第4話 『友を押せ!押せ!押せ!』

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『友を押せ!押せ!押せ!』

頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調でアナウンスがあった!

「・・・」

「今日は何も言わぬゾイ?」

「あ、おはようございます。」

いつもどおり、気配がないまま、お婆さんが現れた。


「むう。驚かぬぞい。おはよう。」

「行ってきます。」


俺の友達といえば妃鞠・・・ではなく、前の席の梁多健太だな・・・

梁多は小柄で可愛い顔をしていて、

愛想良くて、クラスや学年を超えて友達がいるらしい。


入学直後、隣の席になって、それからいつも昼飯をともにしている。


コイツを押せば良いんだな?物理的に!

ぐいっと、ぐいっと、ぐいっと!


「何?何?幸介、一体何事なの?」

「ああ、ちょっとな・・・」

ぐいっと、ぐいっと、ぐいっと!


「止めてよ。」

「スマン。」

やっぱり物理は違うみたいだ!


ならば、何を押せばよいか?午前中、梁多の周囲を観察していると、

梁多の右隣に座っている千家優姫が目に留まった。


千家優姫。黒髪ロングで知的眼鏡がとても似合う。

その視線は眼鏡が無ければクラスの男たちは凍死するであろうほど、

冷気マンマンだった。

ちなみに、千家が俺を見る目はゴミを見る目と変らない。


何に目が留まったかっていうと、梁多と千家は視線が合うとビックリするくらいの

速さで顔が背けられるんだ。

俺じゃなきゃ、見逃しちゃうね。


梁多と千家は幼なじみらしいが、絶対にそれだけじゃない!

くそっ、羨ましいぜ!


お弁当を食べ終わると、偶にはジュースをおごるぜって、二人っきりになった。

「なあ、千家のことどう思ってんの?」

「ぶーっ、な、なによ、いきなり!」


コーラを吹いて、ゴホゴホ言っている。

「いや、幼なじみなんだろ?だけど、それだけじゃないな!

千家はお前のことが・・・好きだ~、間違いない。」

「え~、い、いや、そんなことないよ!」


梁多は頬を紅潮させ、焦りまくっていた。

悪い笑いが止まらない俺の表情にも気がついていない。


「まあ、告白するのがハードル高いんだったら、服を選んでくれとか、

見たい映画があるけど一人で行けないとか言って、デートに誘ってみたら?」

「おおっ!」

梁多の表情が輝いた!


「・・・来てくれるかな?」

「大丈夫だ、絶対!で、来てくれたら押せ!押せ!押すんだ!壁ドンだ!」

「あっちの方が、背が高いんだけど・・・」

梁多は苦笑いを浮かべていた。


翌日の朝、満面の笑みを浮かべている梁多に引きずられて廊下に出たら、

耳元に口を近づけてきた。


「き、昨日、一緒に服を買いに行かないって誘ったら、すぐに行こうってなって、

そ、その~」

「えっ、もう付き合っちゃってるの?」


「うん、壁ドンされて、キスされちゃった!」

梁多は可愛らしくモジモジしていた。


「早!まあ、どっちからでもいいんじゃない。二人が幸せならOK、OK。」

「ありがとう。お前のおかげだよ。」

梁多がニカッと笑顔になった。


休み時間は普段どおりだったのだが、昼休みに異変が起こった。

千家が梁多に席をくっつけてきたのだ!

いつもは、千家は女子と、梁多は俺と二人で食べていたから、

クラスメイトからの注目を浴びている!


「妃鞠も来てよ!」

!!!

千家が誘うと「いいよ~。」とお気楽な返事とともに笑顔の妃鞠がやって来た!


よく妃鞠は千家と一緒に食べていたけれど、こんなに上手くいくとは!

ああ、お稲荷さま、感謝申し上げます!


四人で席をくっつけたら俺の横は妃鞠だった。き、緊張する!


「二人も幼なじみなんでしょ?」

千家がいつもより大きめの声を出して、俺と妃鞠を見比べた。

周りの野郎どもの視線がますます痛くなってきた。


「うんうん。3歳から保育園で一緒でね、

・・・錦野くんはよく泣くもんだから・・・」

「あ、あの、そのぐらいで・・・」

「ええっ・・・」

なんとかピースケの件は阻止出来た。


すぐに千家も梁多も俺たちに興味をなくして、

二人の世界に突入して、週末にどこ行こうかってニコニコと話し始めた。

千家。お前、梁多以外に興味なさすぎだゾイ!


妃鞠が弁当箱を開いた!カラフルで美味しそうだ!

「美味しそうだね。・・・その弁当って誰が作っているの?」

「家事は週末がお姉ちゃんで、平日は私ね。」


そう、妃鞠のお母さんは俺たちが中学に入ってすぐ、

病気で亡くなってしまったんだ。

で、お父さんは小さな鉄工所の社長で、昔気質のお父さんってカンジだ。


「自分でつくったの?毎日だよね?凄いね!それに朝、夜と食事を作って、

弁当までって・・・」

「残り物と冷凍食品を詰め込むだけよ。冷凍食品もかなり美味しいから

結構使っているし。」

「でも凄いよ。なんか玉子焼きがめっちゃキレイ・・・」


そっけなかった妃鞠の目がキラリンと光った!

「・・・食べてみる?」

「いいの!じゃあ、いただきます!」


返事を待たずに妃鞠の弁当箱に箸を突っ込ませ、玉子焼きを口の中に放り込んだ。

「うん、美味い!・・・あれっ、ううん?」

「どうかした?」

妃鞠が心配そうな顔になった。


「いや、すっごく美味しいんだけど、なんか食べたことある、

懐かしい味かなって・・・

そうか、妃鞠のお母さんの玉子焼きと同じ味なんじゃない?」

「ホントに?やった!幸介、ちゃんと覚えていたんだね、えらい、えらい!」

はしゃいだ妃鞠が超まぶしい!


メチャクチャ綺麗なのに、仕草や色んな表情が可愛い!

それに、それに、久しぶりに幸介って呼ばれたよ!やったぜ!


その他の男どもの視線がますます痛くなった。

まあ?気にしないけど?むしろご褒美?


千家が不審そうな目を向けた。


「・・・何?まさか、アンタたちも付き合いだしたの?」

「いやいやいや、思い出話ってだけだよ?

小学校のころ、妃鞠の親が、俺と妹を何度も遊びに連れて行ってくれたんだ。

その時に、妃鞠のお母さんの弁当を何度もいただいてさ・・・」

「ふ~ん。」

あっ、妃鞠って言っちゃたよ、怒ってないかな?


妃鞠が楽しそうに俺に話しかけてきた。

「莉子ちゃんは来年、受験なんでしょ?」

「うん、この学校を受けるってさ。」

「うんうん、相変わらず仲いいんだね。」


「違うよ。ここの制服が一番お気に入りで、

さらに妃鞠がいるから目指していたのに、

そのうえ、葵ちゃんも来たもんだからさ、メチャクチャ頑張って成績急上昇だよ。」


「うんうん、でもお兄ちゃんがいるからって恥ずかしくって言えないよ。」

「こーすけって呼ばれているけどな?」

「幸介が惚気ている!」


・・・うおお、楽しすぎる!

ありがとう、お稲荷さま、一生ついていきます!

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