第7話 入学
あれから数日が経過し、ついに神代への入学の日となった。
新しくなった制服に身を包み、俺は三人の朝ごはんを用意する。
この数日で三人がどんな人なのか、だいたい理解することが出来た。
まず美穂さん。
彼女は一言でいうと自由な人だ。一切の遠慮がなく、男の俺がいようと目のやり場に困るほどの薄着で過ごす。
本人からは俺を誘惑しているという気は感じず、ただ過ごしやすいから着ていると言った感じだ。
次に琴音さん。
彼女はこの家で唯一しっかりしている方の人間だ。美少女というのよりかは、カッコイイお姉さんという方があっているだろう。
持っている服も可愛らしいドレスやスカートなどではなくズボンが多い。
自分から可愛い物を避けているようだが、女らしさがない訳でもない。
ただ一つ気になるのが、洗濯し終えた服は自分で部屋に持って行く。俺に部屋の中を見られたくないといった気を感じるのは気のせいだろうか。
最後に陽葵さん。
彼女はだらしないという言葉に尽きる。
本当に四条グループのご令嬢なのか? と疑わしくなるような行為しかしない。
二日で彼女の部屋は掃除しないといけないほどに汚れるし、一度コンビニに行ってからというもの、毎日のように連れて行かされ、油っこいものばかりを買い、食べるようになった。
その影響により、夕飯に油系を出しにくくなってしまった。
自由にさせてあげて欲しいとは飛翔さんに言われたが、これは自由過ぎるのではと最近思い始めている。
今日の朝ごはんはサンドイッチに野菜スープ、後はコーヒーだ。
どういう訳か、三人ともコーヒーはブラックが好きらしい。
俺はテーブルに朝食を並べ、二階に上がる。
ドアをコンコンと順番にノックし、朝を知らせる。
大抵これで琴音さんは、起きる。
美穂さんもたまに起きるが、陽葵さんは絶対に起きない。
「…………おはよう日高くん」
目を擦りながら、琴音さんが部屋から姿を現した。
「おはようございます。朝食をご用意しましたので、お食べください」
すると琴音さんは首を縦に降り、1階に降りて行った。
俺は美穂さんの部屋をノックし、反応が返ってこないのを確認した後、ドアを開けた。
「おっはよー! 日高!」
そう言ってベットにある布団を俺に被せてきた。
「なっ!?」
俺は急に視界が真っ白になった事で、驚き咄嗟に抵抗する。
「美穂さん。何するんですか!」
「日高、びっくりさせようと思って」
「朝からやめてくださいよ。心臓に悪い」
「てことは驚いたってことか」
忘れてた、美穂さんはイタズラ好きでもあるのだ。
「びっくりしましたから離してください。のんびりしてますと、学校に遅れますよ」
「あっ、ほんとだ!」
美穂さんは思い出したかのようにして、部屋を出て行った。
俺は布団を退け、ベットの上に綺麗に被せた。
にしてもいい匂いだな…………。
てっ、こんな事してる場合じゃない。
俺はすぐに美穂さんの部屋を出て、隣の陽葵さんの部屋をノックした。
突然の如く、向こうからの返答は無い。
俺は部屋のドアを開けた。
部屋の中は昨日用意したであろう制服が床に転がっていた。
シワができるんじゃないか?
俺は床にある制服を持ち上げ、シワを伸ばしながら、椅子にかけた。
ベットの上で眠る陽葵さんはへそを出し、大の字になっている。
可愛いのに勿体ないよな。
俺はカーテンを開け、朝日を浴びせる。
「陽葵様、朝ですよ」
俺は肩を揺らし、そう言う。
「うぅ〜…………」
陽葵さんは少し嫌な顔をし、日の当たらないよう寝返りをうつ。
「陽葵様、遅刻しますよ」
「……………ポテチ…………」
「ポテチじゃありません。朝はサンドイッチです」
俺はそんなツッコミを入れながらも、陽葵さんを起こす。
「っ!? あ、朝ですか!」
突然、バッと起き上がり、そう言う陽葵さん。
「ええ、朝ですよ」
「時間は?」
「七時です」
俺がそう言うと陽葵さんは安心したような顔をした。
「ポテチに溺れて遅刻する夢を見てました」
「どんな夢ですか…………」
ほんとにこの人はポテチが好きだな。
「朝食が出来てますので、お召し上がりください」
「分かりました」
陽葵さんはベットから起き上がり、1階へと降りて行った。
俺はベットを整え、制服を持って、1階に降りる。
「陽葵様、部屋に置き場がありませんでしたので、制服はここにかけておきますね」
「はい。ありがとうございます」
俺は三人が食べている間に洗濯物をベランダにかけていった。
その作業が終わった頃には朝食を食べ終えた三人が洗面所へ向かっていた。
俺は三人の食器を片付け、自分の朝食を用意する。
「陽葵、相変わらず寝癖がすごいわね」
「寝相悪いもんね」
「恥ずかしいのであまり言わないでください」
陽葵さんは自分のだらしなさを少しは気にしているようで、指摘されると恥ずかしがったりするのだ。
「私、先行ってるね」
「美穂は早いな」
「髪短いですからね」
「二人もショートカットにしたら? スッキリして良いよ」
「辞めておくわ。私がショートカットにしたら、いよいよ女の子らしさが無くなるもの」
「確かに琴音はロングの方がいいかもね」
そんな日常的な会話を聞きながら、俺は朝食を食べ終えた。
食器を片付けていると、美穂さんが自分の部屋に戻っていくのが見えた。
恐らく制服に着替えて来るのだろう。
他の二人も、少ししてリビングに姿を現したので、俺は歯を磨こうと、洗面所に向かった。
今日から高校生か。
内部進学の人多いらしいから友達できるか心配だな。
そんなことを考えながら、俺は歯を磨いていた。
俺も口を濯ぎ、リビングに戻る。
そこには着替え終えた三人がいた。
「どう日高。似合う?」
「ええ、似合ってますよ。三人とも」
「そう」
「ありがとうございます」
制服を着ると、一気にお嬢様感でるな。
これはこれでありだ。
そんな感じで三人見ていると、陽葵様のつけているリボンがズレているのに気がついた。
「陽葵様、リボンがズレてますよ」
俺は陽葵様のリボンを直した。
「あ、ありがとうございます」
少し恥ずかしそうに言う陽葵さん。
「じゃあ私たちは先に行ってるわ。日高くんも遅れないようにね」
「ええ、分かっております」
俺たちの関係は他の生徒には秘密なため、一緒に登校をする事など出来るはずもない。
俺は三人を見送った後、数分後に家を出た。
※
ここが神代か。
驚きのデカさだな。
小等部から高等部まであるため、そこらの学校とは比べられないほどの広さを誇っていた。
その門を潜る生徒達がどこかのお金持ちなんだろうと考えると、より一層緊張感が増した。
俺は深呼吸をし、門を潜った。
運動場にはクラスが張り出されており、多くの生徒が集まっていた。
俺もその中に入り、クラスを確認する。
二組か…………えっ、マジか。
クラスメイトの名前をサラッと見ていたところ、あの三人の名前が書いてあったのだ。
誰か一人とかではなく、三人だ。
どんなだけ仲良いんだよ、と俺は心の中でツッコミを入れた。
教室に入ると、三人が他のクラスメイトに囲われていた。
家での三人とは大きく違った雰囲気を出しており、近づくことさえ躊躇ってしまいそうな程に輝いていた。
俺は自分の席に座り、先生が来るのを待った。
その間、誰かに話しかけられるなどのイベントは無かった……………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます