第12話 『戦え!』
☆、応援コメントありがとうございます!
この回の登場人物
富士谷勇気・・・対馬と舛水のしもべ。たるんだ顔、ぽっちゃりぼでー。調子乗り。
舛水三典・・・学年一の秀才。勝つのが大好き。対馬とつるんでいる。偉そうだから
女子にモテない。
対馬宗次郞・・・この学校のモテ男の一人。細身の長身。歌がうまく、カッコいい。
妃鞠にフラれ、それを幸介に見られた。
船見悠平・・・クラスのお調子者。なにかと首を突っ込んでいる。
それでは、お楽しみください。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
『戦え!』
頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調でアナウンスがあった!
「だから何とぉ~!」
「今日も騒がしいゾイ。」
「あ、おはようございます。」
「・・・情緒不安定ゾイ。」
「行ってきます。」
戦う理由って・・・アレだよなって思いながら、自転車で学校へ向かった。
そして教室に入っていつもどおり「おはよう」って挨拶したら周囲がざわついた。
「お前の親父、万引きで捕まったんだろ!」
ニヤけている富士谷勇気が大きな声をだした。
その後ろで、対馬宗次郞とかがニヤニヤしていた。
1週間前の事件が今頃、新聞に載っていたんだ。
父さんは公務員で、下っ端だけど管理職だからか、
氏名、年齢、住所までバッチリとだ。
やり過ぎじゃね、たかが万引きだよ?
初犯だし、ちゃんと迷惑料をお支払いしたから、多大なご迷惑はおかけしたけれど、
損害はゼロだったんだよ。
「犯罪者の子どもがこの進学校に来るんじゃねえよ!」
対馬宗次郞がニヤニヤしていた。
「大きな顔で教室に入ってくるなよ?恥ずかしくないのか?」
船見悠平まで大きな声を出して、益々クラス内がざわめいた。
クラス内が敵意に満ちていた。怖い!
昨日までは敵意なんてほぼほぼなかったのに、なんでこんなに変わるんだ?
怖い!
・・・でも、
戦え!戦うんだ!
「犯罪者の子どもは犯罪者なのか?」
顔は青ざめているとは思うが、大きな声できっぱりと言いきってやった。
「なに、逆ギレしてんだ!」
舛水三典が大きな声で言い返してきた。
俺に対するヘイトが凄い!
「この学校出身で、犯罪者なんていくらでもいるだろ?知らないのか?」
「話をそらしてんじゃねーよ!お前は来んなって言ってんだよ!」
対馬宗次郞が俺を指さした。
「犯罪者の子どもは学校に来たらダメなのか?
イジメをする、お前らが来るんじゃねえよ!」
俺も大きな声でやり返すと、奴らが殺気立ってこっちへゆっくりと歩いてきた。
顔を真っ赤にした妃鞠がやってきて俺の肩をバンっと叩いた!
「言い過ぎ!もう黙って座りなよ。」
・・・急激に頭が冷えて、妃鞠が俺をかばってくれたことに気づいて、
おとなしく席についた。
クラス内がざわめいたままでいると担任の西平が入ってきた。
「何を騒いでいるんだ?」
「錦埜の親父が万引きで捕まったんだってさ。」
「・・・そうなのか。錦埜、次の休み時間に職員室に来てくれ。」
職員室を訪れると、西平先生が大きな声をだした。
「本当にお前の父親は万引きで捕まったんだな。ネットにも載っているよ。」
周りの先生たちがびっくりしてこっちを見た。
だからコイツは嫌いだよ。俺に対する配慮とかないのか?
「西平先生、もっと小さい声で!」
財前先生が慌てて注意した。葵ちゃんが怒って顔を紅潮させている!
「ああ、すまん。で、これからどうするんだ?」
「???どういう意味ですか?」
「休んでもいいんだぞ。」
西平のヤツ、どうだ、オレって気が利くだろって表情をしていやがる!
フザけんな!俺は理不尽と戦うんだ!
「いや、俺はなんにも悪くないので、このまま授業を受けます。大丈夫です。」
「クラス内で揉めているんだろ?」
揉めたら納めるのがお前の仕事じゃねえか!
面倒だから学校に来て欲しくないってことが、丸わかりなんだよ!
本当にコイツ、大嫌いだ!
「犯罪者の子どもは学校に来ちゃいけないんですか?」
「そんな事は言ってない!」
「じゃあ、毎日学校に来て、授業をちゃんと受けます。失礼します。」
・・・昼休みまで誰とも話をせず、じっと固まっていた。
昼休みになると、いつもどおり弁当を一緒に食べるため、
黙ったまま梁多、千家、妃鞠が席をくっつけてきた。
「いや、俺、一人で食ってくるわ・・・」
そそくさと立ち上がったら、妃鞠に手を捕まれた。
「一緒に食べよう?」
悲しそうな目で見つめられた。
嬉しかったけど、戸惑いの方が大きかった。
だから、梁多と千家をそろっと見てみたら、二人はほほ笑みながら肯いてくれた。
「ありがと・・・」
力が抜けて座ったけど、涙を堪えるだけで精一杯だった。
しばらくして妃鞠が俺を見つめて口を開いた。
「幸介もちゃんと戦うんだね。びっくりしたよ。」
うんうんと梁多と千家も頷いていた。
「こんなことがあるかもって想定していたからね。
ああ、万引きのこと、内緒にしててゴメンね。恥ずかしくってさ・・・」
「いや、普通言わないでしょ!公務員だから曝されて、バレちゃっただけだよね。」
「うん。ベロベロに酔っぱらっていて、店員さんの目の前を、
たくさんの本を抱えて外に出ようとしたらしい。」
梁多は額に手を当てて天井を見上げた。
「バカだろ?
すぐに警察に捕まってぼっこぼこに怒られて。
迷惑かけたお店に迷惑料を支払って。
1か月の停職処分食らって。
一体、どんだけ損してんだよっていう話。」
「大変だったんだな・・・」
その後は黙って弁当を食べ終わると最後に梁多がつぶやいた。
「・・・お前は俺たちの友達だよ。」
妃鞠と千家も俺と目を合わせて、肯いてくれた。
親しくしていた人たちがそのまま仲良くしてくれたので、
俺から周囲への敵対心が半分くらいに減った気がする。
「ありがと・・・」
梁多のありがたい言葉に、一言しか答えられなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後になり、難癖をつけられる前に帰ろうとしたのだが、背中に罵声を浴びた。
「もう来るんじゃねーぞ!」
富士谷勇気が大声を出すと、その周りのヤツらもニヤニヤしていた。
また教室の外で、悄然と葵ちゃんが待ち構えていた。
俺を見ると泣きそうな顔になって、また生徒指導室に連れ込まれた。
財前先生が珍しく険しい顔をしている。
「ホントなの?」
「ホントです。」
葵ちゃんががっくりと肩を落とした。
「明日もちゃんと学校へ来なさい。困ったことがあったら私たちにでも相談して。」
財前先生が心配そうに口をはさんできた。
「ありがとうございます。」
周りが敵ばかりと思ってしまっていたので、泣きそうになって慌てて顔を隠した。
「いま、お父さんはどうしているの?」
「停職1か月の間は、おじいちゃんの田んぼと畑を手伝っています。」
「そう・・・」
葵ちゃんは泣きそうな顔を上げた。
「・・・クラスで孤立しているの?」
声が震えている。ホントに心配してくれているんだ・・・
「前からそんな感じだったけど、トドメを刺された感じかな。
でも大丈夫だから。梁多、千家、妃鞠は一緒に弁当を食べてくれたよ。
・・・妃鞠にありがとうって伝えてくれる?」
「わかったわ。伝えるけど、幸介くんからも伝えてほしい。
あと、ホントになんでも相談してね。」
「うん、葵ちゃん、ありがとう。」
「せ・ん・せ・い!」
葵ちゃんは無理矢理笑顔をつくって見送ってくれた。
悄然としながら家に帰った。
そういえば、莉子はどうだったんだろう?大丈夫かな?
「莉子!大丈夫か!」
「あ、こーすけ、お帰り~!」
いつもどおりお気楽そうな莉子を見て拍子抜けした。
「・・・なあ、莉子は学校でイジメられなかったの?」
「号泣してやったら、みんな同情してくれたけど。」
「マジか!そんな手があったとわ!」
莉子がマジで泣いたりしないから、演技したっていうことか、女優だ!
「こーすけ、アンタはダメよ。」
「なんで?」
「だって葵ちゃんと妃鞠ちゃんと仲良くしてるんでしょ?
あんな極上の二人と仲良くしたいなら、最強の男にならないと。」
「そんな、サバンナじゃあるまいし。」
「人間も動物よ。」
「・・・」
言い負かされてしまった。
まあ、莉子が無事なようでよかった。
お告げのとおり戦ったから悪く転ぶことはないと思うけど・・・
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