第9話 班の皆の装備を整える

 この世界の攻撃手段は、大きく分けると三つに分類されるという。

 打撃や斬撃に使う、剣や槍などによる武器による直接攻撃。そして、銃あるいは弓による遠距離狙撃。最後に、使い手によって違う効果を持つ魔法による攻撃だ。

 それらを組み合わせて戦う者もいれば、どれか一つに特化している者もいるそうだ。

 私はそれを聞いた時、(剣と魔法のファンタジー世界なのに、銃もあるんだな)と、密かに抱いていたイメージとのズレを感じたが、そもそもこの世界は魔法があるというだけで、文明的には地球と同じか、それ以上に発展している世界なのだ。銃のような科学を使用した武器だって、あって当然なのだろう。

 班の全員で、学校の備品から選んで装備を整える。備品は在学中は貸し出しして貰えるのだ。卒業したら自前で装備を整えなければならないが、在学中に自分に合った装備を探す事が出来る。


 まずは武器から選んでいく。

「私は、とりあえずこれにする」

 私は近接戦に使う主力武器として、リーチのある槍を選んだ。鋼鉄で出来てるから見た目よりずっしりと重い。そして遠距離用武器として短銃を選ぶ。

 どちらも自分では目利きなど出来ないので、できるだけ扱いやすい丈夫そうなものを、パム女史から見立てて貰った。

 そして、アウトドアクラブにいた時に使った事のある、藪を切り開く為の鉈と、多分この先必要になるであろう、解体に使えそうなナイフを選ぶ。

(動物の解体なんかやった事ないけど、冒険者になるなら必要だよな……)


「おお、いーかもな。キーセは俺らより年上な分、体格がしっかりしてるから、重い武器も扱えるだろ」

 クローツが賛成する。彼の使う双剣は細い。その体格から考えれば、私が選んだ槍は重すぎて使い辛いのだろう。

 ……単純に体格だけで考えるなら、私より小柄で細身なのに、明らかに槍より重くて大きい戦斧を軽々扱うフィーは、どう考えてもおかしい。


「僕は魔法使い志望だし、魔法攻撃をメインに、補助として狙撃用のライフルにするよ。後衛は任せて」

 コリンは狙撃用の長銃を選んだ。私はそれを見て首を傾げる。

「眼鏡をしてるのは、目が悪いからじゃないのか?」

 目が悪くても狙撃って可能なのだろうか? 疑問だ。

「これは伊達眼鏡だよ。実はお爺様の真似なんだ」

「そうなのか」

 コリンはよっぽど祖父を尊敬しているらしい。目が悪くないのに、わざわざファッションで眼鏡を真似するとは。

 コリンは一応接近戦になった場合も考えて、ショートソードも装備した。


「私は斥候希望だし、軽い武器がいいから、これにするわ」

 ミルカは銃を二つ、ナイフを数本選んだ。

 他、独自の武器を持ち込みしているクローツとフィーも、双剣や戦斧だけでなく銃も使うそうだ。先ほどの模擬戦では流石に使ってなかったが。


 武器を持ち歩くなんて、平和な日本で暮らてきた私からすればかなり緊張する。しかも、刃物だけでなく銃もだ。これ、もしも誰かがいきなり銃を撃ったとして、咄嗟に反応できる自信がない。

 こちらの世界でも、街中ならば武器を持たない人も多いそうだが、警備されていない街の外となれば、いつ魔物に襲われるかわからないので、武器携帯は当然なのだそうだ。

 ましてや冒険者となれば、街中であろうとも、武器の携帯は当たり前の世界である。……うーむ。早く慣れないと。



 全員が武器を選び終えると、次は防具を調える。

 防具を保管してある部屋には様々な防具が置いてあったが、全身を覆う金属鎧のようなものはあまりなかった。部分鎧や、特殊な素材の服が多い。

 中には、魔法効果の宿った『魔導具』の類もある。


「魔導具には、種類も効果も様々なものがありますが、一人につき一つだけ貸し出しが可能です。よく考えて選びなさい」

 魔導具を生徒に貸し出しするなんて、学校は結構太っ腹だ。私も街で買い物をする時に、魔導具の値段を見た事があるけど、物によってはかなり高価な代物だった記憶がある。

 そういえば、実は魔導具の中には武器の魔導具もあるらしいけど、学校の備品にあるのは防具や補助道具のみで、武器の魔導具は置いてないそうだ。学校の方針が、生徒の安全重視だからだという。

「自分で元々魔導具を持っている場合はどうなりますの?」

 フィーが両手を頬に当てて小首を傾げる。フィーの戦斧も『切れ味の強化、強度の補強』といった付与がついた魔導具なのだと言う。

「魔導具を持っている生徒は、通常装備のみにするように。但し、付加価値が一定レベルに達していない品は制限に入りません。判定は私がします」

「なら俺は、借りる必要ないや」

 パム女史の言葉に、クローツが頬を掻く。

「俺、家族から装備品用意してもらってるからさ。魔導具も四つ貰ったから、学校の備品は、補充用の銃弾だけでいーや」

「わたくしも魔導具や装備は、家の物をいくつか持たされておりますので、備品は銃弾の補充だけで結構ですわ」

 クローツに続いてフィーもそう言った。

 多分二人とも、結構良いとこ(お金持ち)の家庭出身なのだろう。それ故に装備まで事前に自前で準備されていたようだ。

 しかも彼らは戦闘力まで他と乖離している。学校に習いにくる必要が果たしてあったのか、謎な二人だ。彼らならこのまますぐに冒険者になれそうなのに、何故わざわざ学校に通っているのだろうか。


 私は貸し出される魔導具をどれにするかな。

 どうせ学校を出る時には返さなければならない借用品だ。便利すぎる物を選んでも、冒険者になった時に無ければ不便に感じるかもしれない。

 だが、ここで良い品を選び損ねて訓練中に大怪我を負ったり死亡したりしたら、それこそ洒落にならない。

 散々悩んだが、ともあれ装備を調えた。


 私は、『衝撃緩和、耐刃、耐熱、耐火、耐寒』の付与がついた、黒いジャケットを選んだ。防御力重視である。

 他にも、魔導具でない通常装備として、革と金属で出来た部分鎧を装備する。

 ……深く考えたくないが、身体が男になったものだから、下半身にも急所が存在する訳で。……まだそういう痛みを体感した事はないが、きっと想像を絶する痛みなんだろう。多分。

 それと暗視ゴーグルも装備した。


 コリンは体力回復リング、それに通常装備で防弾ジャケットを装備。その上に自前の魔法使いっぽい見た目の灰色のローブを羽織っている。

 ミルカは体力増強リング、そして通常装備で革の部分鎧と暗視ゴーグルを選んだ。

「寒冷期、雨天時も想定して、保温用兼、雨避けの上着も選ぶように」とパム女史に追加され、マント、フード付きのレインコート、ポンチョなどを、それぞれの好みで選ぶ。

 これで全員の装備が整った。


 ……私だけ、体力回復や増強といった種類の魔道具を選んでいないのが些か不安だが、そもそも基礎や下地をつくる為に養成学校にいるのだし、何とか体力をつけていくしかあるまい。

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