第15話 王子と姫
神代に通い始めて早一ヶ月、少し早い気もするが、6月にある文化祭の話がでた。
多くの学校は10月辺りに文化祭をするはずだが、神代は6月に行われるらしい。
文化祭の話を何故こんなに早くするのかというと、単純に間に合わないかららしい。
神代で行われる行事はどれも規格外のできらしく、同じくらい準備も大変らしい。
生徒の自主性に任せており、教師は口を出さない。店を出すのかという話や、それまでの準備期間、必要な道具など、全てクラスで決める事になっている。
高等部になった事で、食べ物の店を出す事が許されるらしく、今年はやる気が段違いに高いらしい。
「店を出すなら、当然食べ物だよな」
洋介もここ最近、出す店の話ばかりするようになっていた。
「四条さんの手作り料理とか食ってみたいぜ〜」
「…………そっ、だな」
ドンマイ洋介。
陽葵さんは料理なんて微塵もできないんだ。
ちなみに、女子は模擬店の話というよりも文化祭マジックの方を期待しているらしい。
どうやら、この学園では文化祭最終日の夜に打ち上げという名目の社交界があるらしい。
そこでは男女がペアとなって踊るという。
ダンスに誘う、というのはハードルが低いとはいえ、ここではほとんど告白のようなもの。
そして相手がその手を取ったら、大抵その後、付き合うらしい。
この日、女子はドレス、男子はタキシードを身にまとい、気合いを入れてオシャレをしてくるらしい。
何とも古臭───伝統的な行事と言ったところだ。
どうも、琴音さんはこの社交界で可愛いドレスを着てみたいとの事らしい。
「なっ、日高はどんな店が出したい?」
「……………何がいいかな」
「在り来りだけどよ。やっぱメイドカフェじゃね? このクラスなら特に」
確かに三人のメイド姿は見てみたいと思わないことも無い。
特に琴音さん、黒髪も相まってすごく似合いそうだ。
「ありだな」
「だろ」
「男子の大半はそう言ってるからよ。ワンチャンあるんじゃねぇかと思ってんだ」
「そうか。じゃあ俺も協力するよ」
「それはありがてぇ」
俺達は何故か握手をし、変にニヤニヤと笑っていた。
文化祭の準備もそうだが、中間テストも近づいてきている。
準備をしながら、勉強もしないといけない。
この時期の生徒達は大抵忙しい。
それくらい出来ないと将来やっていけないぞ、という学園側の教えなのかもしれない。
実際、会社を背負うってなったらこれくらい普通に出来なきゃ務まらないとは思う。
あの三人も最近になって勉強をしている姿をよく見る。
リビングにある机で、教え合いながら三人で勉強している。
やらないといけないことはきちんとやる性格らしい。
俺はコーヒーなどを入れ、そんな三人を見守る。
俺の場合は仕事が終わったあとに少し勉強をしてから寝ている。
そのため、最近は少し寝不足気味だ。
「ねぇねぇあれ王子じゃない?」
「ほんとだ」
「キャァーー!!」
当然、クラスの女子が教室のドアの方を見て、騒がしくなった。
「陽葵はいる?」
男は陽葵さんを探しにこのクラスに来たらしい。
その男は今まで見た事がないほどのイケメンだ。
まるで神が自らから作ったかと思えるほどに、整った顔立ちをしている。
そんな男の名は│葉山
この学園で女子から最も人気のある男だ。
当然、他の男から嫉妬されたりもするようだが、性格が良すぎるため、誰からも憎まれることがないという。そんな非の打ち所のない完璧な男なのだ。
どうも葉山の家は四条グループと深い関わりあいがあるらしく、二人は小さい頃から面識があるらしい。
つまりは美男美女、お似合いというわけだ。
一部の生徒はそんな二人のカップリングを狙ってか、陽葵さんを姫様と呼び、王子と姫コンビとして推しているらしい。
「何でしょうか? 葉山さん」
「少し話があるんだけど良いかな?」
「はい………」
そう言って二人は揃ってどこかに行ってしまった。
「話って何かな」
「告白じゃない?」
「ついに姫と王子が結ばれるのね」
そんな感じで、クラスの話題は文化祭からあの二人の話へと移り変った。
「すげー人気なんだな」
「………ああ、葉山がいる限り、四条さんと付き合うなんて夢の話なんだよな」
洋介は泣きそうな顔をして机にへたりこんだ。
「確かにあんなイケメンが近くにいたら、他の男なんか喋る雑草みたいなもんだよな」
「微妙に傷つくこと言うな。事実だけどよ」
でも、陽葵さんに好きな人がいるようには思えないんだよな。
※
放課後となり、俺は一人帰路に着く。
いつもの如く、周りに学園の生徒は居ない。
「今日も一人なのね」
「それはお前にも言えることだろ」
「私には美穂や陽葵がいるもの」
「なら、あの二人はどうしたんだ?」
「うっ…………」
文化祭の話が出てからというもの、下校時に変わった事がある。
それは琴音さんとよく一緒に帰るようになったのだ。
「美穂は他の友達と勉強会、という名目で他の友達とカフェにでも行った。陽葵は今日も男子達から言い寄られてるわ」
どうも美穂さんはテストが近づいてくると、疲れにより、甘い物を欲しがるようになるという。
お茶会やらで甘いものは飽きていると三人とも言っていたが、この時期の美穂さんだけは例外のようだ。
勉強会と言いながら、カフェで友達とパフェを爆食いするとのこと。
陽葵さんは男達に社交界で踊って欲しいという、半分告白のようなものを連日受けているらしい。
気が早いと、思うかもしれないが陽葵さんの男人気を見ると、今から言っておかなければ、誰かに先を越される可能性が十分にあるのだ。
琴音さんは今まで一度も社交界に参加したことがないため、誘いは来ていないらしい。
「なるほどな。つまり桜崎さんはぼっちになって寂しいと」
「ち、違うわよ!」
「じゃあ何で俺と帰ってるんだ? バレたら面倒なことになるかもしれないのに」
「別に何でもいいじゃない。バレたって別に支障はないでしょ」
「そうか?」
「あなたが付き纏ってきたって事にすればいいもの」
「おい、さすがにそれは笑えないぞ」
「嘘よ。そんな事しないわ。私の性格知ってるでしょ」
人から嫌われることが一番嫌だもんな。
「仮にバラされたとしても無駄よ。誰も信じるはずがないわ」
三大美人ともなれば、俺みたいなモブと帰っていることなど嘘になるというわけか。
「なるほど、さては俺をバカにしてるな」
「少しね。…………ただほんとのあなたを知らない人達が可哀想とも思うけどね」
「それはどう言う…………」
俺は思ってもいなかった琴音さんからの言葉に動揺してしまった。
「ウフフ、日高くんも照れることあるのね」
「なっ、やられた」
「…………意外に頼りになるってところよ。ほんとのあなたは」
ニコリと笑顔を浮かべてそう言う琴音さん。
悔しいが俺はそう言われてすごく嬉しいと思った。
※
そんな感じで他愛もない話をして帰り、いつものように家の掃除やらをしていたところ
「ただいま…………」
陽葵さんが覇気のない声でそう言っているのが聞こえた。
「お帰りなさいませ……………」
「日高さん、助けてください〜」
疲労のせいか、ゾンビのような歩で俺に泣きついてくる陽葵さん。
「どうされたのですか?」
「お茶会地獄の始まりです。また甘いお菓子を食わされる日々…………という訳でもないです」
「無いんですか」
じゃあ今のは何だったんだ?
「皆さん、私とダンスを踊りたいようで、お近づきにとお茶会のお誘いをされるのですが、あいにくお相手に興味が無いのでお断りさせていただいたんです」
陽葵さん、こういうところは容赦ないんだよな。
「でも断れない人がいました。………葉山さんです」
あのイケメンか。
「父の仕事での関係もあるので断りずらいと言いますか、向こうもそれを知っててお茶会に誘ってくるんですよ。私に気があるみたいですし」
それは気づいてるんだ。
「それで、陽葵様は葉山帝を好きなのですか?」
「全くです。全く好きじゃありません」
じゃあこの人は誰を好きになるというのだろう。
「それで日高さんに頼みたいんです! 葉山さんの監視の意味を込めてお茶会に同伴してください!」
「はい!?」
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