第3話 『強くなった方がいいんじゃない?』

次の日の朝、目覚ましがなる前に、目が覚めたら6時前だった。

父さんもお母さんも休みなのでまだ起きてはいないようだ。


慌ててロト7を探して見つけてほっとした。

そして今度は、朝刊を取りに行って、宝くじの当選番号の記載を探す。

「05、06、09、10、17、18、29、・・・

あた、あた、あた、当たってるぅ~」

小さく叫んで、小さくガッツポーズした。


「よし、お礼に行こう!」


俺はコンビニで油揚げを買って、お稲荷さまへ向かった。

朝日に照らされているお稲荷さんにはアライグマもお婆さんもいなかった。

だけど、昨日はドヨンとしていたお稲荷さまがなんか神々しく見えた。


俺は油揚げをお供えして、二礼二拍手一礼した。

「ありがとうございます!宝くじ、当たりました!人生変わりそうです!」

『がんばれ!』

頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調でアナウンスがあった!

がんばれってなにを!

ふと左を見てみたら、昨日のお婆さんがいる!

「うわぁ。」

「ご挨拶じゃゾイ。」

「ああ、おはようございます。」

ぺこりと頭を下げたが、お婆さんはニコニコと笑顔のままだった。


「おはようさんゾイ。

感心、感心。ちゃんと油揚げを持ってきたゾイ。」

「はい。お告げ?を頂いたお陰・・・」

「ストップ。」

「えっ?」

「何をあったか知らぬが、お稲荷さまとお主の間のやり取り、

誰にも知られてはいけないゾイ。」

ニコニコ笑顔は変わらないが、その細い糸目は真剣なものだった。


「わかりました。誰にも話さないようにします。

話は変わるのですが、しばらくは毎日、お参りしたいのですが、

お供えは何がいいんでしょうね?」

「おおぉ!感心、感心!

そうじゃのう~、まずお神酒」

「高校生なので買えません。」

「そうか。じゃあ、ビール、ワイン、焼酎、ブランデー・・・」

俺が首を横に振り続けたので、お婆さんは精いっぱいの妥協案を叫んだ。


「第3のビールで良いゾイ!家にあるゾイ?ちょっと拝借、晩酌したいゾイ。」

くだらね~。


「それ以外でお願いします。」

「むう!しょうがない奴ゾイ。

じゃあ、お主が毎日、持って行っている弁当で良いゾイ。」

「えっ、お弁当でいいんですか?」

「ま、良いゾイ。」

お弁当がない日は、油揚げ、果物、そしてお神酒。」

「分かりました。明日は果物にします。お酒は20歳になってから。」

「先が長いことじゃゾイ。」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


一昨日、昨日のお告げでは『がんばれ!』って出た。


何を?って感じだったけど、高校生なので、勉強を頑張ってみた。

俺はクラブやってないからね。

まあ、3億当たってフワフワしていたけど・・・


月曜日の朝、俺は稲荷さまにお弁当をお供えした。

『強くなった方がいいんじゃない?』

頭の中で鐘の音とともに詐欺師っぽい口調でアナウンスがあった!


疑問符って、いいんじゃないって何よ、何なのよ!

まあ、いいけどさ。突っ込まずにはいられないよ。

今日も緊急性はなさそうだ。


「ほうほう、なかなか美味しそうな弁当じゃゾイ。」

「うわぁ!」

「・・・そろそろ、慣れるゾイ。」

「・・・はい。行ってきます。」

「おう、気を付けて行くゾイ。」


弱いままでも良さそうだけど・・・

でも、このお告げ、僕は信じるよ!


登校すると前の席の友人、梁多健太が声を掛けてきた。

「おは!なんか、珍しくご機嫌だね?」

「おはよう。いつも通りだと思うけど。」

「いやいやいやいや、今もニコニコ笑っているよ?」

「えっ?マジ?」

俺が頬をグニグニとしていると、梁多はうんうんと肯いていた。


「そういえばさ、格闘技習ってみようかなって思うだけど、

この近くに何があるのかな?」

「???不思議なこと言うね。柔道したい!

ボクシングしたい!とかじゃないんだ。」

「・・・そうだな。体を鍛えたいんだ、格闘技で。」

「じゃあ、この学校の近くに、ボクシングジムとキックボクシングジムがあるよ。」

「ありがとう。一度、見学に行ってみるよ。」


梁多は俺をマジマジと見つめていた。

「幸介、なんか変わったね。」

「男子、三日会わざれば、刮目して見よってやつ?」

「ふふん。僕の勘違いじゃないようにせいぜい、頑張んなよ。」


両方とも体験した結果、より道場が綺麗で、

道場主さんが優しそうだったキックボクシングジムに入会することにした。


挨拶して、指導のもと1時間ほど体を動かしてから休憩していると

若い男が近寄って来た。

俺の隣でサンドバッグを蹴っていて、俺の倍くらいの音を出していた人だ。

「錦埜って高校生?」

「東校の2年だけど・・・」


「やっぱりな。何となく見たことあったんだ。俺は3年の朝居っていうんだ。

よろしくな。」

「よろしくお願いします。凄い音させてたけど、何年くらいやっているんですか?」

「高校に入ってからだよ。」

「それであんな音が出せるんですか。

・・・ここで頑張ったら俺も強くなれますかね?」

「やっぱり実戦が一番大事らしい。スパーリングはやったけど、超怖いぞ。」

朝居先輩はニカっと笑った。


まだ、宝くじが当たったこと、誰にもバレていないけど、

金をタカられても断固拒否できるよう、頑張って強くなろう!

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