第29話 『がんばれ!④』

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その次の日の昼、莉子が突然、マンションに来襲した。

そして、葵ちゃんと妃鞠が一緒に住んでいることがバレて、

莉子は一人、騒ぎまくって帰っていった。疲れた・・・


夕方、俺の寝室に家族が集合して、家族会議が開催された。

「もう葵ちゃんと妃鞠ちゃんの完全に部屋になっちゃってる!

ハンガーラックにもタンスにも私服がいっぱい!」

後から入って来た莉子が報告した。

もう内部まで偵察してきたらしい。

俺はまだなのに・・・


「おい、どっちなんだ?どっちなんだ?」

父さんが大興奮して俺の肩を揺さぶった!落ち着け!


「もしかして、東雲さんの会社を助けてあげるの?」

「うん、全部清算するつもり。」

「いくらかかるの?」

「2億は超えないみたい。」


お母さんが俺をじっと見据えているぅ~!

冷や汗がたれて~、キタ~~~!

「アンタ、凄かったんだね。じゃあ、冷めないうちに料理を頂こうか。」


お母さんがニヤリと笑って部屋を出て行った。

2人共って気付かれたか?てへっ!


莉子がそんな俺を刺すような目で睨みつけていた!

「こーすけ、2人に手を出したら殺すから!

あと、4月から私もここに住むから!」

「ダ、ダメだ!」

「住むから!決定!」


莉子がいればイチャイチャ出来ないじゃない!


ドスドスと歩く莉子に続いてしょんぼりとリビングに行くと

座卓に所狭しと、葵ちゃんと妃鞠が作ってくれた料理が並べられていた。


「お父さん、どうぞ!」

葵ちゃんがニッコリと笑いながら父さんにビールを勧めた。

万引き事件以降、他人の優しさに飢えていた父さんは

たちまち、ふにゃふにゃになっていた。


「お母さん、どうぞ!」

妃鞠がニッコリと笑いながらお母さんにビールを勧めると

お母さんもご機嫌で飲み始めた。



2人の料理を食べて父さんと莉子は美味しいを連発していた。

どうだ!うらやましいだろっ!

お母さんもちょっと驚いていた。


デザートは、お母さんお気に入りの駅前のケーキ屋さんのショートケーキ。

ケーキをみんなで美味しく食べ終わると、なんか、シーンとなってしまった。


コホン。

それまであんまり話していなかったお母さんが咳払いした。

「葵さん、妃鞠さん。幸介が東雲鉄工所の借金を全部肩代わりしようとしています。

2億も。

貴女たちはどう思っているの?」


葵ちゃんが居ずまいを正した。

「幸介さんに多大なご迷惑をおかけして、心苦しく思っています。

まず、私は鉄工所の役員ですが、妃鞠は鉄工所には関係ありません。

だから父と私だけが悪いのですが、鉄工所は借金に借金を重ねていまして、

もうかなりの高金利でないと貸してもらえなくなっていました。

対して、その技術力は低く、都合の良い便利屋としか価値はありませんでした。

父は入院していて、1月は働けませんし、もう鉄工所を畳むべきと考えています。


その借金は恐らく1億を軽く超えていまして、

これを幸介さんが肩代わりを申し出て下さいました。

皆様には申し訳ありませんが、この申し出を受けさせていただこうと思っています。

もし、幸介さんの助けがなければ、正直、返す当ては全くなく、

借金取りの言うがまま、私だけでなく、妃鞠まで風俗業に身をやつすと思います。

幸介さんに肩代わりしていただいた分につきましては、父と私で、

必ず、一生を掛けてでも、必ず、返済させていただきます。」

言い終わると葵ちゃんはビシッと頭を下げた。


その横で、妃鞠も丁重に頭を下げた。

「私も、姉とともに、一生掛けてこのご恩は返させていただきます。」


二人は顔を上げると、俺たちの家族と目を合わせ、

その麗しい額を床にこすりつけた。

「「お父さま、お母さま、莉子さま、どうかお許しください!!」」


「ああ、頭を上げて、葵さん、妃鞠ちゃん。」

慌ててお母さんが声を掛けた。


「ごめんね、キツイ言い方しちゃって。

この子の顔が、もうデレッデレに幸せそうなんで、

ちょっと揶揄ってみたくなっただけなの。ごめんなさいね。

お金については全く問題ないのよ?

幸介が、自分の幸せのために、東雲家を助けるんだから。

幸介、アンタ、よくやったわ!

ていうか、貴女たち二人ともそんな決意してもらって、

逆に申し訳なく思っちゃうの。


葵さん、妃鞠ちゃん。

もし、幸介と違う人が貴女たちを幸せに出来るなら、

幸介にちゃんとそう言って欲しい。

幸介はきっと笑顔で送り出してくれるから。」


「笑顔は無理!号泣して立ち上がれない。」

「それはそうね!」

「「「あははは!」」」


葵ちゃんと妃鞠は笑顔を浮かべてくれた。

「ありがとうございます。幸介さんにイヤと言われるまで、

一緒にいたいと思います。」

「私も同じ気持ちです。」


あっという間に、家族が帰る時間になった。


玄関に6人は多すぎるので、父親は何か言いたそうだったのに、

早々に外に追いやられた!なんて気の毒な!


「葵ちゃん、妃鞠ちゃん、幸介のことよろしくね。」

母親が優しい笑顔だった。これは2人とも認めてくれたのか?


「「はい、お母さん、こちらこそよろしくお願いします!」」

葵ちゃんと妃鞠は満面の笑顔で答えていた。


莉子は俺に向かってビシッと指さして、改めて宣言した。

「4月からここに住むからね!」

葵ちゃんも妃鞠も笑顔が固まっていた。うん、断固拒否だよね!


初詣の時は、受験がんばってねって真剣に言ってたけどな。

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