第8話 班のメンバーと顔合わせする

 ようやく学校の授業が始まった。

 といっても、そこは冒険者養成学校である。普通に机に向かって座学の授業を受ける時間はあまり無く、班分けによって小人数(5~6人程度)に振り分けられて、そこで担当教官から個別指導を受ける実技の時間の方が、圧倒的に多いらしい。

 そしてパーティ形式で訓練して、いずれは魔物との実戦も経験していき、冒険者となるべく鍛えられていく訳だ。

 班分けは最初こそ学校側が振り分けたものだが、今後は今の班を抜けて別の班に入ったり、別の班から欲しい人材をスカウトしたりと、それぞれが独自の判断で自由に移動したり編成したりしていっていいそうだ。


 初日は、まずは班別に分かれて、自己紹介をする所から始まった。

 うちの班の担当官はパム・フロッガー女史。厳格そうな雰囲気の大人の女性だ。

 この人が、クロス教官の不正を発見して糾弾し、我が班の担当官を交替した人だ。本来なら教官と呼ぶべきなのだが、クロス教官がパム女史と呼んでいたからか、私の中での呼称も女史で定着してしまった。……とはいえ、流石に本人に呼びかける時は教官と呼ぶように気を付けないと。


 私の所属する班の内訳は、男性が三名、女性が二名となる。

 性別に関わらず、冒険者を目指す人は結構いるようだ。私だって、もし『理想の泉』で性別が変わらなかったとしても、冒険者を志していただろう。

 この世界は、魔物退治をする冒険者が社会に必要な職業としてきちんと成り立っており、職業としての地盤が整っている。冒険者優遇制度なんかもあるので、やる気さえあれば、案外何とかなるようだ。

 私を最初に拾ってくれたファーシアだって、恋人のイードと組んでとはいえ、立派に冒険をしていたし。



 班の人員の内、二名は私とクローツだ。私とクローツと同じ班というのはクロス教官の手回しで既に決定していて、直前で教官が交代になっても、そこの部分は変わらなかったのである。

 そして、班内で最年長という理由で、私がこの班の班長を務める事になってしまった。

 不安だ。……私は、この世界の常識などまだまだ知らない事だらけの異世界人なのだが。

 だが、担当官であるパム女史から直々に指名されてしまっては仕方がない。何とかやってみるしかない。


 次いで副班長として選ばれたのは、16歳のフィッティヒ・ジェダロンナ。

 清楚で可憐な雰囲気の女の子だ。いくら服装指定がないとはいえ、動きやすいシンプルな格好をした周りに反して、ロングスカートの凝ったドレスを着用しているので、一人だけとても浮いている。

 彼女からは、「フィッティヒという名は発音しづらいので、ぜひフィーと呼んで下さいな」と言われた。

 ストレートの桜色の髪に淡い檸檬色の瞳をした、見た目はふんわり系の美少女なのだが、ペットとして連れ歩いている羽蜥蜴に「非常食25号」という名前を付けているのが発覚して、メンバー全員の度肝を抜いた。

「つまり25号以前のペットを、非常食として喰ってきたのか!?」

「うふふ、おいしく頂きましたわ」

「ひえぇ」

 常識では測れない性格の女の子だというのだけは、よくわかった。サイコパスとかじゃないだろうか、正直ちょっと怖い。


 もう一人の女の子、ミルカ・コーディフは、勝気そうな性格の子だ。赤茶のショートカットの髪に、薄茶色の瞳をしている。年齢は13歳。

 自己紹介は笑顔で普通にこなしたが、後で「なんでこんなイロモノばっかの班に振り分けられたのかしら」と小声で愚痴をこぼしていた。どうやらこの班編成が不服らしい。

 しかも、その愚痴を私が聞いてしまった事に気づかれて、お互い一瞬動きが止まった。焦って作り笑いで誤魔化したが、双方が気まずい思いをした。

 ……まあ、班長の私は異世界人だし、副班長のフィーはペットを非常食にするような少女だ。不安になる気持ちはわからんでもない。


 最後の一人はおっとりした性格の男の子で、名はコリン・ビネガー。

 ふんわりとカールした赤い髪に深緑色の瞳をしていて、丸眼鏡を使用。鼻にうっすらソバカスが浮いている容姿の持ち主だ。年齢は14歳。

 彼はこの国においてとても高名な魔法使いの孫にあたるらしく、自分も冒険者として有名になって、祖父のような偉大な魔法使いになるのが夢だと語っていた。

 とはいっても、コリンは別にその魔法使いの唯一の孫という訳ではなく、他にも大勢の孫や曾孫がいるそうなのだが。

「これからよろしく」とのんびり宣う彼は、恐らくこの班の人員の中では、最も常識が通じそうな気がした。



 ちなみに私とフィー以外は、小学校を卒業して間もない年齢だった。

 ただ、ミルカもコリンも別の街からこの学校に入ったので、クローツと同じ学校の出身ではないとの事だ。

 各々の自己紹介を終えた後、それぞれの戦闘スタイルに話が至り、この班ではクローツとフィーの二人が武術の心得があるとわかった。

 クローツは現役教官である兄に幼い頃から剣術を習ってきており、フィーの方は祖父から武器の使い方を習ったそうだ。

 彼らはそれぞれ自分専用の武器を持っており、既に独自の戦闘スタイルを確立している。


 私達はまず、戦闘技術保持者である二人の模擬戦を見学する事になった。

 得物はクローツが双剣で、フィーが戦斧だった。

 ……ドレス姿に戦斧って、すごい違和感のある組み合わせだ。

 クローツが双剣を扱う姿は、美貌も相俟って、素晴らしく格好いい。

 フィーは戦闘時でもお嬢さまのようなドレス姿のままなので、激しい動きをする度にスカートの裾が翻り、近くにいた他の班の男連中からも、熱い視線を浴びていた。

 私はうら若い女性のチラリズムよりも、太ももにガーターベルトで装備しているらしい隠し武器の存在の方が、気になって仕方なかった。女性の身体が気にならないのは、私が心から男になりきっていないからだろう。



(ってか、二人とも強いな)


 クローツの用心棒って、本当に必要なんだろうか。

 そりゃあ正直、例えお小遣い程度とはいえ、自由に仕えるお金は欲しい。

 だが、これでは私がクローツの足を引っ張るだけではなかろうか。

 あの弟溺愛の兄は、自分で教え込んだ弟の戦闘力を正確に理解していないのだろうか。それとも、わかっていて尚心配なのか。

 どちらにしろ、殴り合いの喧嘩の経験すら皆無の私の方が、クローツよりもよっぽど余裕がないのだが。秘密のアルバイトもどき、このまま続けていいのだろうか。


 私だけでなく、ミルカもコリンも戦闘経験はないと言っていたので、そこだけはホッとした。

 普通に街中で暮らす子供達が揃って戦い慣れしていたら、私はここでやっていける自信がなくなっていたかもしれない。


 模擬戦はかなり接戦だったが、一日の長か、フィーの勝利で終わった。

 そんなハイレベルな二人を余所に、戦闘経験皆無の私達は、パム女史のアドバイスを受けて、まずは貸し出し用の備品の中から、自分に合った武器を探すというところからスタートを切った。

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