第20話 『物凄いバック攻めで逝かせるな!②』

東雲妃鞠


ゴンドラリフトは6人乗りだけど、赤柴さんと二人っきりだ。

彼女とはあんまり合わないので、すぐに話が終わってしまった。

10分もかかるのに・・・


幸介とだったら、小学校の頃の話とか、期末試験の話とか退屈すること

なかったのにな・・・


子どものころ、幸介とは毎日のように遊んでいた。みんなと一緒だったけど。

でも中学になってクラスが離れると全く話さなくなってしまった。


高校2年になって、久しぶりに同じクラスになってみたら、

なんでこんな子と仲よくしていたんだろうって思った。

勉強、スポーツ、クラスでのイベントなんかを赤点とらないように、

どうやって手を抜くか、みたいな感じだったんだ。


さらに、私のことを好きなんだってすぐに気づいたから、余計に距離を置いた。


でも、優姫が梁多くんと付き合うようになって、

幸介も含めて4人一緒に弁当を食べることになった。

その時に、幸介が物欲しそうに見ていたので、玉子焼きをあげたんだ。


これまで、優姫や他の女の子に玉子焼きや作ったおかずをあげたら、

みんな、凄く美味しいって言ってくれた。


「いや、すっごく美味しいんだけど、なんか食べたことある、懐かしい味かなって・・・そうか、妃鞠のお母さんの玉子焼きと同じ味なんじゃない?」


ずっと、お姉ちゃんとお母さんの味を再現させようと頑張っていたんだ。

そう、ホントに言って欲しかったのは「お母さんと同じ味」だった。

幸介に初めて言われて、もう嬉しくってはしゃいでしまった。

気づいたら「幸介」「妃鞠」って呼び合っていた。


・・・お母さんはガンと分かって、1ヶ月もしないうちに亡くなった。

お父さんはしばらくの間、魂が抜けたようになってしまった。


お葬式の日、お姉ちゃんはお父さんの代わりに、葬祭場の人とか、

お葬式に来てくれた人たちへ丁寧に対応をしていた。

私はそれを呆然と見ていた。


私はもう中学生で大人なんだから、泣いちゃいけない、

泣いたらお母さんが心配するって思って、涙を必死でこらえていた。

お姉ちゃんもそう思っていたそうだ。


お坊さんがお経を上げてくれている間、何人かの人がすすり泣いていた。

幸介は葬祭場に来てからずっとしゃくりあげて泣いていた。


最後、家族3人で並んで、来てくれた人たちのお見送りが始まると、

すぐに幸介が私の隣に立った!家族側に!


幸介は号泣しながら、「ありがとうございした。」と声を絞り出し、

参列してくれた皆様に深々と頭を下げていた。


たくさんの人たちがそんな幸介を見て、もう一度泣いたり、

親身に励ましたりしていた。

私たちも涙腺が切れて、涙が止まらなくなった・・・


ブランクを取り戻して、幸介と話すことが凄く増えた。

やっぱり幼なじみでお互いよくわかっているから凄く楽だ。

それに、無気力だった1学期と違って、頑張っているのが凄くわかるんだ。


そういえば、アルバイト先に初めて来たとき、

コン・・避妊具を買っていたけれど、罰ゲームって嘘だよね?

誰かと付き合っている感じはないけれど・・・


罰ゲームとして、お姉ちゃんも呼び出してケーキを奢ってもらって楽しんだけれど、

別れるときに幸介は急に口調を変えた。


「困ったことがあったら相談っていうか、愚痴でもいいからさ、話してほしいんだ。

俺はまだ高校生だけど、意外と頼りになるからさ。

いや、実はめっちゃ頼りになるから!」

全力で、頼りにして欲しいアピールしてきた!


実は東雲家は大きな問題を抱えているんだ。

お父さんは小さな鉄工所を経営しているけれど、赤字が続いて滅茶苦茶困っている。


お姉ちゃんも取締役になっていることもあって、頭を悩ませていた。

お父さんは大丈夫って力強く言ってくれるけど・・・


少しでも助けたいと思ってアルバイトを始めたんだけど・・・

幸介はお金に困っていることに気づいたんだろうか?

だけど、何千万、もしかしたら億以上ある会社の借金の相談なんて出来ないよね。


それでも相談してくれって感じだったけれど・・・

お姉ちゃんと一緒に喜んじゃったけど。


幸介のお父さんの万引きがバレて、クラスメイトから攻撃された時は、

大きな声でやり返していた。

意外だった。黙って引き下がるイメージだったけど・・・


「犯罪者の子どもは学校に来たらダメなのか?

イジメをする、お前らが来るんじゃねえよ!」

逆に全力で反撃していた。


幸介の方が正しいけど、多対1の決定的な亀裂をさけるために幸介の肩を強く

叩いた。

「言い過ぎ!もう黙って座りなよ。」

私が味方していることをちゃんと分かってくれてホッとした・・・


でも、幸介へのイジメは始まったばかりだったんだ。


色んな嫌みを言われたり、財布を盗んだと濡れ衣を着せられそうになり、

靴を部室の屋根の上に隠されていた。

それに、期末試験の前には教科書、ノート、全部びしょ濡れにされていた。


きっと他にもアイツらから嫌がらせをされていると思う。

だけど、私にも、梁多くんにも、お姉ちゃんにも全く相談はない。

それどころか、毎日、楽しそう!


なんなの、幸介!


幸介は、確か1学期の成績は下から数えた方が早かったのに、

2学期の期末試験は苦手と言ってた数学も平均点となって、

上位に食い込んでいたし!

子どものころの優しさや甘さはそのままで、すっごく強くなっている!


そのうえ、「期末、いい成績だったね。」って声を掛けたら、

「妃鞠に教えてもらったんだから、悪い成績なんてとれないだろ?

だから、必死で頑張ったよ。

うん。妃鞠に教えてもらわなかったら、ここまで必死にならなかったからさ、

全部、妃鞠のお陰だよ。ありがとう。」

ってキラリと白い歯を見せ、歯の浮くようなセリフまで!


どうしちゃったの、幸介!


就学旅行2日目。

朝、起きたらお姉ちゃんからラインが入っていた。

夜、見回りの時に、西平先生に強引に口説かれて、怖くて困っていたら、

幸介が現れて助けてくれたそうだ!


なんでそんなタイミングで現れるの?

お姉ちゃんを西平から助けるの、2度目だよね?


イルミネーションを見に行ったときは、ココっていうタイミングで

私を助けに来てくれたし!


ホント、なんなの幸介!


お姉ちゃん、なんか凄い喜んでいる!

6つも年下なのに、もしかしてホントに好きなのかな?

確かに昔のイメージを良い意味で裏切っていて、

ちょっとカッコ良くなってきたけれど・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ゴンドラから降りると、雲一つない青空っていうこともあって、

凄い景色が広がっていて、幸介とも一緒になってはしゃいでしまった。


先生が最初に滑って、1組から順番に滑っていく。


赤柴さんの次が私で、その次は幸介だ。

幸介はスキー帽子の上にヘルメットをかぶっていた。

なんか着ぶくれしているし!


「帽子の上にヘルメットカブっている人なんてどこにもいないよ!」

「北海道は寒いし、5年ぶりで、急斜面がちょっと怖いからね。」

私が揶揄うと幸介はニコニコと笑っていた。


少し滑って休憩するたびに、幸介は隣ではなく、私の後ろに止まった。

話しかけるとちゃんと答えてくれるけど、常に辺りを見回している。

何を気にしているのかしら。

はっ、もしかしてすっごくタイプの人がいたとか?むう!


2回目からのゴンドラには、幸介、桐生くん、船見くんの5人で乗った。

いつの間にか、幸介が桐生くんと仲良くなっていて、ビックリした。

赤柴さんは桐生くんのことがお気に入りみたいで、饒舌に話し出して、

一気にゴンドラの中が楽しい空間に変った。


昼からは、上級者コースに行ってみることになった。

かなりの急斜面でこぶもあるし、すっごく楽しそう。


ゲレンデの真ん中で、前を滑っていた赤柴さんが大転倒した!

「大丈夫?」

急斜面だけどなんとか止まって、赤柴さんに声をかけていると、

私の後ろに幸介が止まった。


私は立ち上がろうともがいている赤柴さんに手を差し伸べた。


「うわあ!」

上の方から叫び声が聞こえた!なに?


「ごめん!」

幸介の焦った声とともに、背中をドンと押された!


「きゃっ!」

少しだけ動いたけれど、すぐに止まれた。


ガチャン!ごつん! ドン!


すぐ後ろで凄い音がして、振り向くと2人がもつれて倒れ、

急斜面をずり下がっていた!

雪煙があがって、1本のスキー板がはずれて滑っていった!


「幸介!」


押されなかったら私にぶつかっていたの?助けてくれたの?

「幸介!」

急斜面をなんとか近づくと、うめき声をあげながら対馬君が体を動かして、

幸介から体を離した。


「いって~、くそっ、邪魔なんだよ!なんで突っ立っているんだよ!」

対馬くんは立ち上がると、ピクリとも動かない幸介をポールで軽く小突いた。

「くそっ、板があんなに遠くに行ってるじゃねえか!

おい、富士谷、取ってきてくれよ!」


まだ、幸介は大の字になったまま、ピクリとも動かない!

さらに近づいて、幸介の傍らに跪いた。

「・・・幸介、大丈夫?」

声を掛けるが反応がない!


あっ、幸介のヘルメットが割れている!

雪面に頭を激しくぶつけたんだ!

「幸介!幸介!」

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