第6話 『雨具を忘れろ!』

応援コメント、☆、ありがとうございます!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


いつもの時間にお稲荷さまに着いた。

今日も誰にも荒らされていないし、お参りする人もいない。


お弁当をお供えして姿勢を正し、二礼二拍手一礼する。

『雨具を忘れろ!』

頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調でアナウンスがあった!

「やっぱり雨、降るんだ。」

「今日は降るゾイ。」

「ですよね。一度、家に帰ります。」

「傘を忘れたゾイ?」

「そんな所です。」


急いで家に戻って、カッパを置いて、急いで学校へ向かった。


天気予報どおり、朝は我慢していたけれど、

昼過ぎて耐えきれずに雨がシトシトと降り出した。


放課後になって、さて帰るか、と駐輪場まで行って、

カッパを家に置きに帰ったことをようやく思い出した。


どうしようかと考えながら校舎に戻ると、

その玄関では何人かの生徒が帰ろうとしており、

そして、傘を広げようとした妃鞠とバッチリ目が合った!

これか!これだったのか!


「幸介、どうかしたの?」

「カッパ忘れてさ。誰かの傘に入れてもらって電車で帰ろうかなって。」

「・・・一緒に帰る?」


妃鞠は笑顔で傘を広げて、俺に入るように促した。


ちなみに俺と妃鞠の家は同じ3丁目の反対側徒歩5分にあって、

俺は40分かけて自転車で通学しているが、

妃鞠と葵ちゃんは電車と徒歩で通っていて、やっぱり40分くらいかかるそうだ。


「いいの?」

「駅から家までも傘が必要でしょ?」

「ありがとう。妃鞠、クラブは?」

「今日はグラウンド練習の日だから休みだよ。」


ありがとうございます!お稲荷さま!

人生初の相合傘です!

学校から駅まで10分ほどだが、その半分は商店街のアーケードがあるから、

まずは5分間だ。

傘を持たせてもらって、妃鞠が濡れないように注意しながら歩いた。


緊張する!


イイ匂いがする!

思いっきりスーハーしたい!変態だ!

殺せ!息を殺すんだ!


「うんうん。」

ドキッ!

何かに気付いた妃鞠がご機嫌で肯いた。


「どうかした?」

「小学校のころ、幸介、今日みたいに朝、雨が降っていないと絶対、

傘を持ってこなかったよね。よく、入れてあげたなって。」


初じゃなかった!相合傘も、妃鞠との相合傘も!

「いやいやいや、絶対じゃないでしょ?」


「絶対だよ!お母さんに聞いてみなよ。」

「・・・そうなの?いつもありがとう。

・・・お礼に奢るよ、何がいい?ハンバーガー、アイス、ドーナツ・・・」

「やった!今日はドーナツの気分ね。お姉ちゃんとお父さんの分もね!」

「お土産もですか~!」

「うんうん、ご馳走様!」

笑顔になって小さくガッツポーズした妃鞠が超可愛い!


ミセスドーナツに着くと、妃鞠は目をキラキラさせながら、

ドーナツを食い入るように見ていた。

そして、ある商品に釘付けとなったまま、俺の袖を引っ張ってきた。


「ねえねえ、このキャラのドーナツ、可愛いねえ。」

「うん。可愛いけど、食べられるのか?」

「うんうん、それとこれとは別だよ~。

可愛いねえ、ガブリ!美味しいねぇ~、だよ。」

妃鞠は凶悪そうな顔を作って、大きく口を開けてドーナツを食いちぎるフリをした。

可愛い!


「なんか、そのシーンは見たくない。」

「むぅ!・・・ねえ、幸介も家族のために買って帰るの?」

「ああ。もし妃鞠たちにだけ買ったってバレたら、莉子にぶん殴られるからな。」

「うんうん、激しい愛情表現だね。」

「絶対に違うと思う。」


「で、どうやって選ぶの?」

「そうだな、俺が食べたい奴を4種類選ぶ。」

「莉子ちゃんが好きそうなモノじゃなくって?」

「奴はその時の気分で言うことが違う。

買って帰った俺は最後に残ったヤツになるから、全部食べたいヤツでいいんだ。」

「うんうん、私もそうしようっと。」


俺たちの分は店内でお召し上がりかと思っていたら、テイクアウトだった。

チクショー!


電車に乗るとちょうど二人分の席が空いたので、並んで座った。

肩がバッチリ触れ合ってるし、足が油断してハの字になると

太ももも触れ合ってしまう。


足は気をつけないと・・・緊張する!

「・・・あと2月で修学旅行のスキーだね。葵ちゃんも来るの?」


「うんうん、張り切っているよ。幸介は最近、行ったことある?」

「いや、妃鞠たちとしか行ったことがない。妃鞠は?」


「私も。お母さんが死んじゃってからはね・・・」

妃鞠の笑顔が翳ってしまった。

しまった!大失敗だ!


小学生の頃、俺と妹の莉子はよく妃鞠の家族にスキーに連れていってもらった。

だけど妃鞠のお母さんは中学生になるとすぐに亡くなってしまった。

「・・・お母さんのお葬式の日も雨だったね。」

「そうだったね。」


「うんうん、ピースケが号泣するもんだから、

近所の人たち、勘違いして私たちじゃなく、ピースケを励ましていたよね。」

「あ、ちょ、ああ。」

俺の表情を見て、妃鞠はクスクス笑ってから呟いた。

「ありがとね。」


黒歴史も役に立つんだな・・・


最寄駅に着いて、今度は俺の家に向かう。

小ぶりだが、絶対に、傘が必要だ!イエス!


この辺りは小学校区なので、遊んだ記憶が次々と蘇り、

話が弾み、妃鞠も大きな声で笑っていた。楽しい!

あのお稲荷さまが見えてきた!

いつもの優しく笑っているお婆さんがいる~!

いつもと違う、ニヤニヤ笑いだ~!


俺は恥ずかしく思いながらも、ペコリと会釈して通り過ぎた。

ありがとう!幸せな時間をくれて、ホントにありがとう!



その夜、お土産のドーナツを家族に披露したところ、

「高校生の間に3千万使えって言われてんのに、

なんで初のお土産が今頃なんだよう!」

莉子のキックが俺の尻を真っ二つにした!


「お土産、買ってきたのに・・・美味いって食べてんのに・・・」

土下座の姿勢で尻を押さえ、涙を流す俺。


「あらあらまあまあ。莉子ちゃん、少しやりすぎよ。ほんの少しね。」

「あの~、兄妹、仲良くな。」


俺の味方はいないのか!

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