第16話 地獄のお茶会①
「えっと………俺が世話係である事は生徒に秘密なんですよね?」
「はい」
「でしたら、同伴は出来ないと思うのですが……………」
「今回は例外ね。葉山家と四条家は親同士の仲も良いの。だから、あなたが世話係って事はどの道、葉山帝に知られる事にはなるわ。日高くんだからこそってところもあるけど」
俺だからこそ? 何の話だ。
「そういう事はもっと早く言ってて下さいよ」
「すみません。葉山さんからこのような誘いが来たのは初めてのことだったので、言う必要はないと思っていたんです」
初めてか、どういう風の吹き回しなんだろうか。
陽葵さんの考えとしては、どうせ知られるのであればお茶会の場を借りて、こっちから紹介する。そう見せかけた、ただの監視というわけだ。
「それにメリットが無いわけでもありません。日高さんの存在が秘密である事を葉山さんに知ってもらえれば、他の生徒にバレる可能性がさらになくなります」
ほんとにそうか? 葉山の方は陽葵さんと二人きりで話をしたいはずだ。
俺の存在は相当邪魔なはず、腹いせにバラしてくる可能性だって…………いや、さすがにあからさま過ぎるな。
それに好きな女子の頼みなら、男は大抵首を縦に振るものだ。
「…………分かりました。同伴しましょう」
「ありがとうございます! 日高さん!」
そう言って陽葵さんは眩しい笑顔を浮かべ、俺の手を握ってきた。
俺はそのあざとさに少し戸惑った。
「私もそういうのやった方がいいのかしら」
「琴音様はどこを目指してるんですか……………」
「ん? 何の話ですか?」
※
次の日の放課後。
とうとうこの時間がやってきた。
俺たちは少し時間をずらし、別々に待ち合わせ場所であるカフェに来た。
向こうも注目されることを嫌っているのだろう。
学園の生徒が居なさそうな場所を選んでいた。
これは俺にとっても好都合な事だった。
先にカフェに着いていた陽葵さんと合流する。
「良いですか。ここではタメ口はなしですよ」
「分かっていますよ」
その確認をされた後、俺たちはカフェの中に入った。
「陽葵、来てくれたのか…………」
爽やかな笑みで陽葵さんを迎えた葉山は、俺の存在に気づき、一瞬嫌そうな顔をした。
まっ、そうな顔にもなるよな。
同じ学園の制服着てるし。
「君は誰かな?」
「葉山さんにはまだ紹介してませんでしたので、この場をお借りさせていただくことにしました」
そう言って俺に目を向けてくる陽葵さん。
挨拶しろってことか。
「初めまして、私は陽葵様の世話係をしております、蒼井日高と申します」
「世話係…………父から雇ったと言う話は聞いていたがまさか同じ学園の生徒だったとは」
さすがお耳が早い。
おそらくだが、葉山家と四条家の親同士の仲がいいのは俺の父と同じように、元神代の生徒だったからだろう。
それなら、俺の父と帝の父親も面識があるはずだ。
つまり、飛翔さんは昔の友達だった俺の父の息子を世話係にしたと、帝の父親に話したといったところじゃないだろうか。
それなら、バレるのが時間の問題というのも、俺だからこそ話したくなってしまうというのにも納得出来る。
「彼の事は出来れば、他の生徒には秘密にしてもらいたいんです」
「なるほど…………そういう事なら良いよ」
さすがは陽葵さんの幼馴染的存在である。
話が早い。
「実はこの後、用が出来てしまいまして、日高さんにもご一緒して貰うことになってしまうのですが、よろしいですか?」
「えっ、ああ、もちろん良いよ…………」
そうは言っているが、葉山は一瞬俺を睨みつけてきた。
外で待っていろとでも言いたいのだろう。
「私は一言も喋りませんので、居ないものと思っていただいて構いません」
そんな感じでゴリ押し感は否めないが、葉山の優しさを利用したこの作戦は成功した。
俺たちはテーブルに座る。
陽葵さんの隣に俺、正面に葉山という感じだ。
「話の前に何か頼もうか。ここのカフェは僕のオススメでさ、中でもこのタルトが絶品なんだ。確か陽葵、タルト好きだったよね」
「はい。大好物です!」
陽葵さんはいつもの完璧な笑顔を浮かべてそう言った。
嘘つけ、油っこいものが大好物のくせに。
「日高さんも何か頼みますか?」
えっ!?
俺は座ってるだけって言ったよな!
「あっ…………!」
陽葵さんがまずいと言った顔をし、そんな声を漏らした。
俺はちらりと葉山の方に視線を向ける。
そこにはさっきまでの笑顔が完全に消えた葉山がいた。
俺は恐怖で背筋が凍る。
すると、葉山はまた笑顔を浮かべ口を開いた。
「陽葵が言ってるんだ。君も好きな物を頼みなよ」
「ありがとうございます。………ではコーヒーを一杯」
「危なかったぁ〜…………」
胸を撫で下ろし、隣の俺が辛うじて聞き取れるほどの声でそう言う陽葵さん。
危なかったじゃないよ、アウトだよ。
このポンコツお嬢様が! もっと注意してくれ!
そうして注文したものが届き、本格的に話しが始まった。
「陽葵とこうして話すのは小等部以来かな」
「…………そうなりますね」
多分、陽葵さん覚えてなかったな。
「またこうして話せて嬉しいよ」
「私もです」
きっと親同士の関係が無かったら、陽葵さんは既に葉山を振ってたんだろうな。
それと、さっきからタルトに全く手をつけていない。
「あぁ、ごめん。気にせず食べてくれていいよ」
そう言って陽葵さんにタルトを進める葉山。
さすがイケメン。
視野が広いし、気配りが上手だ。
だが陽葵さんの場合は不正解の回答だ。
なぜなら、食べたくないのだから。
「で、では、いただきますね」
そう言って陽葵さんはタルトを一口サイズに切り、口に運んだ。
「すごく美味しいです」
笑顔を全く崩さず、そう言う陽葵さん。
案外いけたのか? と疑問に思ったが、それは机の下に置いている手で違うとわかった。
何と、親指を下に向けていたのだ。
バットってことね。
やっぱり無理してるじゃんか。
甘いの苦手じゃなくて嫌いなんだな。
「口に合って良かったよ」
葉山は嬉しそうに笑いそう言った。
ドンマイ、苦手らしいぞ。
俺は存在感を消すようにしながら、目の前にあるコーヒーを一口飲んだ。
何だこの香り、それに味。
こんなコーヒー飲んだことない。
「うまっ…………あっ、失礼しました」
あまりの美味しさに思わず声を漏らしてしまった。
どうも、葉山の店選びは正解だったらしい。
葉山は目に見えて不機嫌な顔をしていた。
「すみません。日高さんは大のコーヒー好きでして、この店のコーヒーが相当気に入ったみたいなんです」
「そうか。君にも気に入って貰えて嬉しいよ」
さっきと同じ笑顔に口調、なのになんだ? この押しつぶされそうな程に重い圧は。
「……………」
俺は恐怖で葉山の顔が見れず、黙りを続けた。
この時、心の底から思った。
早く帰りたいと。
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