第8話 友達
少し待っていると、教室に先生が入ってきた。
それと同時に生徒たちが自分の席に座っていく。
ぼっちで席に座っているだけの地獄な時間がやっと終わったと、俺は胸を撫で下ろす。
「担任の
担任の先生は簡単な自己紹介をした。
さすが神代と言ったところだろうか、生徒は皆、私語などはせず真面目に話を聞いている。
家柄だけに悪目立ちをすると、親にも迷惑がかかるといったところだろう。
ここにいる生徒は普通とは違うのだ。
「このクラスにも外部生が一人いますので、自己紹介をお願いします」
そう言って西山先生は俺の方に視線を向けてきた。
他の生徒も俺の方に視線を向けてくる。
俺はそんな視線に立てられ、席を立った。
急すぎる。自己紹介によっては今後の学園生活が決まるといっても過言では無いのに。
そんなことを思ってはいるが、大勢の前でボケる勇気もない俺は「蒼井日高です。これからよろしくお願いします」と単純な挨拶だけをした。
その時、不意に陽葵さんと目が合っただが、初対面の人に向けるような笑みを浮かべられた。
演技だけは女優並みに上手いらしい。
俺は席に座った。
「では明日からの連絡です───」
そう言って西山先生は一通りの連絡を口にした。
言うても明日から授業があるとか、その辺だ。
この学園は内部進学が多いため、高校一年の内容を中三で少し習っているらしい。
そのため、最初の範囲は自分でやっておかなければ授業についていけないという。
その点でも外部生が少ない原因となっているようだ。
「連絡は以上です。最後に席替えをして終わりとしましょう」
席替え、まさか過ぎるイベントに俺は反応してしまい、体ごと、先生の方を見てしまった。
いくら神代の生徒と言えど、まだ子供だ。
クラス内が少し盛り上がっているように思えた。
「お前はあの三人の中だったら誰と近くになりたい?」
「そんなの圧倒的に四条さんだろ」
「俺は花沢さんかな」
「私、琴音さんと隣になりたいかも」
「分かる!」
三人の中で誰と隣になりたいか、という話が多く聞こえてきた。
本人達がいる前で言うあたり、下心を隠す気もないようだ。お近づきになりたいと、誰しもが思っているからこその事なのだろう。
俺からしたら、気まずいし、変に目をつけれたくもないので、誰とも近い席にならないことを願っている。
※
そうして決まった席なのだが……………。
「えっと………蒼井さんですよね? よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願………よろしく、四条さん…………」
何で、陽葵さんと隣になるんだーーー!!
それにしても周りの目が痛すぎる。本人は初対面ムーブしてくるし、何だこの状況は!
ただでさえ外部生に当たりが強いというのに、一番人気の陽葵さんと隣とか生きていける気がしない…………。
俺にとって一番のハズレ席を引いてしまったのかもしれん。
俺は自分の運の悪さに深いため息を付いた。
それを見ていた陽葵さんは頬少し膨らませムッとしていた。
それを見た俺は、あからさま過ぎたと反省した。
後で直接謝ろ。
そんな感じで今日は終わり、放課後となった。
三人は他生徒と揃って教室を出て行った。
俺は気まずさと初日の緊張が解け、椅子に持たれた。
「なあなあ」
そう言いながら俺の机を誰かが叩いてきた。
俺はその音の方に視線を向ける。
前に座っていた男の生徒が俺の方を見ていた。
「お前すげーな。最初の席替えであの四条さんの隣にいけるなんてよ」
その生徒は俺に対して敬いの目を向けてきていた。
「えっと…………」
「あっ、悪い。俺は長谷部洋介って言うんだ。よろしくな」
「よろしく」
あれ? この感じ、もしかしたら友達出来るんじゃないか。と少しの期待を膨らませつつ、彼と話をする事にした。
「四条さんと隣って話だけどさ、何だか緊張するから素直に喜べないんだよな」
「緊張するほど可愛いとかか?」
「それは否定しないが、家柄的に雲の上の存在って気がして落ち着かない」
本当は変に目立つし、何だか気まずいというだけだ。家で過ごす彼女を見て雲の上の存在って感じは一ミリもしなくなった。
俺の言葉に長谷部くんは笑った。
「お前、珍しいな。四条さんが隣だったら全員素直に喜ぶのによ」
「でも変に目立つだろ? 俺、外部生だし」
「確かに男からは冷たい目で見られるかもしれないし、嫌味を言ってくるかもしれない。でも気にすんな、全部ただの嫉妬だから」
「じゃあ長谷部くんは俺に嫉妬してるってこと?」
俺は冗談混じりにそう言った。
「してねぇよ。確かに俺は四条さん派だが、今までの中で一番近い席になれたから満足してんだ」
思ったより風当たりの強さは感じられない。
もしかしたら一部の人だけなのかもしれないなな。
「俺は一発で長谷部くんの記録を越したけどな」
「ハハハ、確かにそうだな」
長谷部くんは結構関わりやすいかもしれない。
「実は俺、仲良い奴らとクラス別でよ。このクラスにあんま話し相手いねぇんだ。だからさ、日高友達にならねぇか?」
思ってもいなかった誘いに俺は驚く。
それと同時に嬉しくもあった。
「俺も外部生で馴染めるか不安だったから、そう言ってくれるのはすごい嬉しいよ」
「そうか。じゃあよろしくな日高」
「ああ、よろしく長谷部くん」
「洋介でいいぜ」
「じゃあ洋介」
登校初日、俺に友達が出来た。
※
「あぁ〜疲れた……………。肩揉んでよ日高〜」
そう言って制服姿のままソファーに転がる美穂さん。
どうやら色んな生徒に囲われて、中々帰れなかったらしい。
「高級菓子地獄はもう懲り懲りです……………」
「確かにしばらくは甘いお菓子は要らないわね」
高級菓子が懲り懲りな生活って何だよ、と俺は心の中でツッコミを入れた。
だがあの陽葵さんでもお昼を用意しなくてもいいと連絡して来てきたので、それは地獄と言っても良いのかもしれない。
「日高〜早く揉んでよ〜」
「承知しました」
「やったー!」
そう言って美穂さんは肩を揉みやすいようソファーに座った。
俺は美穂さんの肩を少し強めに揉む。
「はぁ〜気持ちぃ〜」
「痛くはないですか?」
「うん。ちょうど良いよ……………」
美穂さんは体の力を抜いて、幸せそうな顔を浮かべていた。
俺は貧乏な家に生まれる運命だったのかもしれないとたまに思うことがある。なぜなら家事系統の事は教えてもらえれば直ぐにできるようになったし、自分で言うのもなんだが、結構器用な方だ。
肩揉みは我が妹である雫にプロと認められた功績もある。
「…………ありがとう。すごい楽になったよ」
「光栄です」
美穂さんの顔から疲れは消え、楽になった反動からか、ソファーに寝転び、寝てしまいそうになっていた。
「そんなに良かったの?」
「うん。琴音もやってもらいなよ」
「そう…………。じゃあ頼もうかしら」
琴音さんは少し恥ずかしそうにそう言った。
「かしこまりました」
すると琴音さんは美穂さんのいるソファーに座った。
俺は同じくらいの力で琴音さんの肩を揉む。
「あっ」
琴音さんの口から甘い声が漏れた。
俺は思わず肩を揉む手を止める。
「ご、ごめんなさい。気持ちよくてつい」
「そうでしたか…………」
痛いとかでは無いと理解した俺は肩揉みを再開した。
「あっ、んっ………いやっ………」
や、やばい。
なんかいやらしい事してるみたいだ。
「あははははは、琴音、もうわざとだよねそれ」
美穂さんは変なツボに入ったのか爆笑している。
「わざとじゃ、あっ、ない、んっ、わよ、そこっ!」
やめろ…………変な妄想をするんじゃない蒼井日高。ここは紳士に。冷静に。エロい声に惑わされるな!
「あんっ!」
「こ、これ以上はいけません! 琴音もエッチな声を出さないでください!」
俺より先にこの状況に耐えられなくなった陽葵さんが声を上げた。
彼女も変に考えてしまったのだろう、顔を真っ赤にしていた。
俺もこれ以上は出来ない、と肩を揉む手を止めた。
「あ、ありがとう。すごく良かったわ…………」
そう言いながらも琴音さんは気まずいのか、俺に目を合わせてこない。
「陽葵〜何想像したの〜?」
美穂さんが顔を赤くした陽葵さんに意地悪な笑みを浮かべそう言った。
「べ、別に…………何も想像してません!」
「ほんとかなぁ〜」
「ほんとです!」
美穂さんは相変わらずのしつこさだな。
「日高くん。その………またやってくれるかしら?」
「えっ!? あっ、もちろんです」
「でも変な声でちゃうから、次は周りに人がいない時にするわね」
周りに人はいないって、二人きりという事か。
ん? 肩揉みの話だよな。
二人きりとか逆に意識してやりずらい気がするんだが。
「いえ、二人きりでなくてもよろしいですよ。声が漏れてしまうのは仕方ありませんし、ただ肩を揉むだけですから」
俺がそう言うと琴音さんは顔をハッとさせ、真っ赤に染めた。
「………そ、そうよね。別に肩を揉んでるだけだものね」
恐らくだが、俺がさっきの出来事をあまり気にしていないように琴音さんは見え、気を使った自分が逆に恥ずかしく思えたのだろう。
「もう美穂! あまり私をいじめないでください!」
「嫌だよ。だって照れてる陽葵、可愛いもん」
「可愛くありません!」
どうやら、陽葵さんはまだ詰められていたらしい。
「美穂、そろそろ陽葵を解放してくれないかしら、私も恥ずかしくなってきたの…………」
真っ赤に染めた顔を美穂さんに見せ、そう言う琴音。
「…………ごめん」
さすがの美穂さんもこれ以上はいけないと察し、手を離した。
「悪かったわね陽葵」
「い、いえ。謝ることではありません」
そう言いながら、二人は自分の部屋に戻って行った。
「あららー………肩揉みだけでこんなことになるとは」
「ですね」
「それで日高、ほんとはあの声聞いてどう思ったの?」
ニヤリと笑みを浮かべてそう聞いてくる美穂さん。
「そんなの…………何も考えなかったわけないじゃないですか」
「そっか。…………さすがむっつりだね」
「…………むっつりじゃないですよ」
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