17「どうにも解析不可能だねえ」


 無事に朝を迎え、有り合わせの朝食を食べてから、僕と銀君、鐘馗しょうきさんと木花このはさんはすぐに出発した。

 ボルテさんは目を覚まさない調査員の護衛をするため残ってくれている。鐘馗しょうきさんが護衛は自分一人で十分だと言ったのだけど、木花このはさんは心配だったみたい。何がと口にはしなかったけど戦力的な意味ではなさそうだよね……。


 天然の森であれば、こんな軽装で探索などできないだろう。施設という性質上なのか、草に覆われた道があって思ったよりも歩きやすい。

 木花このはさんが張った魔除けが効いているようで、うごめく植物が襲いかかってくることはなかったけど、銀君たちが見たという『謎のこぶ』は歩いて行く間にも幾つか目にした。

 そのうちの一つに分析魔法をかけた木花このはさんが、を曇らせる。


「どうにも解析不可能だねえ。恐らくあの塊そのものが何らかの魔力でコーティングされているんだと思う」

「斬り開くか?」

「駄目ですー。ボルテもいないのに、対処できないモノが出てきたらどうするんですか!」

「斬り伏せるが?」


 かよ、だったわ。と木花このはさんは小声で突っ込み頭を振った。

鐘馗しょうきさんの刀は見るからに銘刀というか特別製のようだから、死霊系のような実体のない相手でも斬れそうではあるけど、例えば蜂の集団とか毒の胞子とかが飛び出した場合はそうもいかない。


「中枢地点に行けば、あのこぶの正体もわかるかもしれませんし、それから対処を考えてもいいと思います」

こうくんもこう言ってるし、さっさとその物騒なワザモノは仕舞ってくださいねえ」


 致し方無しとでも言いたげに鐘馗しょうきさんは刀を仕舞う。しわの刻まれた眉間と引き結んだ口元は、不満を飲み込んだと言うより不安をこらえているようにも見えた。

 鐘馗しょうきさんは昨夜のボルテさんの話を受けて、中に人が囚われていると考えているのかもしれない。クールで達観した武人という見た目の印象に流されがちだけど、彼がとても優しい人だというのは僕にも薄々わかってきている。


「そろそろだよー」


 先導していた銀君から声が掛かり、全員の間に緊張が走った。鐘馗しょうきさんが足を速め、銀君の隣に並ぶ。その後ろを僕と木花このはさんが追いかけた。

 立ち枯れた木と倒木と絡み合う木の枝が無造作に積み上がり、行く手を阻んでいた。銀君はその隙間を器用に通り抜け、僕らを案内していく。

迷いなく進むってことは、昨日のうちにこの向こう側をボルテさんと確かめてきたってことだよね。いつもながら行動力がすごい。


 不自然とも思える障害物を抜けた先、ようやく開けた場所に出た途端、広がる光景を見て僕らは絶句した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る