第18話 文化祭の店決め

「文化祭で行う店を決めようと思います。案のある人は手を挙げてください」


お茶会も終わり、平和な学園生活に戻った。

中間テストの前に店くらいは決めようということで、話し合いが行われている。


「メイドカフェとかいいんと思うぞ」


男の一人がそう言った。


「私はパンケーキかな」


美穂さんがそう言う


その後もたこやきやわたがしと次々に案が出てきた。


「唐揚げとかどうでしょうか? 去年の売り上げを見たところ一位のクラスは唐揚げをしていたみたいなんです」


陽葵さんが淡々とそう口にした。


やっぱり唐揚げ食べたかったんだな。

去年のデータとか、どこで見たのやら。


・メイドカフェ

・たこやき

・パンケーキ

・からあげ

・わたがし


話し合いは進行していき、最後はこれらが残った。メイドカフェがまだ健在しているのは男の執念のようなものだ。


見たところ、食べ物系をするのは確定しているみたいだ。


「まさか四条さんが唐揚げを提案してくるとは思わなかったぜ」


洋介が小声でそう言う。


「確実に売れるだろうから、妥当ではあるけどな」


ほんとは陽葵さん自身が食べたいだけだ。


「ここから何にするかを話し合おうと思うんだけど、これにするのがいいと思う人は理由も合わせて言ってください」


最初から投票形式にしないのは、揉め事を防ぐためだろう。


「私はパンケーキがいいと思う! だって美味しいから!」


美穂さんが能天気なことを言った。


今の彼女は糖分を今まで以上に求めている。

だからこそのパンケーキなのだろう。だが文化祭が始まった時には要らないと感じているんじゃないだろうか。


「パンケーキはコストの割に作るのにも時間がかかります。それに作り置きすることも難しいです。であれば、一気に作れて、置いておける。なおかつ人気の高い唐揚げがいいと思います」


甘いもの嫌いの陽葵さんが透かさず唐揚げを推す。


「確かにそうだね」

「唐揚げの方が良いかも」


クラスメイトは唐揚げの方に傾いた。


「そうね。私もパンケーキよりは唐揚げの方が良いわね。というかパンケーキは美穂が食べたいだけでしょ」


琴音さんのその言葉に陽葵さんも肩をビクつかせ動揺していた。


「バレちゃったかぁ〜」


そんな感じでパンケーキは却下された。


「わたがしはコストは安いけど、唐揚げよりは売れる気しないと思う」


そんな感じで話し合いは進んでいき、全員納得の上で唐揚げとメイドカフェの二つに絞られた。


男の執念と陽葵さんの唐揚げ愛が激しくぶつかる。


少し男が押されていた。


さすがは陽葵さん。食べ物の事になると強いな。


俺は内心三人のメイド姿が見れたらなと思いつつも傍観の姿勢を貫く。


「メイドカフェは衣装代が掛かってしまいますから予算的にメニューが一つか二つになる可能性が高いと思います。それはカフェとして微妙だと思います」


おっと、痛いところを着いてきた。


確かに利益が見込める予算で済ませようと思うと衣装代で相当持っていかれる。

メニューはオムライスだけになる可能性も十分に考えられるのだ。


それだったら唐揚げの方が儲かるかもしれない。


男の夢を取るか確実な利益を取るか、その選択に悩まされていた。


「二つまで絞られた事だし、このまま話し合いを続けても決まらなさそうなので投票にしようと思うのですが、どうでしょうか?」


司会がそう提案する。


その提案にクラスメイトの大半が頷いた。


これは男の敗北かもな。


「では投票に───」


「ちょっと待ってくれるかしら」


そう言って琴音さんが手を挙げた。


「メイドカフェ、私としてはこのクラスにピッタリだと思うのだけど。みんなは見たくないの? 陽葵のメイド服姿」


「なっ!?」


琴音さんの衝撃的な発言に陽葵さんは驚きの声を上げる。


「メイド服を着た美穂と陽葵を店の前に置いておけば、客はたくさん来てくれると思うのだけど、みんなはどう思う?」


琴音さんは男が言いたかったことを全て言ってくれた。

これにより絶望的だったメイドカフェに少しの希望が見えてきた。


「私はそんな事ないと思います!」


顔を赤くした陽葵さんがそう叫ぶ。


琴音さんの魂胆は何となくわかっている。

メイドカフェともなれば、女子はにメイド服を着ることとなる。


そう、自分からでは無い。

仕方なく着ることになるのだ。

琴音さんにとっては可愛いメイド服を着るチャンスという訳だ。


琴音さんがこちら側に着いたわけだ。

この気を逃す訳にはいかないな。


ここは美穂さんをやる気にさせるのが得策かな。


俺は美穂さんの方に視線を向ける。


さっきからこっち側の人と話してるし、美穂さんなら気づいてくれるはず。


そうして見続けていると、案の定美穂さんは俺の視線に気がついた。


俺はその後、琴音さんの方に視線をチラチラと動かし、サインを送った。


首を傾げていた美穂さんだったが、すぐに俺の心を読み顔をハッとさせた。


さすがは察しのいい美穂さん。


「私もメイドカフェが良いかも!」


手を挙げながらそう言う美穂さん。


「陽葵もそうだけど。琴音のメイド姿も見たくない? 特に女子達」


その問いに答えているかのように女子生徒が体ごと琴音さんの方を見る。


琴音さんは戸惑いつつも口を開いた。


「…………そうね。勧めている側ではあるし、…………当然着るわよ」


その答えが返ってきた途端、クラスメイトは司会者の方に振り返った。


その目からは投票をしろ、というメッセージが痛い程伝わってきた。


「ちょっと待ってください! 私は納得してません!」


陽葵さんが投票を始めるムードを壊した。


当然、陽葵さんの魂胆も見破っている美穂さんは席を立ち、陽葵さんに近づいた。


そうして耳元で何かを呟いた。


すると陽葵さんは静かに席に座り、「何でもありません」と言った。


どうせ、家でタラ腹食べさせろとでも言われるんだろうな。


まっ、メイド服着てくれるなら、それくらいの条件飲んでもいいがな。


「それでは投票を始めます───」


投票の結果は言うまでもなくメイドカフェの圧勝で終わった。


琴音さんは一瞬、満足な笑みを浮かべていたが、すぐに元の表情に戻った。


「いやぁ、よくわかんねぇけど桜崎さんが俺たちの味方してくれてよかったぜ」


「だな」


「そんなに私達のメイド姿が見たかったんですか?」


近くに座る陽葵さんが頬膨らましてそう言った。


「えっ、いや、別にそんな事…………」


洋介は機嫌の悪そうな陽葵さんを前に、嫌われたくないという気持ちが先行し、返答に困っていた。


「そりゃ見たいに決まってるだろ。何せ三大美人様なんだし。みんなもそう思ってると思うぞ」


「……………そうですか。これでもし客が来なかったら蒼井くんのせいですからね」


そう言って陽葵さんはそっぽ向いてしまった。


「えぇー…………何で俺のせいなの」


完全に世話係への八つ当たりじゃん。


「ドンマイ日高。今のは本音を漏らしすぎだ」


洋介が陽葵さんがいる前であんな事言ったせいだろ


「お前もそう思ってくせに」


「いや、俺は、そんな事」


「じゃあ長谷部くんも同罪です」


「そんな〜……………」





午前の授業が終わり、昼休みとなった。


「じゃあ俺、学食行くわ」


「ああ」


洋介は学食に向かい、俺はいつも通り家で作ってきた弁当を席に広げた。


そんな時だった───

当然、教室が騒がしくなり、クラスメイトの視線が俺の方に集まって来ているのが分かった。


「蒼井くんだったかな?」


俺の背後からそんな声が聞こえてきた。


声質からそれが誰なのか、簡単に予想がつき俺は不安でいっぱいになった。


恐る恐る振り返ってみると、爽やかな笑みを浮かべた葉山が居た。


「今、時間あるかな?」


「……………ああ」

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