第27話 服
ショピングモールに着いた俺たちはある服屋をめざして歩いていた。
どうやら、陽葵さんが良く行っていた店に行くらしい。
そこに気に入ったものがあるのだとか。
「何だか落ち着かないわ」
「どうして?」
「こんな格好で外に出たことないもの。それに何だか変な視線を感じるし」
「似合ってるから大丈夫だ。ちゃんと可愛いぞ
」
可愛いから周りに見られてるんだけどな。
「そ、そう…………ありがとう」
琴音さんは嬉しそうに笑った。
そうして俺たちはお目当ての服屋に辿り着いた。
「この服、可愛い」
入って早速、琴音さんは目を輝かせて一着の服を手に取った。
「良いじゃん。似合いそう」
「前見た服だけ買おうと思ってたけど。これも買っちゃおうかしら」
「服は何着あっても困らないだろうし、せっかくなら買ってもいいんじゃないか」
「そうね」
「あっ、でも試着はしてみた方がいいと思うぞ」
俺のその提案に琴音さんは首を縦に振り、「いい考えね」と言った。
「じゃあこの服と、気に入ってた…………この服を試着してみるわ」
そう言って琴音さんは上下のセットを2組持って試着室へ向かった。
俺はその後をついて行く。
ふと、近くにあった服の値段が目に入った。
一万五千!? 一着で!!
この服だけかと思い、他のも確かめてみると、どの服も一万超していた。
マジか……………ていうことはセットで三万円くらい……………。
恥ずかしながら生まれてから一度もこういった服屋で服を買うことは無く、一着1000円ほどの服が普通だったため、この値段設定には驚きを隠せなかった。
琴音さん…………払えるのか、と些か心配になったが俺の貧乏価値観で図られるような相手でないことを思い出し、改めて彼女たちのやばさに気付かされた。
琴音さんが入った試着室で待っていると、着替えを終えたのか、ひょこっと顔を出してきた。
「ど、どうかしら……………」
そう言って出てきた琴音さんは、スカートを少し引っ張り、恥ずかしそうにしていた。
「か、可愛い、よ…………」
スカートの丈が短すぎる。
「思ってたよりスカートが短かったみたい…………。さすがにこれは恥ずかしくて着れないわ…………」
そういった後、琴音さんは「次の着るわね」とカーテンをサッと閉めた。
さっきのもう着てくれないのか…………意外と似合ってたのに。
まあでも最悪下着が見えそうだったし、おしゃれ初心者の琴音さんには厳しかったか。
次の服に着替え終えた琴音さんは何だか満足そうに出てきた。
「どうかしら?」
「めちゃくちゃ可愛い」
スカートの丈もちょうどよく、甘さも程よいため、琴音さんとマッチしており、とても似合っていた。
「ありがと! じゃあこれは決定ね」
そう言ってカーテンを閉め、元着ていた服に着替えて出てきた。
「もう一着欲しいわね」
「じゃあそれ持っておくから探してきたら?」
「ありがとう。そうするわ」
そう言って琴音さんは嬉しそうに服を見て回った。
※
「合計で六万五千円です」
俺、そんな高い買い物したことないな。
「カードで」
琴音さんはさも当然のようにカード決済をしていた。
琴音さんは服の入った袋を持ち、嬉しそうに店を出る。
「付き合ってくれてありがと」
「いい物買えてよかったな」
「うん!」
買い物も終わり、これからどうしようかと迷っていたところ、お腹が空いていることに気づいた。
「昼飯食べるか」
「良いわね。ちょうどお腹空いてるし」
「何食べたい?」
「そうね……………」
琴音さんは周りを見ながら悩んだ顔をした。
「とりあえず何があるか見るか」
「そうしましょ」
俺たちは案内板を見て、何の店があるのかを確認した。
ファミレスにファストフード……………は何だか違うよな。
かと言って服が汚れそうなラーメンもな、しかも何故か家系だし。
「ラーメン食べたいわ」
「えっ、良いのか? このラーメンこってりだからスープが服についたら取れないぞ」
「それは全力で守るから大丈夫よ。………でも日高くんが嫌ならやめるわ」
「いや、俺もラーメン食べたい」
ラーメン屋でラーメン食べるの久しぶりだからな。
「そう。じゃあ行きましょ」
そうして俺たちはラーメン屋へと向かった。
中に入り、食券を買って席に着く。
すぐに店員さんが食券を取りに来た。
そして家系でお決まり、麺の硬さ、味の濃さ、油の多さを聞いてきた。
琴音さんは答えた───
「硬め濃いめ多めで」
早死三段活用だと!!
琴音さん、なかなかやるな。
「俺も硬め濃いめ多めで」
店員さんは食券を持って厨房へと向かった。
「こってりラーメンは陽葵の好物でね。私もたまに付き合わされていたのよ。おかげで好きになってしまったわ」
確かに陽葵さん油っこい物とか好きだもんな。
「ラーメンって定期的に食べたくなるわよね」
「それわかる。ていっても貧乏だからちゃんと食べるの数年ぶりだけどな」
カップ麺も案外高いんだよな。
「そう…………なんというか、大変だったのね」
「そうなんだよね」
そんな感じで会話をしていると、ラーメンが届いた。
家系の場合、汁が飛びやすいので紙エプロンを貰える。服が汚れる心配は思ったより無さそうだ。
そうしている内に琴音さんがラーメンを啜った。
「美味しいわね」
俺も続けて啜る。
「うまっ……………」
これだ。この味だ。
「フフフ、すごい幸せそうな顔してるわね」
「久しぶりだったから、思った以上に美味しくて」
「そう。なら来て正解だったわね」
俺たちはお互いにラーメンを堪能した。
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