第11話 『コンドーム(Sサイズ)を単品で買え!』

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今日は日曜日。朝ごはんを食べてから、散歩がてらお稲荷さまへ向かった。

リンゴをお供えして、二礼二拍手一礼した。


『コンドーム(Sサイズ)を単品で買え!』

頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調で、

いつもよりニヤニヤ感たっぷりなアナウンスがあった!

「うお~い!なんの辱めだ!」

「随分楽しそうだゾイ。」

「辱めだと言いましたが?」

キッと睨みつけたが、お婆さんはいつもの笑顔のままだった。

「まあ、楽しく生きたらいいゾイ。」


お稲荷さま、今回のお言葉は童貞にはハードルが高すぎます!

しかもSサイズって、絶対に俺のもにゃもにゃが入りません!・・・たぶん?


いや、しかし、だけど・・・午後になって、ようやく決心した。

30分ほどランニングして、休憩がてら買うぞ。

いや、ランニング途中で、単品で買ったら不審者すぎるぅ~!


結局、となりの中学校区のコンビニへ自転車で向かい、

コンドーム(Sサイズ)を持って無人のレジに向かったら、

奥から若い女の子が出てきた。

「いらっしゃ、あっ!」


「ひ、ひ、妃鞠さん・・・」

最初は見つかった!って驚いていた風情の妃鞠だったのに、

挙動不審になった俺を見る視線が冷たく、厳しくなってきた!


わざわざ、自転車で15分かけて、一番恥ずかしい買い物を、

一番見せたくない人に出会う大惨事ミラクル!!



「いらっしゃいませ。・・・早く出しなよ。」

落ち着きがないままの俺を見て、声が低くなって、ドスを利かせる妃鞠さん。


「い、いや、また今度にするよ。」

「ピースケくん?」

「は、はい・・・」

「出しなよ。」

怖え~!


背中に隠していたコンドーム(Sサイズ)を出した。

手がビックリするくらいブルブル震えているぅ~!


妃鞠さんの視線が痛い!俺の手、凍り付きそう!


「コンドーム(Sサイズ)を1点、970円です。」

声が冷たいよ。品名は言わなくてもいいよね?


「あの・・・Lサイズに交換・・・」

ギンと音が鳴るくらい妃鞠さんの視線が厳しくなった!

「これでいいです・・・」

「チキンだから、これでいいでしょ。」

き、きびし~い!


妃鞠さんはレシートを渡しながら、氷の視線で俺を動けなくして、

氷の口調で命令した。


「もうすぐ上がるから、待ってて。」

「ハイ!」

なんでこんなことに・・・


・・・・・・・・・・


仕事を終えた妃鞠はやっぱりまだ怒っていた。

俺を見据えるとボソッと呟いた。

「彼女いたんだ?」

「いやいやいや、彼女なんていないけど、おつ、じゃなくって、

そう、ば、罰ゲームなんだよ!」


「何よ、それ?」

「えっと、ジャンケンで負けたヤツが買うっていう・・・」

挙動不審で声が小さくなってしまった。


妃鞠は俺をあきれたように見ていたけど、頭を振って気分を一新させると

いたずらっぽく目を光らせた。


「まあ、いいわ。学校で話されたくなかったら、奢ってもらおうかな?」

「ぜひ、奢らせてください!」


ああ、お稲荷さま、貴方を疑って申し訳ありません!

貴方はやっぱり、最高です!


妃鞠がスマホを取り出して、電話を掛けた。

「あ、お姉ちゃん?今からピースケにケーキを奢ってもらうんだけど・・・」

すぐに行く~って声が聞こえた。


マジか、お稲荷さま、貴方は最高の中の最高です!


ケーキ屋さんに向かって、ゆっくりと自転車を走らせていた。

「なんで、バイトしているの?いつから?」

「10月から日曜日だけね。・・・欲しいものがあるの。」

「ふ~ん。」


俺はキリっとした表情をつくった。

「欲しいモノ?なんだって買ってあげるぜっ!

今から買いに行こう☆」








無理イィィィィィィィィィィィィィィ!

何が欲しいか訊くことさえ出来ないぃ~!

買ってやるよって言えない!お金ならあるのに!俺のヘタレェ~!


いや、でも、真面目な妃鞠が学校で禁止されているアルバイトをなんで?

モヤモヤする。


ケーキ屋さんの前で、葵ちゃんが手を振っていた。

3人で美味しいケーキを食べて、楽しくおしゃべりしていたが、

葵ちゃんは少し疲れているようだ。どうしたんだろう?


「妃鞠は進路どうするの?」

「私立で推薦にしようかって思ってたけど、国立にするか悩んでるの。幸介は?」

「俺は私立だね。浪人したくないから、どこでもいいけど・・・」


・・・国立に変えるっていうことは、お金に困っているのかな?

もしかして、お父さんの会社が危ないのかな・・・


「ごちそうさま、幸介くん。」

葵ちゃんが笑顔で言ってくれた。

「ねえねえ、3人でライン作らない?」


「えっ、ホントにいいの!」

「ううん、まあいいか。」


葵ちゃんの提案に妃鞠はちょっととまどったみたいだ。

でも三人だけのラインを作ってくれた。

嬉しい!


これって、うちの高校の野郎どもにめちゃくちゃ高く売れそう!

もちろん、そんなことしないけど。


ここで別れることになったので、思い切って気持ちを伝えた。

「あのさ、困ったことがあったら相談っていうか、愚痴でもいいからさ、

話してほしいんだ。俺はまだ高校生だけど、意外と頼りになるからさ。

いや、実はめっちゃ頼りになるから!」


精一杯頼りになる顔を作って、胸を張った。


「・・・」

葵ちゃんと妃鞠は見つめ合って肯いた。


そして、二人とも俺を見つめ、気持ちのいい笑顔を浮かべてくれた。

「ありがとう。何かあったらよろしくね。」

「うんうん。」

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