第30話 琴音の初恋
日高がお風呂に入っている間、三人はテーブルでお茶を飲んでいた。
風呂から上がったばかりの琴音はお茶をゴクゴクと一気に飲み干した。
そして首に巻いているタオルで汗を拭いた。
そんな時、美穂が突然こんな事を言った。
「琴音、何で日高をデートに誘ったの?」
「何よ急に」
美穂はニヤリ笑みを浮かべこう答える。
「だって服を買いに行くなら陽葵と一緒の方が選びやすいじゃん。服のセンスは誰よりも良いんだし。それなのに日高を選んだって事は何か理由があるんじゃないの?」
「うっ……………」
琴音は明らか動揺した。
図星だったのだ。日高をデートに誘ったのはただ買い物をしに行きたかった訳では無いと。
だがその理由を答えるのは琴音にとって恥ずかしい事であった。
あとえ、ずっと一緒にいた相手だとしても。
それが顔に出てしまったのだろう。
琴音の頬は徐々に赤く染まっていた。
「ほほぉ〜ん。琴音にしては意外だね」
男をデートに誘った。
その理由を答えるのが恥ずかしいと思ってしまう。これだけ情報があれば、美穂以外でも大方予想は着いてしまう。
そう、恋だ。
琴音は恋をしている、と美穂は察したのだ。
「べ、別に……そういうのじゃないわよ………」
「ん? どういう事でしょうか?」
ただ察しの悪い陽葵には理解できなかった。
そんな陽葵に美穂は耳打ちをし、「琴音は日高が好きなんだよ」と言った。
それを聞いた陽葵は「そんなんですか!!」と椅子から立ち上がり、琴音に迫った。
それほど驚いたのだ。
だが琴音は口では答えなかった。
真っ赤に染まった顔を手で隠し、首を全力で横に振った。
「まさか、あの琴音が恋をするとはね。これでやっと三人で恋バナできるよ」
美穂は嬉しそうにそう言った。
小等部から今までこの三人の誰かが恋をするなんて事は一度もなかった。
まず美穂以外の二人はそういった事に全くと言っていいほど興味が無かったのだ。なので美穂はこの二人がいる前で男の話題を出したりはしなかった。なぜなら盛り上がらないからだ。
だが美穂は恋バナをするのが好きだ。いつかこの三人でしてみたい、と思っていたほどに。
そして今、それが叶おうとしていた。
美穂の目の前には恋をしている琴音が座っている。それも初恋だ。
美穂に取って、この期を逃す訳にはいかなかった。
「今思うと最近の琴音、少しおかしかったもんね。学校でも日高の方ばっか見てたし。ねぇ琴音、いつから好きになったの?」
琴音は髪で顔の大半を隠した状態で答えた。
「………分からないの」
「いつ好きになったか?」
「違う。………好きか、分からないの」
琴音は今まで一度も相手を好きになるといった経験をしたことが無い。
いつだって相手から好きを伝えられていた。
だが何度好き、と言われても何も感じなかったのだ。
だからこそ今、彼女自身が抱いている感情が好意なのか分からないのだ。
「なるほどね………それを確かめるために日高を誘ったと」
「そういう気持ちがあったのは否定しないわ…………」
琴音は恥ずかしがりながらもそう言った。
美穂はそんな彼女を見て、ニコリと笑った。
「な、何よ」
「いや、何だか嬉しくて。ついに男に興味が出たんだね琴音。美穂お姉さんは嬉しいよ」
泣き真似をしながらそう答える美穂。
「やかましいわよ。だいたい美穂も興味無かったでしょ」
「あったよ! ありありだよ! でも二人が興味無さそうだったから話さなかっただけだよ」
美穂は椅子から立ち上がり、全力で琴音の言ったことを否定をした。
「落ち着いてください美穂」
陽葵は美穂を落ち着かせ、座らせた。
「琴音は日高さんのことが好きなのか分からない、という事で悩んでいるのでしたね」
「そ、そうね」
琴音は隠さずハッキリと答えた。
否定したい気分もあったが、自分の気持ちに気づきたいという気持ちもあった。
結果的に後者が勝ち、彼女は相談に乗ってもらうことにしたのだ。
「私はこういった相談に乗るのはあまり得意では無いので分かりませんが、相手を好きになるということは何かしらその相手としてみたいことがあるはずです。琴音は日高さんとしてみたいことはありますか?」
「してみたい事ね…………」
琴音は真剣に考えた。
だが抽象的な質問のため、何が正解なのか分からず迷っていた。
決して何も思い浮かばなかった訳では無い。
むしろ色々浮かんでいた。
だがそれが好きに繋がるのか、疑問に思っていたのだ。
それに気がついた美穂は質問をする。
「日高とまた遊びに行きたい?」
「………行きたいわ」
「可愛いって言われたい?」
「………言われたいわね」
「じゃあ………手は繋ぎたい?」
その質問に琴音は固まった。
口を開き掛けては、閉じを繰り返し、少ししてこう言った。
「………つ、繋ぎたいわ………」
その答えに陽葵は頬赤くし、口を手で抑えた。
琴音の気持ちを知ったからだ。
まるで自分が恋をしているかのような、そんな気持ちになった。
美穂も同じような気分だった。
「ハグは?」
「……したい」
「キスは?」
琴音は一息置いて言った。
「………し、してみたいわ………」
琴音はさすがに自分の気持ちに気がついた。
それを二人にも知られた。
しかもその相手がこの家にいるのだ。
彼女は恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
ドクン、ドクンと自分でも聞こえるほどに鼓動が早い。
真っ赤に染まり、熱を帯びている顔を隠そうと、俯き、長くサラサラとした黒髪で覆い隠した。
───私、やっぱりそうだったのね。
───でも、だとしたら、これから彼とどう関わって行けばいいのかしら。
「どう? 気がついた?」
美穂は優しくそう問いかける。
琴音は俯いたまま首を縦に動かし、答えた。
「………私、日高くんの事が………好き、だわ………」
三大美人なお嬢様達の世話係をしているんだが、頼られ過ぎて困る シュミ @syumi152
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