第23話 『がんばれ!②』

☆、ありがとうございます!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


東雲妃鞠


お父さんはお風呂から上がると、やっぱり疲れ切っていたようで、

すぐに眠ってしまった。この数日、朝から夜中まで働き詰めだったから・・・


お姉ちゃんと、お父さんを休ませるにはどうしたらいいか相談したんだ。

家族3人だけのクリスマスパーティだったら、仕事を優先しそうだったので、

誰かを呼ぶしかなくって、そんな相手は幸介しかいなかった。


お父さんはずっとご機嫌で幸介と話していた。

子どもの時から、男の子も欲しかったって、

幸介によくかまっていたのを思い出した。


それに、お母さんのお葬式で幸介が号泣したことに対して、

お父さんは凄く感謝していた。


でも、「どっちか、もらってくれ!」はともかく、

「幸介くん、2人とももらってくれ!」ってどういうつもりなのかしら?

付き合うのは1人だけでしょ!


計画どおり、お父さんに早く休んでもらうために、

いざ幸介に早く帰ってもらおうとしたら、寂しくなってしまい、

つい、恋人みたいに幸介に手袋を履かせてしまった。

恥ずかしい・・・


だけど、その直後、お姉ちゃんは幸介にマフラーを巻いてあげていた!

すっごく乙女な表情で!


私はお姉ちゃんの部屋の扉をノックした。

「お姉ちゃん、ちょっといいかな?」

「どうぞ~。」


小さな座卓にお茶を2つ置いて、お姉ちゃんと向かい合って座った。

「・・・どうかした、妃鞠?」

「・・・あのね、お姉ちゃんってもしかして、こ、幸介のこと・・・」


お姉ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった!

やっぱり!そうだったんだ!

どうしよう?どうしたらいいの?


「・・・妃鞠も、幸介くんが・・・」

「う、うん。私は幸介が好き。」

「!!!

・・・そう、妃鞠なら、幸介くんとお似合いだね。」

さっきまでの照れた表情はすぐに無くなったお姉ちゃんの言葉は震えていて、

すっごく辛そうだった。


「じゃあ、お姉ちゃんの気持ちは?」

「私は教師だから高校生と付き合えないし、鉄工所の経営がこんな状態じゃ・・・」

ずっと考えていたのだろう。

お姉ちゃんはダメな理由をスラスラと口にした。顔は凄く悲しそうだったけど。


「お姉ちゃん・・・じゃあ、私も高校の間は我慢するよ。

3人で、友達として会おうよ。」

「ありがとう、妃鞠。でも、妃鞠はいつでも付き合っていいからね。」

お姉ちゃんは笑顔を浮かべてくれたけど、すっごく寂しそうだった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


冬休みに入った。お稲荷さまからのお告げは『がんばれ!』だった。


そして、冬休みに入ってすぐ、家族に手伝ってもらって、

莉子と内覧した駅南3LDKのマンションに引っ越しした!


ベッド、ソファ、たんす、パソコン、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコンその他

どーんと買ってやった。選んだのは莉子だけどな。しょぼ~ん。


1人暮らし用ではない大型で、合わせて200万円ほど費やしてやったよ。

お母さまから3千万円使えって言われたんだけど、

200万円でいっぱいいっぱいなんだけど。


ちなみに食器類はすべて家から持ってきた。

もし、もし、妃鞠や葵ちゃんと一緒に住むことになったら

お揃いの食器を一緒に選ぶという夢想、願望、妄想があったから、

莉子の買いたいっていう我儘を断固、拒否した。

なんとか、これだけは死守できたよ。

妃鞠や、葵ちゃんとお揃いの食器を一緒に選びたいぃ~!


ちなみに、俺の寝室だけでなく、使うアテのない2部屋もベッドとタンス、

エアコンがセットされていた。


引っ越しを手伝ってくれた家族はいい別荘が出来たと思っていて、

残りの2部屋を奪いあっていた。醜いぞ!

もちろん、父さんが弾かれていた。可哀そう。


家族のお泊まり用として、布団を1セット追加することにした。


「莉子、そんなにこの家が気に入ったのなら、高校に入ったら、

偶にここから通う?」

お母さんが冗談半分に言うと、莉子はぶっさいくな顔をしていた!

「なんでこーすけと二人で暮らさないといけないのよ!

ぜぇっ~たいに嫌だかンね!こーすけ、家に帰れ!」


「おい!ここは俺の家だ!」

「部屋を選んだのも、家具や家電、カーテンを選んだのは私っ!」

莉子が真っ向から対抗してきやがった!


お互い毛を逆立たせて、縄張り争いが始まる。

「莉子は家から通うのよ。偶になら泊まりに行っていいって言っているの。」

お母さんの言葉で縄張り争いは俺の勝利となった。あっさりと。


家賃を考えるとあと1年で2500万円使えって言われている。

どうしようかしらん。

金の茶室でも作ろうかしらん?


そんなことより、葵ちゃんと妃鞠にはこの家のこと、いつ話そう?

学校の帰りに案内して、驚かすか!随分、先の話だな・・・


妃鞠と会いたい!葵ちゃんと会いたい!

だけど、どうやって誘えばいいんだ?

二人いっぺんに誘うネタがない!根性もない!

一人ずつ誘って、バレたらどうなるかと思うと一人だけは誘えない。

詰んだ!


暇だから、始めて料理を作ってみたんだけど、

ユーチューブをそのまま真似するとかなり美味しく出来た!

それなりに、初めての一人暮らしを満喫していたが、4日目流石に飽きてきた。


妃鞠はクラブとアルバイトで忙しく、

梁多と千家は教えてくれないがデートばかりしているみたいだ。  


葵ちゃんは29日まで学校へ行って、

それ以降は正月準備と工場のことで忙しいらしい。


もんもんと一人寂しく生きていたが、29日に、妃鞠からお誘いが来た!

やった!


妃鞠:元旦に初詣に行かない?近くの神社に。

幸介:行く!

葵:楽しみ!

妃鞠:じゃあ、幸介、10時に迎えに来てくれる?


うお~、超楽しみだ!じっと待っていた甲斐があったよ。


大みそかに昼ご飯を食べてから自転車で実家に向かった。

すんごく遠回りして妃鞠のアルバイト先のコンビニでお茶を買ったが、

妃鞠は働いていなかった。


偶然出会うことを期待して妃鞠の家の近くを通ったのだが、

葵ちゃんにも妃鞠にも会うことは出来なかった。まあ、普通、会えないよね。


ただ、鉄工所で鋼材を切る音が聞こえた。大みそかでも働くんだとビックリした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


除夜の鐘を実家で聞いて、両親と莉子に新年のあいさつをしてから、

俺は熱燗とお猪口を持ってお稲荷さまに初もうでに向かった。


お稲荷さまはこじんまりしているからお正月なのに真っ暗で、

当然誰も参拝なんかしていなかった。

ただ、お正月らしく幕が張られ、幟が立っていた。


俺は熱燗をお猪口に注いで、お供えして、姿勢を正し、二礼二拍手一礼する。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」

『君にぃ~幸あぁ~れィ~!』

頭の中で鐘の音とともいつもと違う酔っぱらった口調でアナウンスがあった!

「酔っ払い?」

「ほんに寒いゾイ。明けましておめでとう。」

「明けましておめでとうございます。」

「熱燗か、気が利いているゾイ。」

「もうぬる燗みたいですけど。今年もよろしくお願いします。」

「はい、よろしくゾイ。」

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