第5話 『がんばれ!①』

今日は学校を休んで、母親と宝くじを持って銀行に出かけた。


銀行員の方からマジで、

「おめでとうございます!」

って言われて、ホントに当たったんだって嬉しくってニヤニヤしちゃったよ!


3億8852万円!!!

アルバイトは時給1,000円、ということは1日10時間働いて、

100年相当だ!

やったよ、やっちまったよ。


少しだけ、お金の使い方を指導され、税金のことを教えてもらった。

そして1億の口座と2億5千万の口座をつくった。


残り38,520,000円は今ある俺の口座に。

これを早いうちに使い切れと?マジですか?


母親にボディガードとして一緒に帰るっていったら、

学校に行けと厳しい目で睨まれた。

俺の金、1億使い込む気満々なんだから、俺にもっと優しくしてくれよ・・・


2時間目が終わって教室に入ると妃鞠が笑顔で迎えてくれた。

「おはよう、幸介。今日はどうしたの?」

「うん、ちょっと母親の用事でね。」


「おい、錦埜。」

南館大輝に邪魔された。なんだよ、妃鞠が話しかけてくれた貴重な機会なのに!

なに話そうかと考えていたのに!


南館は野球部のレギュラーで「運動部系」の中心メンバーだ。

あんまり話したことはないけど、なんなの?


南館は近寄ってきて声を潜めた。

「・・・東雲となんで急に仲良くなったんだ?」


ああ、そういうこと。

ニヤニヤしそうになる顔を引き締めた。


「もともと毎日一緒に小学校に通ってて、仲良かったんだ。

だけど、中学に行ってからは縁が無くなって・・・

梁多と千家が付き合うようになって、弁当をひ、東雲と一緒に食べたら、

なんか子どもの頃の話で盛り上がっただけだよ。」


南館はうさん臭げな目で見つめている!


「・・・じゃあ、東雲先生とは?」

2人とも気になっているのか!南館、お前もか!


「小学校のころ、ひ、東雲の親が俺と妹をちょくちょく一緒に

遊びに連れて行ってくれたんだ。

だから葵先生は弟みたいに思ってんじゃないかな?」

「フン!」


席に着くと、梁多がニコニコしながら小さな声で話しかけてきた。

「南館は東雲さんのことが好きだからね。

突然現れた強力ライバルに焦っているんだね。

しかも、眼中になかった幸介だからさ。」


「ええ、俺が強力ライバルなの?」

「何言ってんの?東雲さんから下の名前を呼ばれている男子は幸介だけだよ?

妃鞠って呼んでいる男子も幸介だけだよ!」


ホントだ!俺だけだ!

「そうだったんだ。でも妃鞠ってやっぱり人気あるんだな。」

「この学校で一番綺麗だってみんな言ってるよ。知らなかったの?

それから、撃墜王って呼ばれているね。」

「撃墜王って、なにそれ?」


「上級生、同学年、下級生、学校の外で、いっぱい告白されては

全部断っているからね。」

「・・・そんなに断っているんだ。」


「らしいよ。あと葵先生も人気あるよ。」

「やっぱり人気あるんだ?」


「わかるだろ?可愛くって、ほんわかしていて、しかも胸が・・・って。」

梁多が可愛らしい顔を朱に染めた。

「お前もファンだったんだ?千家とはイメージ逆だけど。」


「優姫ちゃんには内緒だよ?バレたらヤバいからな。

幸介、よく葵先生から小さく手を振られているだろ?

それに、先生はいつも幸介くんって呼びそうに・・・」

「ぎくっ!なんでそれを?」


「ファンだから見てるよ。

だけど、自分に手を振ってくれたって誤解して恋した男子が何人もいるよ。」

「マジか!妃鞠もだけど、姉弟みたいな関係なんだけどな~」

「それでも充分うらやましいよ。」


ヌハハハ!存分に羨ましがるがよいっ!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


家に帰ろうと教室を出たら、またニコニコしながら葵先生が待ち構えていた。


「こう、錦埜君、ちょっといいかな。」

ふふん、うらやましいだろう?

ゾクリ!

身の危険を感じて辺りを見回したら、男どもの目が厳しすぎた!


生徒指導室に連れて行かれると財前先生が笑顔で待っていた。


「いらっしゃい。」

葵ちゃんの向かいに座らされた。


「今日は生徒指導の練習に付き合ってくれる?」

可愛らしくお願いされたら、断ることなんて無理!


葵ちゃんはコホンと咳ばらいをすると、雑誌を机に置いた。

「じゃあ・・・幸介クン、こんなイヤらしい本を持って来たらダメじゃない!」

そして、プンスカ怒り続ける。


「いやいやいや、葵ちゃん、それはないよ・・・」

「せ・ん・せ・い!」

葵ちゃんが手をのばしてきて、俺のほっぺをつねったけど、痛くない!

いや、甘い!ご褒美だ!ニコニコしてしまう。


「葵先生、ピースケ君じゃなくって、一般の生徒を想定しないと。」

「えっ!」

「ピースケ君以外の男子のほっぺをつねったりするの?」

「あっ!」

財前先生のダメ出しを喰らい、口をパクパクさせる葵ちゃん。

可愛いなあ~


しばらく練習したら、少し威圧感を出せるようになったのですぐ休憩タイム。


「ねえ、ぴーすけくんの面白エピソード、教えてよ。」

「いいですよ!」

「ダメですって!」

「可愛いエピソードだから!」

ギン!さっそく俺を威圧してきた葵ちゃん。


財前先生の威圧が豹だとしたら、葵ちゃんの威圧は子猫だけどな。

つまり、超可愛い!


「妃鞠と幸介くんが年少さんの頃、二家族でレジャープール行ったんです!」

「楽しそうね!」


「ええ、最高です!

二人と幸介くんの妹ちゃんは幼児用プールでずっと遊んでいたんです。

でも、みんなで流れるプールを楽しもうってなったんです。


入る前に、妃鞠と幸介くんに「絶対に、浮き輪から手を放しちゃダメだよ!」って

キツく言い聞かせて。


私が右手に妃鞠、左手に幸介くんを連れて、

プールの階段を1歩降りて「妃鞠、いる!」、1歩降りて「こうくん、いる!」

って確認しながら、降りて行きました。


後1歩で、流れるプールってところで、左を見てみたら、浮き輪しかないんです!

「あれ?こうくん?」って探したら、万歳したまま沈んでいたんです!」

「可愛い~!可愛い~!」


「慌てて救いあげたんですけど、怖かったらしく、

私に大泣きしながら両手両足で、全力でしがみついて来たんですよ!

もう、可愛くて、可愛くて!

その後は、こうくんをしがみつかせたまま、大人用の浮き輪で流れるプールを楽しんだんです~。」


「は、は、恥ずがじい~。」

「めちゃくちゃ可愛いよ、ぴーすけくん!」

財前先生と葵ちゃんから、可愛い幼児を見るような視線をたっぷりといただいた。

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