕はサンに謝って欲しくて八つ当たりした訳じゃないんだよ!!


ほら、言えたじゃねえか。


……え?


今言ったことはオレのここ、心からの言葉だぜ。ナツも本心を言って欲しいんや。それに、ナツがさっき言ったことは、「オレ以外の周り」に言いたいことであって、「オレ」に言いたいことではない、そうやろ。もっと言っていいんや。オレは今度こそ永遠にお前のそばにおるから。な?


…………本当に?


ああ、絶対に。


…………あの時ね。


うん。


サンが僕とあの子を突き飛ばした時、正直信じられなかった……どうか悪夢でいて欲しいってどれだけ願ったことか…………


そっか。


悪夢でいて欲しかった。でも、気がついたら僕はベットで横になっていて…ベットのすぐそばには僕のお母さんと……涙をボロボロこぼしている君のお母さんが、いた。


ああ、そういや、オレのおかんだけはナツのそばにいたんやな。


「なんでうちの子が死んで、あんたが生きてんでしょうねえ」って……あんなに明るくて優しい君のお母さんがそういうなんて、信じたくなかった。


…………。


そしたら、僕の隣にあの男の子が泣いていて……それでも元気そうで…その瞬間、無事だった、って僕は思った………思ってしまったんだよ……



君の命より、あの子の命に安堵した自分に……酷く失望したんだ。




ずっと、辛かった。




怪我が治っても、大人になっても、どうしてもあの時の君や、あの子と君のお母さんの言葉がどうしても心にこびりついて、取れない。取ろうとしても、君を忘れたくないのに、まるで現実逃避しようとしているような僕が、僕を大嫌いになる。このままだと苦しいだけなのに、自分を許そうとするとドス黒い失望がやってくる……………ずっとドス黒い負の無限ループを渡っていた。死のうとしても、君の面影がどうしても思い出されて、死ねなかった。だって、自分で死んだら……



僕はサンに、生きて欲しかった。



そんなもう取り返しのつかない願望を自分で刺し殺してしまうようで、それだけは、嫌だったんだ…………



それだけは…………



ああ。もういいんや。

お前も何も悪くなんや。誰が悪いとか、良いとか、もうそんなん気にせんでええ。

辛かったなあ……



よしっ!!!じゃあ、次や!



え?


なんや、ナツ。俺らの謎ルール、もう忘れとったんか?全く情けないなあ。

言うたやろ。

『悲しいこと、辛いことは先に話す。そして、楽しいことで締めくくろう!』って。


ああ…そうだったね。


だから、今度はナツが今まで生きてきて最高に楽しかった思い出を俺に全部紹介してくれへんか?頼むっ、この通りや!!!


…なんだよ、それ。本当にさっきの僕の話聞いてたの?


お願いや、頼むっ、聞いてくれ!!!


……全く、サンは全っ然変わらないね。ホント、君には敵わないや。


なんや。敵わないって。オレ、ナツに勝負仕掛けたまま逝ったっけ?


違う、そうじゃない…………


よし、じゃあ勝負や!言っとくけどなあ、勝負しようとするヤツはぁ、そこのけそこのけ、この「スーパーミラクルサンさん」が通るでーーー!!!!!


なんか、さっきよりダサくなってない?それに、そこのけの使い方、それで合ってるの?意味不明なんだけど。


…プッ、あはははははははははははは!!!!!全く、ホンマ変わらんなあ、ナツ。


ちょっと!僕のセリフ取んないでよ!


ええじゃないかええじゃないか!はっはー!!


もー!じゃあ僕の話をするからさあ、よく聞いてね!!


ん?なんの話や?


自分で自分の言ったこと忘れてるしー!あはははははは!


笑うなや〜ナツ、このー!!!


あっやったな!サン、これでもくらえー!


ははははははははははは……


ははははははははははは……




…よかった。少年達はまた仲直りできたんだ。



私の曾祖父の葬儀は、つい先週行われました。

117歳。世界最高齢だと持て囃されても、「私は偉くない」と謙遜するほど謙虚で、誰にも優しい人でした。私は、そんな彼が小さい頃からたまらなく大好きで、彼が住んでる家に遊びにいくことが何よりの楽しみで。

そして、思っていました。

このような幸せな日常がずっと続いていくと、愚かに、勝手に。

しかし、私が中学生になった時、彼は自宅で倒れているのが発見されて救急搬送され、その時は一命を取り留めたものの、昏睡状態に陥ってしまったのです。

私は、大好きなひいおじいちゃんが死ななかったことで嬉しいやら、でももうこのまま起きなかったらと不安になるやら悲しいやら、もうごちゃごちゃした気持ちでいっぱいでした。

それからというもの、私の放課後の日課は彼が眠っている病院へ行き、彼のベットのそばで話しかけたり座ったりすることになりました。

今思うと、その時の私はひどく混乱していました。大好きな人が起き上がって、私に向けて優しく微笑みかけ、頭を撫でてくれる、そんな細すぎる希望に縋ることで精一杯だったのでしょう。

ねえ、ナツひいじい、起きてよ。また一緒にお話ししよう?

そんなある日、私は寝ている人の頭の中を覗ける、という道具に手を出してしまいました。

普通の私だったら、こんな双眼鏡と聴診器を合体させたような胡散臭い代物なんて絶対に受け取らないでしょう。しかしこの時、不安と悲しみと焦りで半ば気が狂っていた私にはそうできませんでした。

眠り続ける彼の額に聴診器の部分をのせ、自分は双眼鏡の方を装着しました。

すると、なんとその先に、2人の少年が向かい合って座っているのが見えたのです。

しかもよく見ると、大きな丸眼鏡を掛けた大人しそうな少年の方は、彼だったのです。若いひいおじいちゃん、可愛いな。

彼らはどうやらお互いに親友らしく、他愛のない話や、その部屋にあった玩具箱からけん玉やヨーヨー、ベーゴマをして非常に楽しそうにしていました。

なのにその空間の中での2人は共にどこか寂しそうな顔をしており、その空間には明るい空気だったのにも関わらず必ず悲しげな雰囲気も醸し出しているという何とも奇妙なもの。

どうして、親しい友達と過ごす時間がこうなってしまうのか。

私には、分かりませんでした。

そしてついに私は、毎日のように覗いていたそこで訳を知りました。そんな話、今まで彼の口から聞いたことなんてない。なぜずっと教えてくれなかったの。

…曽祖父は、とても優しい人でした。きっと、そんな暗い過去を聞いて悲しげな顔をするであろう私たち家族のことを気遣ってあえて言わないでおくことにしたのでしょう。

そんなの、いいのに。私は、大好きな人が知らないところで辛いことをずっと抱え込んでる方が一番嫌なことなのに。

そして、その話の翌日。彼は一度も目を覚ますことなく、冷たくなっていました。



彼は幸せにあの世へ行けたのでしょうか。あの日、あの時、自分の目の前で死んだ親友に本当に再会できて。彼は、幸せだと思えたでしょうか。

絶対に、そうでしょう。だって仲直りできたのだから。

私はこの世で、そうであって欲しいと祈るしかありません。






































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