第29話 解消された悩み
ゲーセンでしばらく遊んでいる内に日が暮れ始めた。
夕食の準備をする必要があるため、そろそろ帰ることにした。
俺たちは横並びに、行きよりも少し近い距離で共に駅へ歩いていた。
きっと世話係とお嬢様という関係ではなく、普通の友達として今日一日を共にしたからであろう。以前よりも仲良くなれた気がした。
「ごめんなさい。荷物を全て持たせてしまって」
「良いよ。俺が持つって言ったんだし」
服にぬいぐるみと少々嵩張るが、そこまで重いわけではない。
別にかっこつけないとかそんな理由で持ったのではなく、単純に女子に荷物を持たせて、俺は手ぶらっていうのは何だか良くない気がしたからだ。
琴音さんは思ったより可愛い格好に慣れるのが早かった。
知らない人の視線だからというのもあるだろう。だが以前の彼女であれば、こんな誘いをしてくる事もなかったはずだ。
きっと彼女の中で何かが変わったのだろう。
それが俺にとっても嬉しいことだった。
※
俺たちは他愛もない話をしながら電車に乗り、自宅のある最寄り駅に着いていた。
「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったわ」
「俺も楽しかったよ。また誘ってくれ」
「…………そ、そうね。また行きましょ」
琴音さんは嬉しそうな、恥ずかしそうな表情を浮かべそう言った。
「それで、来週から髪型変えるのか?」
「そのつもりよ。今日この格好をして外に出て、………それで気づいたの。私が間違えてたって。だからもう大丈夫よ。あなたには感謝してるわ。ありがとう」
飛び切りの笑顔を浮かべそう言う琴音さん。
彼女にとって可愛い格好をするというのは一つの夢であった。
それがついに叶ったのだ。嬉しくないわけが無い。
「そっか。じゃあ来週からは少し早起きしてもらわないとな」
「どうして?」
「髪のセットに時間かかるから」
「…………確かにそうね」
琴音さんは少し悩ましい顔をした。
「早起きは嫌か?」
「いいえ、嫌いじゃないわ。だって可愛い自分でいるためだもの」
琴音さんはニコリと笑いそう言った。
「そうか。じゃあいつもより30分早く起きるぞ」
「えっ! そんなに…………?」
「当たり前だろ。二人が起きる前じゃないと俺も暇がない」
琴音さんは少し驚いた顔をしていたが、意見が変わることは無かった。
逆に一段と嬉しそうな、期待の籠った表情を浮かべて歩いていた。
※
「ただいま」
「ただいま帰りました」
俺たちは自宅に付き、部屋に入った。
リビングに向かうと美穂がニヤニヤと俺たちの方を見てきた。
「デートはどうだった?」
美穂さんはそう言って琴音さんに詰寄る。
「楽しかったわよ。とっても」
琴音さんは笑顔を浮かべ素直にそう答えた。
そんな彼女の様子に美穂さんは拍子抜けといった顔をした。
琴音さんはそんな美穂さんを置いて洗面所に向かった。
「何かあったの?」
不思議な顔をした美穂さんがそう言った。
「強いて言うなら大きな悩みが解消されましたね」
「わお、それは良かったね」
そう言う美穂さんは何だかすごく安心たような顔をしていた。
「日高さん………お腹、空きました………」
テーブルにへばりついた状態の陽葵さんがそう言った。
「すぐ夕食を作りますので少々お待ちください」
※
夕食を済ませ、三人が交代でお風呂に入っていた。
琴音さんが入っている間にこの話は行われた。
「琴音はもう可愛い格好で学園に行くことが出来るんですね」
陽葵さんが嬉しそうにそう言う。
「まだ分かりませんが、恐らく大丈夫だよ思います」
学園にはこれまでの琴音さんを知っている人が多くいる。
前の方が良かったと思う生徒も出てくるだろう。もしそれを面と向かって言われた場合、彼女がどう思うのかまでは、さすがに分からない。
だが今日の様子を見ている限り、きっと彼女は乗り越える事が出来ると思う。
「そっか。じゃあデートは成功したんだね」
「そうですね。とても楽しませてもらいましたよ」
「ふーん」
美穂さんはニヤついた顔でそう言った。
そうしている内に琴音さんが風呂場から出てきたため、この話はここで終わりとなった。
「次、日高どうぞ」
彼女で最後だったため、俺が風呂に入る番になった。
「分かりました」
俺はそう言って風呂場へと向かった。
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