第11話 予想外の班メンバー抜け
学校の授業が始まって二日目。
早朝、いつもの自主練で走り込みやストレッチをしてから、寮で同室のメンバーと朝食を一緒にして、武器修練の授業の為に屋外訓練場に向かった。
だがそこで、メンバーとポム教官が全員集まったところに、いきなり爆弾が落とされた。なんとミルカが「私、この班を抜けて別の班に入る事にしたの」と、班移動の話を切り出してきたのだ。
私は心底びっくりした。
「え!? ……ええ?」
衝撃に続いて、困惑が襲ってくる。
……確かに、最初こそ学校側で班の人員を決められていたが、後でメンバーを入れ替えるのは自由云々とは言われていた。だが、まさか班結成の翌日にいきなりそんな事になるとは、まったく予想していなかったのだ。本当に驚いたし、私が班長として至らないからではと焦った。
その後、理由を聞いてみたところ、ミルカは最初から女性だけのメンバーの班に入りたいと希望していたらしく、女子寮にて他の班の女性達と話をして、女性だけの班を新たに作り上げたのだそうだ。
「そもそもこの学校に入ったのも、今後も一緒にやっていけるパーティメンバーを集めたかったからだし。そのメンバーは女だけが良かったの。そういう事だから悪いけど、あたしは班を移動させてもらうわね」
ミルカはあっさりそう言い放って、新しい班のところへさっさと行ってしまった。そのドライな後ろ姿に、私は唖然としてしまった。……班って、そこまでさくっと抜けられるもんなのか。
「キーセ、大丈夫か? なんかショック受けてね?」
私の顔色が悪かったのか、クローツに心配そうに問われた。
班長として、いきなり班メンバーに抜けられたのが、それなりにショックだったのは確かだ。何だか務めを果たせなかった気分なのだ。
「気になさらない方が良いですわよ? ミルカさんは女性だけの班が良いと言いつつも、わたくしには声を掛けていかなかったのですし。彼女はこの班に合わない方だったというだけでしょう」
「え。そうなのか……」
昨日の夜に女子寮で声を掛けて回っていたという事は、初日にして既に、この班を抜ける事を決心していたという事だ。それなのに同じ班の女性であるフィーには、あえて声を掛けていなかったという。
何だかモヤモヤする抜け方だな。これは私が気にしすぎなだけだろうか。
「そういえば、これでフィーさんが班で一人きりの女性って事になっちゃったね」
コリンはミルカが抜けた事には然程ショックを受けていないようだ。だが、フィーが班で唯一の女性になってしまったのを心配している。
言われてみれば女性が一人だけだと、言いたい事をすんなり言えないとか、色々とあるかもしれない。でもフィーはマイペースで図太い性格みたいだから、そういうのはあまり気にしない可能性もある。
「男女混合では、実際に冒険に出た時に、着替えやおトイレで気を遣う場合もありますので、ミルカさんはそれを避けたかったのでしょう。ですがわたくしは、冒険者となれば男性と一緒の機会が多くなると予めわかっておりましたし、別にそこまで気にしませんわ」
案の定というか、フィーはおっとりと微笑んでいるだけで、班に女性が自分だけになってしまったのを気にしている様子は見られなかった。
「……この学校で冒険の基礎を身に付けた後、そのまま同じメンバーでパーティを組んで、冒険に出かけたいという思惑の人は多いのです。その為、学校側も生徒の自主性に任せて、班のメンバー入れ替えを容認しているのです」
これまで成り行きを静かに見守っていたパム女史が、事情を淡々とした口調で説明した。
「学校を卒業しても、同じパーティでって……、そうなんですか?」
私はその説明にも驚いた。
「キーセはそのつもりなかった?」
無邪気なクローツに逆に問われて、慌てて首を振る。
「あー、いや。……まだ学校が始まったばかりだし、この世界にも来たばかりだしで、全然その後の事を深く考えれてなかったな。……そうか、ソロで活動するんじゃなければ、ここで知り合った班のメンバーが、一番のパーティ候補になるのか」
言われてようやく、自分にまったく心の余裕がなかった事に気づかされた。卒業後にどうするかを、まるで具体的に考えられずにいたようだ。
だが、改めて考えてみれば、パム女史の説明に納得させられた。
冒険者は危険の多い職業だ。ソロ活動ではどうしても、自分がミスをした時や、多数の魔物に襲われた場合になど、対処の仕方が限られてしまう。
だが複数人でパーティを組んで冒険していれば、ミスを周りにフォローしてもらえる事もあるだろうし、魔物に囲まれた時だって、何らかの策を取れる可能性も高くなるだろう。
命大事にと考えるなら、冒険者がパーティを組むというのは、ごく当たり前の行為なのだ。
そして、冒険者養成学校が、パーティを組む相手を探す側面もあるいるというのは、とても理に適っていると思う。
「キーセさん。今のメンバーでは規定人数に足りませんし、斥候、盾持ち、あるいは回復職など、今のメンバーに足りない役割を持った人を、班長として勧誘してきて下さい。……ほら、ミルカさん達が新しく班を作った影響で、班を追い出された形になった方もいるようですしね。他のメンバーは、先に鍛錬を開始していて下さい」
パム女史が冷静に私のすべき事を指示してくる。教官である彼女にとっては、班のメンバー移動など、毎度の行事といった感覚なのだろう。他のメンバーに鍛錬を始めるよう指示しつつも、班長である私に対しては、班メンバー補充の為に臨機応変に活動するように促してくる。
「なら、あちらの方など良いのではないでしょうか? 大きな盾を持っておられますし」
フィーが、少し離れたところにいる盾持ちの男性が、班を離れて佇んでいるのを目ざとく見つけて、私に指し示してくれる。
「なるほど、班メンバー入れ替えに当たって、あぶれてる人も出てくるのか」
「そういえばうちの班には、盾持ちがいないね。でも回復職もいてくれれば有難いよね?」
「班メンバーは6人までって決まりだけどさー。うちのメンバーに足りないの、盾持ち、斥候、回復職って、足りない職だらけだよな? なら、どれを優先して誰に声を掛けるのかは、キーセの判断に任せよーぜ」
「そうだね。キーセくん、頑張って」
コリンの指摘にクローツがそう答えた事で、スカウトは完全に私任せになったようだ。うわ、責任重大だな。
まあ、班メンバーがぞれぞれ別々の相手に好き勝手に声を掛けて、結果的に規定人数以上の数が集まっても問題だしな。
「……そうだな。盾持ちか斥候か回復職がいた方が安全だよな。今班から外れてる人を中心に、声を掛けてみてくる」
私はとりあえず、ミルカが班を抜けた事で受けた衝撃を心の内で切り替えて、新しい班メンバーを補充する為、スカウトに行く事にした。
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