第8話 『罠だ!』

☆ありがとうございます!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


『罠だ!』

頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調でアナウンスがあった!

「な、なんだって~!」

「大根役者ゾイ。」

「え~。バリトンボイス出したのに・・・」

「表情、仕草、声、すべて揃ってこそ演技ゾイ。」

「修行します・・・」


登校して教科書をカバンから机の中に移し替えていると

可愛い封筒が入っていることに気が付いた!


初めてのラブレターだ!やったよ、誰だ、誰なんだ?

うん、これが罠か?罠なのかい?どうなんだい?


こっそりと開いた。

「錦埜君へ 今日の4時に体育館の裏の桜の下で待っています。」

名前は書いていないが、可愛らしい字で書いてあった。

誰だろう?本気だろうか?やっぱり罠なのか?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

東雲妃鞠

お昼休みにいつもどおり、私は優姫、幸介、梁多くんの4人でお弁当を食べた。

話題は、今日、全部返ってきた中間試験のこと。

実は私のこのタイミングが苦手だ。

「妃鞠は流石だよね~。学年10位、おめでとう~。」

「凄いな。」

「ホントに凄いよ。」

優姫がこの中で1番成績のいい私を褒めると、

幸介も梁多くんも素直に褒めてくれた。


たまに、あれがあれば勝っていたとか、

はいはい、アンタは凄いねって言われてイヤな思いをすることがあるんだ。


「健ちゃんは、見事、平均だよね~。」

「おっかしいな~。必死で頑張ったのに、ずっと真ん中なんだよね~。」

「偶には一緒に焦ろうぜ~。」

梁多くんは全ての教科でよくも悪くもないから、飄々としている。

誰にでもニコニコと愛想がいい男子で、1年の頃から幸介と仲がいいらしい。


「そういう優姫ちゃんは・・・」

「訊かないで!」

「うぷぷ!」

「・・・おい、錦埜、本当のことだったらなんでも言っていいと思ってんのか?」

ギン!と優姫がこっそりと笑った幸介を視線で殺そうとしていた!


あれっ、幸介、何か言ってた?

「えっ?口に出ていた?」

「いいや。でも丸わかり!」

「それはスマン!」


優姫は前から幸介と激しいやり取りが多い。

でも、お互いにケロッとしていて、全く気にしていないみたいだ。不思議!


「幸介は頑張っていた成果が出たね!」

「えっ!錦埜、成績上がったのか・・・」

愕然としている優姫なんて初めて見た!

それより、幸介、頑張っていたんだ!


「おう、数学以外はなんとか真ん中くらいになったんだ。

数学はまったくダメだったけど。」

「数学がダメなんだ?」

「そうなんだよ~。ていうか、西平の説明が、俺には上手くハマらなくて。

高1からやり直そうかなって思ってる。」

「凄い、ホント、頑張っているんだ!」

「ちょっとずつ、だけどな。」

幸介は照れたように笑っていた。


やる気を無くした友達が、やる気を取り戻すって、嬉しいよね!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


放課後まで警戒心マックスにして過ごしたが罠はなかった。残念。


体育館裏での待ち合わせが、残念ながら罠の可能性がグイグイ高くなってしまった。

だけど、会いにいかないっていう選択肢は断じてないっ!


4時に体育館裏へ行ってみたら、たった一人、女子が綺麗な立ち姿で待っていた。

同じクラスの馬川たかみ、背は普通、髪はロング、少し気の強そうな顔。

クラブは何だったっけ?

話したことはほとんどないけど・・・

誰と仲、よかったっけ?

う~、何にも思い出せない。


俺の目に女子は、妃鞠と葵ちゃんだけ大きく映って、

その他は小さく映っちゃうんだよな・・・


「錦埜君、来てくれたんだ!ありがとう~」

俺に気づくと馬川さんはパアっと笑顔になった。

「馬川さんが手紙くれたの?」


「うん!あの~、実は錦埜君のことが好きなんだ。

だから、付き合って欲しいの・・・」

恥ずかしいのだろう、俯いてしまい、声がドンドン小さくなっていった。

可愛い!

今まで馬川のことを可愛いなんて思ったことなかったけど、可愛いよ!


これ、マジのやつ!罠じゃないって!

これが演技ならこの子女優だよ!


・・・だけど、付き合うっていう選択肢はやっぱりないな。


「・・・ゴメンなさい。今、やりたい事があって。

それと受験があるから、付き合うことは出来ないんだ。」


断るとハッと顔を上げた。うん?悲しいんじゃなくって怒っているのか?


馬川さんはバッと両手を広げ抱き着こうとしてきたので、

俺は両手を前に出して拒否した。


「じゅ、受験勉強なら一緒にやればいいじゃない。

やりたい事だって、邪魔したりしないし・・・」

「えっと、ありがとう。だけど、ごめんね。」


俺の断りの言葉を聞くと馬川さんは大股で歩きさってしまった。


うん、罠だったね。

想定外の場面ではボロがでたね。

一応、俺が断る想定もしていて欲しかったわ。断固として断るけど。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


次の日の朝、教室に入って挨拶したら一部から微妙な空気が流れた。

前の席の梁多が思わせぶりにアイコンタクトをしてから、教室から出て行った。


しばらくしてから、梁多を追った。

「昨日、馬川さんから告白されたのか?」

「なんで知ってんの?」


「馬川さんが断れたことに滅茶苦茶怒っていたって友達から聞いた。

・・・嘘告って気づいてたのか?」

「最初は本気なんだって思ったけど・・・」


「だけど、断ったんだ、やっぱりね~、がんばっているもんね~。」

梁多のヤツ、なんでもお見通しだぞって目をしている。

うん、そんなにバレバレかな?


「・・・断ったら、怒ってたんで嘘だったのかなって。」

「危なかったな。馬川さんが至近から、もう一人が遠くから録画してたらしいよ。」


「マジで!全然気が付かなかったよ・・・」

「なにか、きっかけとかあった?誰かに恨まれたとか?」


「え~っと・・・さあ?」

俺の不自然な答えに、思い当たるフシがあったのかニヤッとしていた。


コイツは情報通だからな。

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