第10話 人間関係を円滑にするのって難しい

 装備を整えた後は屋外の訓練場に移動して、基礎からの練習となった。

 私はこれまで武器を扱った事など一度もないので、持ち方から振り方といった基礎の基礎からじっくりと教わった。

 武器を扱えるクローツとフィーもパム女史と一緒に教える側になり、初心者3人をそれぞれマンツーマンで鍛える形である。


 フィーとクローツの模擬戦は、二人に本物の武器で打ち合ってもお互い怪我をせず戦えるだけの力量があってこそ行えたものであって、初心者の私達がいきなり対人戦なんて、危険すぎて論外だ。

 安全性でいえば武器だって、初めは木刀や刃が削ってある練習用の武器を使った方がいいらしいのだが、短期間で実戦で戦える冒険者を育成しなければならないので、習得を急ぐ為に最初から本物を使うのだそうだ。

 その分、最初の武器の扱いに関しての注意はすごく口煩いくらい細かかった。


 武器の素振りを時間内ぶっ続けでやったら、体がクタクタになった。扱いなれない上に本物の武器を使っての訓練だから、体力だけでなく神経もくたびれる。

 男女に別れてシャワーで軽く汗を流した後、昼時にチーム全員で食事を取りながら、パム女史から、魔法の概念についての説明が行われ、各々の属性の確認などの情報交換もされた。クローツが風、私が雷、コリンが土、ミルカが火だそうだ。フィーは属性魔法の素質はないそうだ。


 その後は食後休みで休憩に入った。

 食堂で食事を終えてからは、休憩の間に、剣の訓練で普段使ってない筋肉を使ったせいで痛みを訴えていた身体を、ストレッチしたりマッサージしたりして、ゆっくり筋肉をほぐしたりして過ごした。

 パム女史を除くチームメイトは集まって雑談も交わした。フィーとクローツとコリンは大分打ち解けてきている様子だったが、ミルカだけは打ち解けられず気後れしているのか、口数が少なかった。





 午後からは、銃の取り扱いの説明があり、続いて射撃訓練が行われた。

 今回は初回だから、正しい取り扱いについてじっくりと説明され、慎重に使い方や持ち運び方を習った。


 その後は体力増強の為、学内の敷地に設置されたコースを踏破する訓練をした。

 ちなみに装備はそのまま、午前中に選んだばかりの武器防具を装備したままで、だ。

 学内に設置された踏破用のコースには、魔物や危険な動物(熊や狼や猪など)は入れないよう柵で囲んであるとはいえ、自然の起伏に富んだ地形だ。訓練用にわざと足場が悪い獣道のようなコースを作ってあるらしい。

 しかもこれに、班担当官は同行しない。

 つまり、生徒だけでお互いをフォローしつつ行動しなければならないのだ。

 チーム内で協力して、決められた時間内にゴールするのが目標だ。

 アクシデントがあった場合には発煙筒やトロンカードで、即座に担当官へ連絡できるとはいえ、生徒だけでの訓練となれば班長の責任重大だ。私はこっそりと溜息をついた。



「フィーとクローツが先頭、その次がミルカ、コリン。私がしんがりで全体を把握しなが移動する。先頭二人は何かあったら、些細な事でも後ろに声掛けしてくれ」

「わかりましたわ」

「了解ー!」

 実力派のフィーとクローツに先頭を任せる。

 この二人なら多分、道をうっかり外れて迷うとか、何か出た時にパニックになるとかないと思う。特にフィーは羽蜥蜴をペットにして連れてるくらいだし、蛇や蜘蛛がいたくらいではまったく動じなさそうに思える。

 そして、体力的には性別男性で年長である私が一番余裕があるはず。

 ……あるといいな、という思いから、誰かに何かあった場合は背負って移動というのも視野に入れて、全員をフォローできるしんがりを選んだ。


「真ん中のコリンとミルカは、お互いに気をつけて相手をフォローしてやってくれ。無理してると思ったらすぐに言う事」

「うん、わかった」

「気をつけるわ」

 コリンもミルカも言葉少なに頷く。

 班長としてはミルカが早くチームに馴染めるように、何かしてやった方が良いのだろうが、私自身余裕がなくて、何をどうすればいいのかわからないでいる。

 こういう場合、副班長であり同性であるフィーがそれとなくミルカへ声を掛けて親しくなってくれれば有難いのだけれど、マイペースで変わり者のフィーにそれを期待しても無駄そうだ。

 人間関係って、元の世界でもこちらでも、やはり難しい。



「それじゃあ、出発」


 ……そうして始まった踏破訓練では、フィーが一番余裕があった。私より彼女の方がよっぽど体力があったのだ。

「何故、そんなに体力に余裕があるんだ?」

 思わず、訓練の後にそう訊ねてしまった。女性なのにここまで圧倒的だと、何か絡繰りでもあるのかと不思議になったのだ。

「わたくし、属性魔力がない代わりに、身体強化が人並み外れて使える体質なんですの」

 フィーは特に隠す事もなく、朗らかに答えてくれた。

 なるほど。属性魔法を持たないと、身体強化だけが並外れて強くなるなんて事もあるのか。それはそれで冒険者向きの能力だな。

「身体強化かー。俺もそこそこ使えるけど、フィーのは確かに、他より強い感じがするな。模擬戦の時の腕力も凄かったし、体力も桁外れだし」

 クローツも感心して頷いた。

 言われてみたらそうだ。フィーの細腕であんなにも大きな戦斧を軽々と扱えていたのも、身体強化ありきなのだろう。


「身体強化って、私も使えるようになるんだろうか?」

 私は誰にともなく疑問を投げかけた。身体強化はとても便利そうだし、使えるならぜひとも使いたいものだ。

「人によって向き不向きがあるけど、魔力持ちは大抵、ある程度は使えるらしーよ」

「そうですわね。わたくしはそれだけに特化していますが、魔力さえあれば誰でも使えるようになるそうですわ」

 クローツとフィーがすぐに答えをくれた。

「そうなのか。なら、私も使えるようになりたいな」

「僕も、もっと体力つけて、身体強化も使えるようにならないと」

 私に続いて、コリンも熱心に頷いた。コリンはミルカと同じくらい体力がなくて、今回の踏破訓練では特にクタクタになっていたので、フィーの事が羨ましそうだった。



 そんな感じで、学校初日は無事に終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る