第22話 『果報は寝て待て!』
☆、ありがとうございます。
今回のキャラ
妃鞠のお父さん。大らか、大雑把。楽しいお酒で、飲み屋の人気者。
経営能力、鉄工技術は並以下。人柄で勝負。
妻を亡くしたショックからは立ち直っている。
娘たちにはとにかく幸せになってほしい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
修学旅行から帰ってきて、冬休みまであと3日、
俺はまったりと学校生活を送っている。
修学旅行での俺への暴力、葵ちゃんへのセクハラにより、
西平は謹慎処分となったうえ、
1月から我が3組の担任は葵ちゃんに交代するらしい。
イエス!
俺に嫌がらせを繰り返していた対馬、舛水、富士谷は3日間の謹慎処分を食らった。
以降は3人プラス浅枝、馬川ともボッチで、ひっそりとしている。
全く同情はしないけど。
逆に俺は、友達が増えてしまった!
桐生とか、南館とか、船見とか。
南館はスキー場で、俺が倒れた時の妃鞠の憔悴ぶりを見て、
すっかり諦めたらしい。
それからは桐生と一緒に俺に話しかけてくれるようになった。
かなり、いい奴だ。
うんうん!ありがとう、お稲荷さま!
休み時間に、梁多に人が少ない場所に連れて行かれると、
いつもどおり、冷たい視線の千家が待っていた。
「クリスマス、妃鞠を誘わないの?」
「二人っきりで?いやいやいやいや、無理でしょ?」
「あんたにはめっちゃっくちゃ!ホント~にもったいないけど、
妃鞠は待ってるよ。」
「マジ?」
千家は滅茶苦茶イヤそうに肯いた。
ほ、ホントに待ってるの?
でも、千家、お前は俺のことをなんだと思っているんだ?
「じゃあ、4人でパーティしようって話じゃ・・・」
「なんでアンタと一緒にいないといけないのよ!」
「キビシ~!」
だけど、もうすでにお稲荷さまのお告げがあって動けないのだ。
『クリスマスを幸せに過ごしたいです!』
って油揚げをお供えしたところ、
『果報は寝て待て!』
ってお告げがあって、それを守っているのだ。
でもさ、お稲荷さまにクリスマスのこと頼むってさすが日本人だよな!
お稲荷さまもちゃんと応えてくれて、感謝しかないわ!
いやしかし、もしお告げがなければ俺はどうしたのか?
妃鞠を誘ったのか、葵ちゃんを誘ったのか、
それとも勇気を振り絞って二人セットで誘ったのか。
二人セットは絶対ないけど、どっちか一人もないよな・・・
チキンの俺にピッタリのお告げだぜ!
その夜、葵ちゃんからラインが届いた。
『クリスマス・イブにお父さん、妃鞠とパーティするんだけど、どうかな?』
『行く!』
1秒で返してしまった。
24日夕方6時、自分なりにオシャレをして近所の東雲家を訪問した。
家の中に入るのは小学生以来だから、建物の外も中もなんかも小さく、
古く感じるな・・・
「「いらっしゃい。」」
葵ちゃんと妃鞠が満面の笑顔で迎えてくれた。
うお~、ここは天国じゃないか!こんな身近にあったなんて!
もう食卓にはたくさんの料理が並んでいて、イイ匂いが漂ってくる~!
「おう、幸介くん、久しぶりだな。大きくなったな!」
お父さんが笑顔で立ち上がり、俺の背中を軽く叩いて、椅子を勧めてくれた。
だけど、イメージより凄く老けているし、疲れているようだ。
「お招きありがとうございます。おじさん、これどうぞ。」
「おお、ありがとう。純米吟醸か、さっそく飲んでみよう。だけど、小さいよ。」
「1升瓶だと2人に怒られるかなって・・・」
「大丈夫、このサイズでも怒るから!」
妃鞠にキッと睨まれた。こ、怖い!
「あ、葵さん、妃鞠さん、これプレゼントです。」
綺麗にラッピングされた小さな袋を手渡した。
「ありがとう、開けるね。あ、可愛いハンカチ!」
「ホントだ、ありがとう。」
「幸介、私たちからも!」
葵ちゃんからはマフラー、妃鞠からは手袋をもらったので、試しに着けてみた。
「ありがとう、シブくて良い感じだね。・・・おう、すっごく暖かいよ。」
・・・もうすぐ引っ越しして自転車通学片道40分が無くなるんだよね。
いやでもやっぱり、電車での通学にも、コンビニでさえ常に装備して行こう。
まずは乾杯した。
純米吟醸が口にあったらしく、おじさんは口元をほころばせ俺を見た。
「幸介くん、スキー旅行で、葵と妃鞠どちらも助けてくれたんだって?
どうもありがとう。でも、なんで助けることが出来たんだ?
やっぱり愛か、愛の力なのか?それともラブなのか?うん?」
おじさんがすっごく楽しそうだ!
「もちろん、愛です!」
言えるかぁぁぁぁぁぁぁぁ~!
「「お父さん!」」
葵ちゃんと妃鞠が真っ赤な顔でハモッた。
「はっはっはっ!」
葵ちゃんと妃鞠を見比べてお父さんが上機嫌で笑っていた。
それからは子どものときの話とかをして、楽しく食事が終わると、
ホールケーキが出てきた!
「凄い!これ、ホントに手作りなの?上手に出来ているね~
うん、美味しい!凄い!」
一口食べて激賞すると、おじさんの笑顔がさらに深くなった。
「だろだろだろ~!ウチの娘は可愛いし、優しいし、さらに料理が上手。
こんないい娘はいないよ。
なあ、幸介くん、どっちか、もらってくれないか?」
「ぶほっ!」
「「ちょっと、お父さん、なに言ってるの!」」
顔を真っ赤に染めた葵ちゃんと妃鞠がまたハモった!二人とも超焦っている!
おじさんは笑顔をさらに、さらに、ほころばせた。
「うん、そうじゃなかった?そうか!幸介くん、2人とももらってくれ!」
「えええええええええええ!」
「「お父さんっ!!!」」
葵ちゃんと妃鞠が今度は立ち上がって、またまたハモって大きな声を上げると、
おじさんは大きな声で笑って誤魔化していた。
胡麻化された葵ちゃんは朱に染まった顔をさますため手をひらひらしていた。
一方の妃鞠は下を向いて、髪を何度も何度もかき上げていた。
いや、これ、2人とも脈あるんじゃない?
父親公認!この両面作戦はどうすればこれ以上進むんだ?
彼女いない歴=年齢の俺には難しすぎる!凄まじい難題だ!
ちょっとぎこちなくなって、ケーキを食べ終わった。でも美味しかった。
お父さんは上機嫌だけど、欠伸を連発し始めた。
「お父さん、明日も仕事なんでしょ?今日くらい、早めに休んだら?」
「いや、幸介くんがまだいるのに・・・」
「あのご馳走様でした。もう、そろそろ失礼させていただきます!」
びしっと頭を下げるとおじさんが柔らかい声をだした。
「幸介くん、これからも2人と仲良くしてくれよ。」
「はい、こちらこそ、です。」
お父さんが満足してくれて、お風呂に入ったので、お暇することにした。
靴を履くために、葵ちゃんにもらったマフラーと妃鞠にもらった手袋を
そっと玄関に置いた。
靴を履き終わって、葵ちゃんと妃鞠にさよならを言おうとした。
「幸介、両手を出して。」
「手?はい。」
両手を前に差し出すと、妃鞠がいつの間にか大事そうに抱えていた、
クリスマスプレゼントの手袋を穿かせてくれた。
感激した!
「ありがとう!」
「うんうん、今日は寒いからね。」
妃鞠は学校では見せない恥ずかしそうな笑顔を浮かべていて、滅茶苦茶可愛かった。
「幸介くん、もうちょっとこっちに来て!」
今度は葵ちゃんに言われたので、1歩前に出た。
すると、やっぱり葵ちゃんが大事そうに抱えていたクリスマスプレゼントの
マフラーを俺の首に優しく巻いてくれた!
恥ずかしくて、最高に嬉しい~!
「ありがとう!」
「うん、似合っているよ!」
葵ちゃんは満面の笑みですっごく可愛かった。
「「気を付けて帰ってね。また!」」
「さようなら!今日はありがとう!」
ああ、お稲荷さま、今日もありがとうございました。
明日は油揚げを2枚、供えさせていただきます。
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